第15話 焦るココロ
「片瀬さん!」
名前を呼んでから、良人が、莉亜の方へ駆け寄ってくる――――心配そうな顔で。
莉亜は今の顔を良人には見られない様に、視線をなるべく彼から外した。
「何かあったのかなって、思ったから」
「ううん、大丈夫」
莉亜はそう言って、目の前のガラスドアを開けて、キャンパスに出る。
後ろを心配そうに、良人がついて行くのだった。
ふたりはキャンパスの石畳の道を並んで歩いていると良人がチラチラと莉亜の様子をうかがい始める。
何も話そうとしない莉亜の真意がどういうものなのか、気になって仕方ない。
堪えきれずに素直に気になる事を莉亜に聞く。
「あの、大丈夫って――――何かあったの?」
「あっえっと……あったわけじゃないんだけど」
「じゃあ、何も?」
「……何もなかったわけでもないかな」
「なんでも困った事あるんなら、俺が力になるから」
「うん、さっきね……」
良人の尋問に言葉を選ぶ莉亜。少しの間をおいて、大事にならないように話す。
「――――なんかファンクラブっていう人たちが現れて」
「やっぱり……か」
良人が聞こえるか聞こえないくらいの声に反応する莉亜。
「――――ん?」
「いや、ひとり言だから、気にしないで」
「う、うん……」
「さぁ、遠慮しないで、話してくられれば力になるよ」
「うん……ありがとう。あのね、彼女たちとあたしの間に誤解があったみたい」
「それで?」
良人はどうしても話の先を急がせたくて、ついにはフライングする。
莉亜が話をしているのに口をはさむ良人。
少しだけ話が詰まりそうになる莉亜だったが、落ち着いて話を続けるのだった。
「えっと……それで誤解があたんだけど、その事はなんとか収拾ついたから――――――大丈夫」
「――――そっか」
良人は莉亜の話からすると、収拾したのは、さっき一緒にいた龍之介だろう、と想像がついた。
「それで、そのあとは?」
「あとって?」
莉亜がそう言って良人の方に顏を向ける。彼は困った顔でしきりに自分の頬や顎を触り出した。
「いや――――他にも、何かあるんじゃないかなって」
良人の様子に歩くのを止めた莉亜。
連れて良人も立ち止まる。自分の言葉で、莉亜が動揺したのか、すぐに対応できず、微妙な間が発生するのだった。
「――――――何も……ない、よ」
「それならいいんだけど」
曖昧な莉亜の態度でますます龍之介と何かあったんだ、と思い込む良人。
莉亜は龍之介とのことを良人が勘繰っているとも知らずに、自分に対してすごく心配してくれているもの、だと勘違いするのだった。そして、彼に対してとても申し訳ない気持ちになるのだった。
「心配かけてごめんね」
「そんな事ないよ、俺なら全然いいから」
「そうだっ。ひとつだけ――――あった」
莉亜があまりにも頑なに龍之介の事を言ってくれないものだから、良人はいつしか莉亜の言動ひとつひとつに過剰に反応するようになっていた。
「何? やっぱり何かあった?」
期待する眼差しの良人は、莉亜が言う事を聞き逃さないよう自分の耳に集中するのだった。
「本当に、突然で、訳わかんない事を言うかもしれないんだけど……」
莉亜は可笑しな人間だと良人に思われないために、最善を尽くす事に。まず、いきなり話さないで、言葉で牽制した。そして、良人の反応をうかがう。
思惑通りに良人は自分に質問をしてくれるのだった。
「なに?」
ヨシッとガッツポーズしたいくらいにうまく事が運んだ。莉亜は躊躇しないで言いたい事を話す。
「あのね、あたしをあなたたちの兄妹だって事にしてほしいの」
「なに、そんな事?」
良人から想像した答えが帰ってこず、拍子抜けする莉亜。
ふたりは無言でお互いの顔を見合わせた。
良人にしてみれば、今は龍之介と莉亜の事しか頭になく、それ以外は正直どうでもよかった。それが今さっき答えた言葉に繋がるのだった。
莉亜も自分の事しかみえていなくて、良人の考えは想像する余地もなかった。さすがに反応がいがい過ぎて、言葉を失う。




