15ー②
「っいや……ほら、俺もその方が全然いいと思うよ」
「その方が、全然いい?」
不可解そうに莉亜が見る中、身振り手振りで誤魔化そうとする良人。
「えっ? それはほら、色々と――――」
不思議そうに良人の言葉を莉亜は繰り返す。
「色々と?」
「それよりもほら、野郎がいる家に女の子が下宿するわけだから、俺にも言いたい事はわかるよ」
「ありがとう。お互い兄妹って思って住む方が、気楽だと思うんだ」
「そうだね、いい考えだと思うよ」
良人はそう答えると、さっきのふたりを思い出した。
(これ以上、片瀬さんに何かあったら――――)
今日もふたりの間には、間違いなく自分の知らない事があった。いつも何かにつけて龍之介は、一歩も二歩もリードしている。彼女の事にしてもだ。その事を思うと、龍之介に対して、そろそろ焦りを隠せないでいる。
良人がそんな事を考えているとは思いもしない莉亜。
「ホントにありがとね、良人くん」
そう言った莉亜の顔を見る良人。彼女のホッとしたような表情と微笑みに、複雑な心境になるのだった。
「俺は何もしてないよ」
「ううん、良人くんはとってもいい人で、頼れる存在だよ。今のあたしにとって」
莉亜が言ったその言葉で、良人は一層切なくなるのだった。それでも気づかれないよう、なるべく平静を装った。
「そっ? よかった――――それは」
(俺はいい人……で、頼れる存在、か)
何も気づかない莉亜から見つめられると、辛くなるのだった。なぜなら、現時点で彼女の中では、いい人以外の思いを自分にもち合わせていないからだ。
この瞬間、良人は何か答えを突き付けられた気がした。
「どうかしたの?」
と、莉亜は顔色悪くぼんやりと立つ良人の様子が心配で声を掛けた。
「えっ――――何が?」
「なんか、元気なさそうだから」
「何もないよ。ちょっと疲れたのかもしれないね」
「あたしを探してたから。ごめんね、大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫」
「なんか顔色よくない感じだけど、ホントに大丈夫?」
何度も心配そうにたずねる莉亜。
一瞬、思考が止まった良人は自分の気持ちを悟られないように、急いで莉亜から離れようと決意するのだった。
「ああ――――そうだ、俺講義があるんだった……行かなきゃ」
「待っててもいいかな……あたし?」
子供がねだるような愛らしい顔で、そう言ってから良人を見る莉亜。その顔がたまらないのだ。
良人がまた彼女を愛おしく想うには十分過ぎた。
(ダメだ――――今は一緒にいるのが辛いと思ったけど、そんな顔されたら)
莉亜の事を放っておけない気持ちが、また自分の中でどうしようもなく芽生えるのが、良人自身わかった。
「うん、待っててくれるなら」
「よかった。それじゃあ、待ってるね」
「うん。向こうの建物に食堂あるから、そこで待つといいよ」
「色々とありがとね」
「――――うん」
「講義、頑張ってね」
良人を元気づけようと、ガッツポーズをそう言って莉亜がした。
それを見て良人は痛感する――――――無邪気に微笑む彼女の笑顔がやっぱり、自分の元気のもとになるんだと。