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20ー②

 そして、ため息みたいな相づちをうつ。


「ハァ……」


 店長は莉亜の態度に動じる事もなく、彼女を初めて見た時から、考えていた事を口にする。

 

「あのさ、時給1250円出すから、バイトしないか?」

「1250円ってホントですか――――」


 我を忘れて思わず時給を絶叫したが、ハッと我に戻る莉亜。


「ってまたまた、あれ――でしょ? どうせ、怪しいバイトに決まってますから、お断りします」

「怪しいバイトっ?」


 呆れたと言わんばかりの顔を露骨にする雇われ店長。

 

「なに言ってるのか。普通のバイトだよ」

「普通にしちゃ、自給良すぎないですか?」

「言っとくけど、いかがわしい、そんなバイトなんかじゃないからね」

「ホント~ですか?」


 そう言った後の莉亜の目が、思いっきり疑わしい物を見る様に店長へ注がれた。その目に応える為、彼はマジな顔で彼女に答える。


「ああ、もちろん。誓ってそんなバイトじゃないよ」

「一応、訊きますけど、どんなバイトなんですか?」

「メイドカフェって聞いた事ぐらい、もちろんあるよね?」

「もちろん、ありません」


 莉亜がキリっとした顏で言うと予期しない答えが彼女から出た。

 それに合わせたように店長の肘が右にスライドする。顏の支えがなくなった彼は上半身がガクっと動いて、体制を崩した。その体制を立て直しながら、今も莉亜の返答が信じられないでいる。


「あれ、聞いた事ない?」

「ない……ですね」 

「ああ、そう」

「めいどって、家政婦って意味ですよね?」

「ああ、もういいよ。話がややこしくなるから、君は少し黙って聞いてくれるね?」

「はぁ――――――」


 莉亜が覇気のない返事をしたが、それには触れず、店長は説明する事を選らんだ。


「よし、それなら一瞬で説明するから聞き逃さないように」

「はぁ――――」

「簡単に言えば、家政婦型ウェイトレスだよ。そこからそれぞれにイメージに合ったキャラがあってだな――――――」

「ストップ! 全く話が見えてこないんですが……」

「だから、それぞれなりきったキャラで接客してもらうんだよ。わかった?」

「わかったような、わからないような……」


 莉亜の煮えきらない態度に、業を煮やした店長が、突如、その場を立ち上がる。


「もうね説明してもわからないなら、見学するといいよ」

 

 店長は莉亜が有無を言わぬ間に、扉を開けた。そして、彼はボー然と座る彼女を扉の方へうながした。

 椅子から立ち上がった莉亜を、何とも言えない顔で店長が待ちわびている。


◆◇◆◇◆


 店を案内されているうちに、ちゃっかり仕事内容も把握してバイトの契約をする事にした莉亜。そして、契約の話を終えた彼女は、超ご機嫌でメイド喫茶カフェから外に出るのだった。


 莉亜が空を見上げるとちょうど雨がやんでいた。雲一面に覆われていた空に赤々と燃える太陽が沈みかけている。沈ずむ夕日を眩しそうに彼女は見つめた。太陽の照り返しの光が強くて思わず目を伏せたら、思わぬ人物が視線の先を通り過ぎて行くのだった。


「あれ? あの男の人は――――」


 視線の先には楽しそうな雰囲気の龍之介と見知らぬ女性が目に映った。(※第7・8話参照)

 女性の服装は大人かわいいファッションに包まれ、エレガントの中にも可愛らしさと上品さがある。ストレートでサラサラとした長い髪が特徴的。細身の身体で歩く姿が、まるでモデルのように姿勢が美しい。

 思いがけないくらい美しい女性に、莉亜の視線が釘づけになる程だった。


「――――――綺麗な女性ひと……にしても、嬉しそうな龍之介くん」


 本人は気づいていないらしく、莉亜は道のストライクゾーンに突っ立たままだ。それはそれは通行人が邪魔そうに彼女の前を通り過ぎてゆく。その瞬間、力いっぱいに自分の首を左右に振った。


「てか、別にあたしには関係ないしね」


 莉亜はそう自分に言い聞かせるが、彼女の行動はすこぶる通行の迷惑になっているのだった。


◆◇◆◇◆


「ただいま~」


 勢いよく玄関を開けた莉亜は引っ越してきて以来の大声で叫んでいた。すると、その声に反応した良人が玄関先まで彼女の顔を見に来た。


「片瀬さん、お帰り。すごくご機嫌じゃん」

「うん、わかるぅ? 良人くんだけに教えちゃおうかな」

「何、何?」

「うん、実はね――、」


 莉亜は自分より幾分か背の高い良人の耳へ向かって背伸びした。当然、ここの住人の他3名には聞かれたくなかったので、無意識にヒソヒソ声で話す。そして、今日あった出来事で一番驚くニュースを、信頼できる良人へ話した。


「えっメイド喫茶でバイトぉぉぉ!」


 驚き絶叫する良人。

 焦った莉亜は良人の口を声が出ないようにふさいだ。彼もその流れに従って声を出すのをやめるのだった。

 莉亜が人差し指1本を口の前に立てると良人を軽くにらんだ。


「良人くんっ声大きいよ。しっ!」

「ごめん、ついね、つい」

「も~他には聞かれたくないんだから」

「ごめんごめん。でも――――――本当に?」

「うん」

「そっか、それは良かったじゃん」

「あっでも他の人には内緒だから。良人くんだから教えたんだよ」

「わかったよ」


(そう言われるとなんか特別な感じが――――)


 莉亜の言葉に自然と口角が緩んだ良人。そして、今までの話をプレイバックした。彼は再び、ハンパなく顔をニヤつかせる。


(――――待てよ、メイドって事は結構かわいい制服着るよな~っきっと片瀬さん似合うだろうな)


 良人の善からぬ妄想は、彼の顔を好青年とは別の顏へと変貌させていた。

 莉亜が気づいた時には放送事故スレスレ的な顔になっていた。

 

「良人くん……」

「何? 遠慮せず言ってくれていいよ」

「なんか……すごく顏――――やばいよ」


 莉亜の言葉で自分がどんな表情をしていたのかが分かった良人。急いで自分の顔を整えてから再度莉亜の方を見る。そこには彼女の姿は既になく、階段を上機嫌に駆け上がる姿があるだけ。それに加えて、彼女の自分への無関心ぶりときたら泣ける程だった。


 良人は莉亜の後ろ姿をやるせない瞳で見つめる事しかできないでいる。


「な~にがっ内緒だって」


 ひやかす様な口調で良人の背後に現れる。

 良人が背後を振り返ると、相変わらず冗談めかした話し方しかできない祐大がいた。

 ものすごい悲しみで背後を取られた事に、それまで全く気づかなかった良人。祐大が突然現れた事で、バツの悪い顏の表情を隠しきれないでいる。


「いやっ……別に、何も――――――」


 良人が動揺した態度をとると、どうやら彼の態度に手応えを感じ取る祐大。


「何隠しってんだよ。よ・し・と・くん」


 気色の悪い声を出し、引きつった表情の良人の首へ、腕をまわして力に物を言わせる祐大。グイグイと首を絞めて身動きができないようにホールドするのだった。

 無慈悲な祐大のせいで、なすすべがない良人は首を絞めあげられると、意識が落ちかけるのを自分でも感じるのだった。

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