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第13話 胸キュンな脱出劇

「おい、あんたら何してんだよっ!」


 男子学生がズカズカとファンクラブ集団後方から、彼女たちをかき分けてやって来るのが、莉亜の目にも映った。

 周りのうるさい雑音で、かき消されない様なデカい声と共に、太い腕が伸びて来た。そのたくましい腕がフリーになっていた莉亜の腕を掴んだ。


「こっちに来い!」


 予想だにしない出来事で、リーダー格の女性が驚いた様子。その拍子に胸ぐらを掴んでいた手が、取れる。

 隙ができたらしく一気に、莉亜は腕が現れた方に引きずり込まれるのだった。


 なにがどうなっているのか、莉亜は戸惑いを隠せないでいる。

 男子学生が戸惑っている彼女にもう一度声を掛けた。


「俺を信じろ!」


 力の入った莉亜の腕から、その言葉で自然と力が抜けていく。彼に身を任せる事にした。

 ファンクラブ集団の間をかき分け、ふたりは抜け出す。

 莉亜の窮地を救った男子学生が、急に構内の入口で立ち止まって、振り向いた。


「妹は返してもらう、それじゃ」


 得意げな表情を見せ、男子学生は口角の片方をニッと上にあげた。

 あっけにとられたままのイカレタ集団は、誰もがポカンっと口を開けたまま固まっている。

 倉庫が立ち並ぶ場所から、男子学生が莉亜を連れて走り去るのだった。

 

 莉亜は腕を握って無言で走る彼を後方から見つめる。


(この人、どこかで……見覚えが、ある――――――)


 走っている間中、バクバクと心臓が、振動するのがわかった。自分に優しくふれる風が、なぜだか冷たくて気持ちいいと、莉亜は感じていた。自分の身体全体が火照っているからか、頭がボーっとしている。


 そんな莉亜の目の前に急に建物が現れるのだった、それはキャンパスへ戻る入口。そこから構内に入って、賑やかな音がするキャンパスへ、ふたりはもう少しだけ歩く。

 しばらく構内の廊下を進み、男子学生が出口で立ち止まるとそれに連れて莉亜も立ち止る。


「もう、独りでも大丈夫だろ?」

「腕、痛いよ」

 

 莉亜がそう言って、男子学生がしっかりと掴んで今だ離さない自分の腕に視線を送ってみせた。

 男子学生は莉亜に言われて初めて気が付いた模様、自分の手が彼女の腕を痛めている事に。慌てて彼女の腕を離した。


「ああ、ごめん」

 

 掴まれていた腕を片方の手でさすりながら、莉亜は視線を外に向ける。ガラスの押しドアから、キャンパスの中心の広場が見えるのだった。

 莉亜はやっとこさ、ホッとして、ため息をついた。視線を戻すとまた話し始める。


「も、もしかして、さか――――――さかき、榊本龍之介くん?」

「えっ何? 俺ってわからなかったのか、マジかよ」


 まいったというように、呆きれる龍之介。 自分の反応とは違って、莉亜はキョトンとしている。

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