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第2話 とめられない時間

 片瀬莉亜はつくづく思った。あの両親を信じたのが悪かった、とそう思いながら、携帯とにらめっこの後、肩を落とすのだった。

 遠い目の莉亜は携帯片手に、ふと、数日前の事を思い出す。あんな事にならなかったら、今空港にはいないし、まして、日本に行く事もなかったのに、と怒りがこみ上げる。


(やっぱり行くのやめようかな……)


 往生際悪く、そんな事を考えている莉亜は、再び携帯をいじりながら両親からのメールを黙読した。


『日本にさえ着けばきっと大丈夫。 パパの友人の家でも君ならうまくいくよ。

ママも健闘を祈るわ。と言う事だから、遠慮なく日本の生活を エンジョイしなさい。

パパ達もその内日本へ行くよ。


P.S 言うの忘れてたけど、 向うの家のご両親はご不在なの。

ご兄弟だけで今住んでいるのよ。きっと素敵な出会いがあるわ』

 


 メールを読み終えて携帯を閉じた莉亜。携帯を力いっぱい握り締める――――これでもかっと言うくらいに。身体がフルフル、小刻みに震えるのが自分でもわかった。 


「そう言う事は前もって言ってほしいよ……また、騙されたぁぁぁぁ」


 大勢が行き交う空港のロビー中心で、ひとり絶叫する莉亜。

 周囲の旅行者やら、ファミリーにビジネスマン達はギョと驚いたようだ。異常者にでも出会ったかの様に彼女の周りをそそくさと避けて通り過ぎてゆく。

 莉亜の近くにいた親子づれの子供が、母親に向かって、こんな事を不思議そうにささやく。


「あのおねぇちゃん、大きなお声だね~ママ」

「こらっそんな変な人指差しちゃいけません!」


 親子の会話が耳に聞こえてきた。莉亜は我に戻ると身体全体の体温が急上昇中。


(は……恥ずかしい)


 身体の火照りがおさまらない内に、搭乗手続きのアナウンスが搭乗ロビー全体に響くのだった。


「どうしよう……あたしの乗る便だ」


 戸惑う莉亜はその場でオロオロするばかりだった。


「連絡はしたのに。学くん、どうしたんだろう―――――――」


 高原学の事を思って心配と不安が募る莉亜。何度も周囲を確認するが、刻一刻と時間は過ぎて行く。妙に時間が早く過ぎる感覚に襲われていた。


(もう、どれくらい、時間が――――経ったかな)


 今過ぎた時間の倍は過ぎた様な気がした。もはや、時間の感覚が完全に麻痺している、と感じるぐらい。

 莉亜は影も形もない学の姿を、フロアから諦めずに何度も探す。それでも、彼の姿はなく、とうとう足元の荷物を掴んだ。限界時間まで、ギリギリ待っていたが、搭乗手続きへ向かうのだった。


 莉亜が搭乗手続きを終えた丁度その時、空港のロビーに姿を現した。その人物こそが付き合って1カ月のハツカレ、高原学。

 学が今まで姿を見せなかった理由は、昼前に受けていた講義の時刻にまでさかのぼるのだった。

 

◆◇◆◇◆


 レトロな雰囲気を持ったレンガ造の建物がドッシリと建っている。

 ここは、莉亜が通っていた大学。


 とある講義室では30代後半の男性が大勢の人の前で、黒板に小難しい事をスラスラ書いては説明している。

 大学生たちがノートへと真剣に書き写すのだった。

 講義室には講義を受けている真面目な学の姿もある。

 そして、隣にはご機嫌な様子の藤堂由香が座っていた。


 しばらくすると、ソワソワする学を由香が横目で様子をうかがいみる。何度も時計を見て、落ちきのない様子。

 ご機嫌だった由香の表情に異変が生じ始めていた。


 眉間のシワが文句言いたげに、ドンドン深く刻まれる。だんだんイラだつのが自分でも抑えられないくらいだった。セミロングの髪を指に絡めては、クルクルと回し、黒板を見つめる。さすがにもう学の態度に堪えきれい様子の由香。

 そして、ジッと前を向いたまま由香は何食わぬ顔でものを言うのだった。


「あのコなら……もう、雲の上よ」

 

 予期せぬ言葉が由香の口から、意表を突いて飛び出した。


「それって、時間が変更したって事?」

「さぁ、詳しくわからないけど――――――そうなんじゃないの?」

「なんで、授業前に教えてくれなかったの?」

「それは……」


 学の問いに一瞬言葉をつまらせたが、由香はそのまま話し続けた。


「どうせ遠距離になるんだから、今別れたほうが、楽よ」

「そんな事ない。僕たちなら、大丈夫だ。大丈……ぶ。だい、じょ――――――」


 学が自分に聞かせる為、何度も同じ言葉を繰り返すが、少しずつ声がかすれて聞こえなくなる。

 動揺する学の姿が、由香の胸を少しだけ苦しくさせるのだった。


「それにリアちゃんは、そんな人じゃない」

「彼女より、距離の問題。生身の人間に会えないと辛さだけが募って」


 学の顔を見た由香は少し躊躇ちゅうちょした。

 その間を逃さないように、学が反論に出る。


「辛いけど……でも、僕は今の気持ちを大事にしたいんだ」

「そんな気持ち、大事にしたって――――すぐに、自然消滅する」

「君に――――君にそんな事決められたくないっ見損なったよ」


 軽蔑する視線を由香に投げかける。学の中で怒りの感情が彼女へ芽生えるのだった。

 由香は自分の下唇を軽く噛んむと、ほんのわずかだけ黙ったが、学を必死に説得しようと試みる。


「それは貴方の事を考えてで、遠距離だとお互い、心も―――――きっと離れる。今なら、まだ」


 学は純粋な瞳を由香に向けると力強い口調で言いきるのだった。


「僕は信じるよ――――何があっても、リアちゃんを」

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