1ー②
莉亜が眼光を光らせ睨む。口で言ってもわからない両親には行動で示すのが一番。勢いよくテーブルに手をバンッと叩きつけ、立ち上がる。
「ふたりとも隠している事あるなら、今のうちに全部吐き出してっ」
拳を握り締めた莉亜はグイっと体を前のめりに突き出していた。動揺する両親を再び睨んだ。
「仕方ないわ。すべて話しましょう、パパ」
「そうだな。説明するから、まぁ、まぁ座りなさい」
父親に促された莉亜はイスにゆっくりと腰掛ける。
「どう説明すればよいのか、迷っていたのだが――」
「この際はっきりと言ってパパ」
ここまで覚悟を決めた娘に頼まれると迷う事などない、と父親はあっさりと白状した。
「早い話がこの家を出てだな、リア――――君は先にひとりで日本に行く事が決定した」
話の内容がイマイチ掴めない莉亜は、眉間にシワが自然と浮き出る。突然の事で戸惑うのだった。
「何言ってるの、パパ? 意味わかんない……し」
「君にとって意味がわからないかもしれないが、もう、決まった事なんだ」
うさん臭い話に、断固、莉亜は拒絶するしかなかった。
「やだっ!」
「やだって……」
「いきなりそんな事言われても、納得できないもん」
聞く耳持たない莉亜を、父親が聞き分けのない小さな子供を諭す様な口振りで言うのだった。
「仕方がないんだよ、リア――言う事を聞きなさい」
「何言われても今はムリだよっ」
父親はミもフタもない返事を返す娘に困り果てる。
そんな父娘をよそに、のほほんとマイペースで過ごす母親。ズズっと音を立てて、湯のみをすすり、ゆっくりとお茶を味わうのだった。
そして、くつろいでいた母親は、ふがいない父親に加勢する為、やっと、しゃべり始めた。
「あら、断っても住むとこないわよ」
「どうして? この家にこのまま住めないの?」
「いい所に気づいたね。もうこの家はパパ達のものじゃないんだ」
「――――――嘘」
「嘘じゃないわよ、ここ社宅なんだからあたり前でしょ」
あっけらかんと湯のみ片手に母親は笑って答えた。
それから父親がもっともらしい事を言い始める。
「その内二十歳を迎えるだろ。 そこで国籍を日本とUSAどちらかにそろそろ決めないと、という訳で、日本に住んでどちらかに決めなさい」
「信じらんないっ勝手にそんな事決めるなんて」
怒る娘に母親は自分の笑みを見せて、莉亜へ同じように笑みを求める。
「ちょうどいいじゃない。ねっだからそんなに怒らなくても」
「――――――まさかだけど、これにかこつけて夫婦水入らずでなんて思ってないよね?」
再び沈黙。
少しの間をおいて母親が視線を合わせない様にか、あさっての方向をみつめ出した。
「な、何言ってるのかしらぁ。後からママたちも日本に行くのよ」
「そうさ、パパ達が約束破った事があるかい?」
突然、しまりのない父親の顔が鋭い表情に変わり、娘を真剣な眼差しで見つめる。
逆に莉亜は白い目で父親をみる。表情ひとつ変えずに冷たく言い放った。
「約束は破られた事はないっ……でも、嘘をつかれた事はしばしあるけど」
相変わらず状況を把握できていない母親がサラリと的外れな答えを言う。
「子を思う親のちょっとした愛のあるお茶目な嘘じゃない」
無責任な母親の回答にワナワナと身体を震わせている莉亜。何かを溜めている様子。
しばしの間、奇妙な沈黙がながれるのだった。
そして、沈黙を破ったのは一気に怒りを爆発させた莉亜。ズイッと顔を両親の目の前に突き出す。
「どこが愛があるのっそのお茶目な嘘でね、散々苦労してるんだからね」
「まぁまぁ、落ち着きなさい」
同じ様に立ち上がった父親は莉亜の手を取ってから、真顔でヒッシと娘の手を握りしめて言うのだった。
「パパ達は神に誓って嘘はつかない」
手を握る父親はいつになく真剣。
言うまでもないが、娘は呆れた眼差しを当然父親に向けている。
誰にも気づかれない様に、ため息ひとつこぼす莉亜だった。
(ハァ――――)