9ー③
3人が振り返る中、一番後ろにいた祐大が、めんどくさそな表情を見せた。
「なんでだよ?」
「そんな……話合うも何も、どうしたら――――」
戸惑いを隠せない莉亜が、良人たち3人へ助けを求めた。
「キミ達の問題だろ」
慶太の適格な答えに、何も言えなくなる莉亜。黙り込んで、うつむくのだった。
心細そうな莉亜を察してか、部屋の中に戻る良人。そして、彼女の傍に行くと優しい声でなだめる。
「じゃあ、俺はここにいるから、片瀬さん」
「う、うん。ありがとう良人くん」
会話を黙って今の今まで、聞いていたが、納得のいかない龍之介。冷たい目をして、皮肉を言い放った。
「ハッ俺は、野獣か猛獣扱いだな。そうなると、さしづめ良人はナイトって所か」
「茶化すなよ」
「別にそんな意味で、良人くんに居てもらうんじゃ」
「そんな事は、どうでもいいけど」
龍之介のどうでもいい、の一言で、心がおれる莉亜。自分がちゃんと話そうと思ったのがアホらしくなるのだった。
莉亜は近くにいた良人も含めて、ふたりをドアの方へ押し出し始めた。
「で、出てって! とにかくもうふたりとも出てって下さい」
自分の部屋から追い出そうとなんとか開いているドアの方へ押し動かす。
何もできず戸惑う良人は、されるがまま、廊下に出された。
それでも龍之介は自分でもわからないが、追い出されまいと、なぜかドアの隙間から腕を掴んだ。その細い腕が怒りで震えている。
ドアの隙間から見えた莉亜の顔がこちらを見上げる。瞳には涙が溢れ、今にも流れそうになっていた。
「この期におよんで、まだ何かしようって言うの?」
「いや、そうじゃない――――――ただ俺は」
話そうとしたが、龍之介は言葉を止めて、莉亜の腕を放す。
「俺は……何?」
掴まれていた腕をさすりながら、龍之介の言葉を繰り返す莉亜。
ドアノブから手を放したおかげで、人が入れるぐらいにドアが開く。
莉亜はドアの傍に居る龍之介を睨みつけた。その顔が見る見るうちに青ざめる。
「ぎ、ぎもぢ悪い」
「――――――何?」
「ヴっ――――――」
酒の臭いが龍之介の口からもれる。慌てて口を手で覆った。何かが出そうなのを抑える。
青ざめきった顔が再び莉亜の顔へと近づいてい来るのだった。
「まさか――――――?」
口の中で抑えとどめている物体がなんなのか、悟った。身をガタガタと小刻みに震えさせる莉亜。
「い、いやぁあああああああ!」
オカマが叫んだかのような声が榊原家にとどろくのだった。
想像していた事がいっこうに起こらないので、静かに目を開ける莉亜。おそるおそる開けた目の前には、なぜか男性の背中。自分でも何が起こったのか、わからない。
「あっあれ?」
それでもまだ、莉亜は状況をイマイチ把握できない。
口を押さえて涙を流しながら、男は――――――いや、良人が走って部屋を出て行くのだった。
気の毒そうに良人が出て行くのを見る莉亜。その先には祐大と慶太がいる。
今の騒動でふたりは彼女の部屋の前に戻ってきたらしく、祐大は他の誰よりも速く状況を、瞬時に理解する。そして、意味深な一言。
「良人に――――――するとはな」
「俺もまさか、アイツが……あんな事をするなんて」」
龍之介の口振りから、おぞましい想像が莉亜の頭に駆け巡った。それを確信に変える為か、思い切って口にする。
「ま、まさか――――――口の中に?」
「自分の口を俺に押しつけてきたから、いろんな意味で……今、口が気持ち悪いんだよ」
オエっと、今も吐くマネをする龍之介。そんな龍之介を横目に、慶太が答える。
「この部屋にもんじゃを吐くと、君が困ると思ったからじゃないかな」
「あたしが……困るから?」
「そういうバカなんだよ、良人は」
祐大が、今はなき良人の姿を思い、出て行った入口を見つめるのだった。




