第19話 刺激的な季節の到来?
窓ガラスから差し込むジリジリ熱い太陽光を、手で遮ぎりながら莉亜は鈴木あかねに話し掛ける。
「また、今日も暑いね」
「あたし、ダメ。暑いの苦手」
あかねはダルそうに足をくみかえた。
スラッと白くて細長い生足に、食堂内の男子学生の全視線が注がれる。イヤラシイ視線に動じる事もなく、それどころか挑発的な姿を魅せた。
その度に食堂内で、異様な空気の中、男共の歓声がこだまする。
呆れ顔の莉亜が渋々、あかねにボソっとつぶやく。
「挑発するの、もういいんじゃない?」
「どうして?」
「どうしてって、十分、みんな注目してるしね」
「あっそ」
つまんないと言った感じであかねが、莉亜を見る。
「で、あんたは生活には慣れたの?」
「日本には慣れたんだけどね――」
「あいつらには馴染めない?」
クスっと余裕の笑みで、あかねが笑う。
莉亜は余裕な表情の彼女とは対照的な態度で応える。
「馴染めないっていうか、結構、気難しいとこあるしね」
「それは、ご愁傷様」
「なんか、楽しんでない?」
「さ~どうだろ」
曖昧な態度のあかねからは、真意がうかがえなくて、少し戸惑う莉亜。
「それより、他にもあるんじゃない?」
「えっああ。それが――――――」
持ち前の歯切れの悪さを、莉亜が発揮し始める。
「まだ……言ってないんだよね」
「彼氏に何も言ってないの?」
「――――――うん」
「言えないか、逆ハーレムで、楽しく生活してるって」
「てかっハーレムじゃないし、それに楽しくもないし」
シラっとした態度で莉亜が真顔で答えた。
「冗談なんだから、マジになんないでよ」
「他人事だとおもって」
「ってか、マジ他人事じゃん」
不真面目なあかねの言葉に、莉亜はプクッと頬を膨らまる。あかねをジロッと睨んだ。悪意のこもった視線で見ても、彼女は動じる事もしない。
「んっ? 他意はないから」
そう言って、開き直ったあかねは、ため息をつく莉亜に冷笑してみせた。
「あ~あ。あたしも日本にいると、性格ねじ曲がりそうだ」
「なんで?」
「良人くん以外はみんな性格が超絶にねじ曲がってるから」
莉亜の冷めた目を見ても何も感じていないあかね。それどころか眉ひとつ動かさず彼女の瞳を見据えた。
「それは――――ありがと」
「てかっ全然ほめてないし」
嫌味を言っても、まったく相手に通じなくて悔しい莉亜はブーたれるのだった。
勝手にイジける莉亜をよそに、あかねが誰ともなく、小さな声でつぶやく。
「あいつら程……ねじ曲がってない――――――つもりだけど」
ひとり言を言い終わるとあかねは複雑な表情を浮かべた。そこへ休憩終わりのチャイムがなるのだった。
「講義があるから――――」
「うん、また」
ふたりは一緒に食堂を出ると暑い陽射しの中、それぞれ別れた。
莉亜は大学を出てから、駅へと向かうと、最近通い慣れた駅に到着する。そのまま改札を通り、ホームで電車が来るのを彼女は携帯をいじりながら待つ。時間が5分くらい経過すると、ホームに電車が現れた。
電車に乗り込んだ莉亜は、車窓から通り過ぎる景色を目的地まで、暇つぶしに眺めるのだった。
「ただいまー」
莉亜が玄関を開けて、榊本家に上がるのだった。自分の部屋には戻らず、そのままキッチンへ。シンクで水を汲んでから、飲む。何の前触れもなく、上半身セミヌードの祐大が、目の前に現れた。
ゲホゲホと咳き込む莉亜。まさか、裸で現れるとは思っていなかったから、驚ろくのだった。水が器官の方に入って、苦しむ彼女の口から、水が勢いよくとび出し、噴出す。
「きったねーな、何出してんだよ」
「あなたがいきなり裸で出てくるから、ちょっと」
「ちょっと、なんだよ?」
口の周りを手で拭う莉亜は、腹筋の割れた祐大の身体を見ないように視線を彼から外す。
「――――別に、何も」
「さい、ですか」
「あのさ、この家には女の子が住んでるって事、気が付いてる?」
「女の子ね。妹だから全く気にしなかったぜ、その事には」 (※第12話②参照)
莉亜を見て、祐大がせせら笑った。そして、何かひらめいたのか、彼女の耳元で小さな声でささやく。
「ああ、悪かったな――――お前バージンだっけかな、忘れてたよ」
頬が赤くなる莉亜。あざけ笑う祐大が自分を見る。
「なっなっ――――――」
言葉にならない声を出す莉亜。後ずさりしながら、どんどん壁へと追い込まれる。
「その顔、驚いてるのか?」
「どうして――――」
「わかったのかって?」
声を出さずに莉亜がうなずく。
「普通はわかるだろ。初めてのキスがあの時ならな」 (※第9話①)
「――――――だ、ね」
ドギマギする莉亜の目の前に、祐大の顔がグンと近づく。
「あの……か、顔――――近いんですけど」
莉亜の困った顔を見た祐大はますます調子に乗るのだった。彼女の鎖骨辺りをトントンと指で突いて挑発する。
「俺も“初めて”の相手になってやろうか?」
カッと顔が赤くなる莉亜。反論するよりも手が先に出ていた。気が付くと祐大の両頬を渾身の力を込めた両手で、引っ叩いていた。
ものすごい音が、キッチンに響く。