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第18話 扱いにくい相手

「ホントに最悪……」


 莉亜がそう呟きながら、本棚にある本を無造作に取っては、片付けるのを何度も繰り返していた。その作業が終わると、手にいっぱい本を抱えたまま莉亜は本棚が陳列している列と列の間から出てくるのだった。

 今から2時間前、特別クラスの文学の教授へ出した課題にいちゃもんと言っていいくらいのレベルで、文学教授から難癖をつけられた。


◆◇◆◇◆


「ああ、で?」


 男性が表情ひとつ変えずに、莉亜へと聞き返してきた。まるで、これまで何も会話がなかったかのように。

 思わぬ男性の言動に、逆に莉亜も聞き返すのだった。


「でっとは、どういう意味ですか?」

「いや、他に言い訳があるんなら、聞くが」

「いいえ、そんなものはありません。1時間ずっとこの話をしていましたから」

「そうか、それは残念だったな。俺の時間はたっぷりあるんだけどね」

「あたしには、時間ありませんけどね」


(誰のせいよ、誰のっ。ホントに分かってんのかな、この人は)


 諦め顔の莉亜は言いたい事を、精一杯自分なりに言った――――――が、目の前で偉そうに机の上でふんぞりかえる教授には、あまり理解されていないようだ。その為か、今すぐ机の上にある“小野寺”と彫られたネームプレートをぶち壊したい衝動に襲われるのだった。


 残念ながら、それ以外の用がない莉亜。なので、ここを素直に出て行く事を決断するしかないのだ。

 莉亜が研究室の扉に向かって歩こうと足を動かし始めた時、呼び止める声。


「じゃあ、仕方がない。そんな君にミッションを与えようじゃないか」


 背中越しの声に反応して振り返る莉亜。視線の先には意味ありげに微笑んでいる文学教授の小野寺。


「ミッションですか?」


 眉間にシワを寄せたまま莉亜は、もう一度余裕な顔で座っている小野寺教授へ聞き返した。


「ああ、そうだ。特別なミッションだ、君だけのね」

「そんなミッションいりません。今回のをちゃんと評価して下さい」


(ってか、1時間前から、もう何回も言ってるじゃん)


 小野寺教授に随分と前から、莉亜は嫌気がさしていた。

 心の奥で彼にうんざりしながら、何度そう突っ込んだのか――――――それでも彼は自分の心を察してはくれないようだ。今だ訳わからん事を自分の目の前で話している。


「ダメだね。ちゃんと、このキスされた女がこれからどうなっていくのか、続きを書きなさい」

「でも、この課題の物語は終わりなんですが――――」


 莉亜も必死に小野寺教授に食らいつくが、それ以上に彼の方が上回っていた。

 まるで、すっぽんのように噛みついたら離さないと言った感じで、どうしたら分かって貰えるのか、見当もつかないのだ。彼はそんな学生の気持ちを汲み取らず、今も尚、彼女にとって不毛な会話を続けるのだった。


「だろうね。俺には何が書きたいのか全く理解はできないが」

「理解できなくても……それにこれは課題のページ数をちゃんとクリアしてますし、完結も」

「いや、勝手に完結させただけだろ? 何も始まってないのに完結するのがおかしい。だから、書かないと課題はクリアにはならない」

「そんなの横暴過ぎますっ!」

「君、物書きになりたいんだろう?」


 言葉の代わりに、小さなうなずきで応えた莉亜。


「なら、書け」

「んな無茶くちゃ――――――」

「書くのか? 書かないのか?」

「書きます、書きますよ……書けばいいんでしょっ」

「よしっ素直でよろしい」


 ヤケクソ気味の莉亜を見て、小野寺はなんとも嬉しそうに微笑んだ。

 莉亜には微笑む小野寺が悪魔に見える――――――彼のドSっぷりにはさすがにもう降参するしかない、と痛感した。

 莉亜の心の内を知ってか知らずか、小野寺は話を進める。


「課題の提出期限は気にしなくていい、俺が納得できる物を提出しろ」

「わかりました――――――あの……そこまで横暴だと――――いつか、クビになりますよ?」

「ならないね、今のところは。まぁ、君の忠告はそっと胸の奥にしまっておくよ」

「ものすごくいい性格してますね」

「ありがとう、君みたいな学生によく言われるよ」


 今に至る2時間前の悪夢を思い出すと、莉亜は改めて気分が悪くなるのだった。

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