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12ー②

「どこに行ったの~? 案内役の俺はここだよ~って、もうこの辺りにはいないか」


 良人は、莉亜がイカレタファンクラブに捕獲されている頃、必死に愛おしい彼女の姿を探して、構内を駆け巡っていた。


「それにしても、片瀬さんどこに行ったんだろ……」


 良人が構内を当てもなく探していた所、ふと立ち止まって窓の外を見る。


「そうだ、もしかしたら――――」


 階段を駆け下りたら、外に続く出口へと自然と足が向かうのだった。

 外のキャンパスには学生たちが日の光を浴び、健やかに過ごしている。中には、歩きながら教科書とにらめっこする学生や、友達と音楽ツールで、音楽を楽しむ学生もいる。


 良人はそんな環境に注意をはらいながら、何度かそんな学生の前を足早に通り過ぎて行った。

 何個目かの学生のグループの前で足が止まった良人。視界の先に男女の集団が見える。他のグループよりも一段と何故か騒がしい。それが気になって、賑やかな集団の方へ近づこうとグループへ駆け寄るのだった。


 そして、集団の輪から少し外側にはみ出ているひとりに声を掛けた。


「あの、どうかした?」


 男子学生が後方の良人を気にしながら、顏だけ動かして質問に答えるのだった。

 

「っえ、ああ……それが」

「それが?」

「あまり見かけた事ない女子がね……」

「その、女の子が、どうかしたの?」


 良人の3度目の質問に躊躇をみせた男子学生。何故か彼の声のトーンが下がる。


「それが例の……あのファンクラブに連れていかれた、ら、し……く――――」


 男子学生は話ながら、言葉の最後がだんだん途切れるのだった。

 急に良人の顔をマジマジと見つめ始めた。それで何か気づいたらしく、男子学生はそれを確かめようと途切れていた声を再び出した。


「きみって――――」


 男子学生が話そうとしているのに聞く耳を持たない良人。すでにその場を後退りしていた。

 良人は男女のグループからいつの間にか離れると険しくなった表情で、キャンパスを無意識に走り出していた。辺りの建物の隙間などをうかがいながら、ひたすら雑踏の中を走る。彼は莉亜の事を思うと、いつの間にか不安な気持ちで心がいっぱいになっていた。


(まさか、あいつらが片瀬さんを――――まさかな……)


 肩を上下させる良人は息があがり、額には薄っすら汗が出る。


「あぁ~もうダメだ、少し休もう。いったい、片瀬さんどこ行ったのか」


(あいつらが、“あいつら”かもわからないし、連れて行かれたのが、片瀬さんとも限らない……とも限らないな)


 周りを見ると、人気のない倉庫が立ち並ぶ場所まで来ていた。

 ココは滅多に人が出入りしない場所。学生も講師もほとんど来る事のない場所だけに、シーンと静まり返っていた。


 数名の女性の声が休んでいた良人の耳へ、微かに聞こえるのだった。 しばらく息をひそめて、耳を澄ませた。その甲斐あって、声だけは聞こえるが会話の内容はいまいち把握できなかった。それでも、誰かがそこで揉めているのを感じ取るのだった。


◆◇◆◇


「言いたい事があるなら、さっさと言ってくれる?」


 倉庫の向こう側では、ジリジリせまる集団になすすべもなく怯える莉亜がいた。建物の隙間から覗いていた良人には、少なくとも莉亜の横顔がそう見えるのだった。


 時間稼ぎに歯切れの悪い返答をするしかない状態でいるのは、確かに莉亜で間違いがなかった。


「あたしは――――あたしは……だから、その」


 莉亜は今だ、何を言えばよいのか、困り果てていた。


(何か――――何か、いい解決策が――――――ある、はず)


 頭の中で色々考えていたら、ある言葉を思い出す。その言葉を話そうとするが、なかなか言葉がでない。何度も同じ言葉を連発する莉亜。


「あたしも、ね……あたしもね――――――」


 続きを言うのを止めて、口をつぐむ莉亜。自分の瞳を閉じると、軽く息を吸いんで心を落ち着かせた。

 莉亜の勿体ぶった口ぶりに、その場にいる全員がゴクリと生唾を思わず飲み込んだ。

 

「もういい加減にしてくれない? あたしも、なんなのよ、その先?」

「あたしもね――――――彼らの兄弟のひとりなの」


 誰も何も言わなくなった。無言のまま、みんな微動だにしなくなった。

 リーダー格の女性の顔が少しずつ赤くなるのに、莉亜が気づく。

 相手の表情から状況をなんとなく察した莉亜。肩を落とした瞬間、自分の首回りの服をリーダー格の女性が粗々しく掴んだ。


「あんたね、あたしらの事、おちょくってんの?」


 緊迫した状況とは裏腹に後方のファンクラブの集団がざわつき始めた。

 イカレタ集団の後ろの方で、男性の怒号が聞こえる。

 それは莉亜の耳にも聞こえるのだった。

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