第11話 願望と妄想
ふたりは朝食をすませて、約束通り一緒に大学に来るのだった。
大学生たちがいろんな会話をしながら歩いている廊下には、莉亜と良人の姿もある。
良人の案内で、大学構内を歩くふたり。廊下にはたくさんの学生の行き交う姿が、みんな忙しなく動いているようだ。
ふたりはそんな中、いろんな事を話しながら歩いている。
「俺たち兄弟は父親が一緒で、みんな母親が違うんだ」
莉亜は良人の話に、言葉を選びながら、探り探りで答える。
「それって――――――すごい、ね……」
「まぁね。俺は兄弟ができて嬉しかったかな」
「それ、なんとなくわかる気もする、な」
「他のみんなはどう思ってるかは、わからないけど」
「みんな、きっと良人くんと一緒だよ」
「あんな連中だから、どうだかね……」
良人は兄弟の事を考えてか、黙り込んだ。
莉亜も彼の話してくれた事を、頭の中で整理する。少しの沈黙の後に、再び話し出す。
「――――――そっか……それで、みんな同じ歳なのね」
「ああ、龍之介は親父の事よく思ってないし、双子もマイペースな奴らだから、色々苦労するよ」
「みたいだね」
莉亜と意見があったのが、意外だったのか、驚いた様子。前を向いて歩いていた良人は、無意識の内に莉亜の方を見ていた。
「もう、片瀬さんにでもわかるんだな」
良人との気持ちが、今ならよくわかる気がする莉亜だった。
「うん、なんとなく……は」
「まっそんな悪いやつらじゃないから」
「かな? みんな気難しそうな感じするけど」
「それはその通りだね」
即答した良人の言葉でふたりは思いが通じ合った気がして、お互いの顔を見合わせる。そして、笑いあうのだった。
ふたりの近くをすれ違った学生らが、迷惑そうにチラッとふたりを見る。それに気づいてすぐさま笑うのをやめるとその後は大学の話題で盛り上がった。
良人がおもむろに立ち止まったら、それにあわせて、なんとなく莉亜も立ち止まるのだった。
「もし、何か困った事とかあれば、俺に何でも相談してよ」
「うん、ありがとう」
「まぁ、頼りにならないかもしれないけど」
「ううん、そんな事ないよ。頼りにしてるよ」
「そう言ってもらえるとうれしいなぁ」
莉亜の顔を見つめると、相変わらず良人はだらしなく顔を緩ませた。
(かわいい笑顔だな。この笑顔を、俺が絶対あいつらから守ってやんなくっちゃな)
自分にとって都合のいい思い込みをする良人は、今日の大学終わりの事も、すでに妄想済み。
「片瀬さん、よかったら今日講義終わったら、俺と――――っていない」
とっくの昔に莉亜は構内を独り探索し始めていた。
都合の良い思い込みにすっかり陶酔しきった良人には、莉亜がいなくなった事に当然気づかないのだった。
「あ、あれ? 片瀬さん? どこ行ったんだろう?」
キョロキョロ構内を見渡す良人。
学生たちはあざ笑いながら、ヒソヒソ声でそれぞれ会話している。
良人を見て、中には「なんだ、あいつ」「独りでしゃべってなくね?」「キモいっつうの」など、人をバカにするような言葉もあった。その状況に耐えかねた良人は、莉亜を探す為その場から、そそくさと離れるのだった。