9ー②
莉亜は自分が何を言いたいのか、最後のチャンスと思って、祐大に続きを話す。
「だから――――今は、襲われた……事」
「誰が?」
「あたしが、です」
「べつに、襲われてないだろ」
祐大の言葉で、莉亜は露骨に態度で嫌悪感を出した。
「その目は節穴なの、それとも飾りもの?」
「いや、むしろ……お前が龍之介を押し倒した様に見えたぜ」
「あり得ないっ! そんな風に見えたの?」
「少なくともここに居る全員、そう思ってるぜ」
「そんな――――――」
莉亜はそれ以上何も言えなくなるのだった。
祐大に好き勝手に言われている莉亜が気の毒で真面に見ていられない良人。
「ふたりがもめる前に、張本人なんだから、何か言ってあげてなよ、龍」
一方、龍之介も納得できない様子。それまで沈黙を守っていたが、良人の呼びかけで、口を開いた。
「お互い様――――だろ?」
「でも……あたしには大事な事で」
「あんたなぁ、大げさだろっ。ちょっと、口と口があたったくらいに思えよ」
「そんな……思える訳ないじゃない」
龍之介の無神経な言葉が、莉亜がワナワナと体全体を震るわせ始めた。
良人だけが莉亜のおかしい様子に気づいたようだ。
「あ、あの片瀬さん」
良人は慎重かつ刺激しないように、注意しながら話掛けたが、莉亜は涙目。
「……あな、た達は、そうかもしれないけど。あたしは――――思えないのっ!」
龍之介の代わりに祐大が問いただす。
「でっ思えないのは、なんでだよっ?」
良人はそんな対照的な祐大と莉亜を交互に見ながら、内心ヒヤヒヤした様子。
黙る莉亜にまだしつこく祐大は問い詰める。
「なんでかって、きいてんだろ? 早く言えよ」
「祐大、急かすなよ。彼女泣きかけてるだろ」
「悪かったな――――――それは」
悪いという言葉の割に、祐大は言葉とは逆の表情で舌打ちをした。
「気にしないで、ゆっくり話していいよ、片瀬さん」
「まだ――――した事ないの」
歯切れの悪い莉亜に苛立っている祐大がまた話しかける。
「だから、なにをだよ?」
「――――…・・・スを」
莉亜が聞えるか聞こえないくらいの声で話す為、肝心な部分が聞えない。
「――――――えっ」
思わず、榊本兄弟全員が声を漏らした。そして、耳を莉亜の方に向けるのだった。
「キス――――を」
莉亜のひとことで、一気にその場の空気が変わる。
榊本兄弟は、誰もが信じられない様子で、お互い顔を見合わせる。全員言葉が出ないようだ。
莉亜ひとりを除き、誰もが絶句。
誰も何も言えないかった。
重々しい空気の中、口を開く莉亜。困惑気味に声を出した、そこにいる人間たちの反応をうかがうため。
「―――――――なにか、言ってください」
「そう……言われてもな」
また、思い思いに榊本兄弟はそれぞれ顔を見合わせる。そして、祐大の口から言葉がポロリと出た。
「マジ……か、よ」
「シッ祐大!」
良人がキッと祐大を睨み黙らせる。
恐る恐る龍之介が、目の前にいる莉亜を見る。
「今の……が、まさか」
莉亜に確かめるような視線を龍之介は送るが、何も言わず、うなずくだけだった。
「んな奴……いまどき、いるか?」
祐大の言葉に慶太が、首をひねった。そして、動揺を悟られないように話しを続ける。
「さ、さぁ……俺に聞かれてもね」
「だ、だよな。俺が悪かったよ、兄貴……」
「と、とにかくこれは俺たちの問題じゃない。龍之介と彼女の問題だから」
「だな――――――」
双子が話終わると今度は良人が莉亜に話しかける。
「とりあえず、片瀬さん、龍之介とゆっくり話し合った方が――――――」
「だな。良人の言う通りだぜ」
良人の意見に便乗した祐大を龍之介が軽く睨んだ。
「お前にだけには言われたくないね、祐大」
龍之介の嫌味で、祐大がわざとおどけて見せた。 外国人の様な振る舞いで、両肩・両手を上げると、すくんでみせる。
「ハイハイ、さようですかっ邪魔者は退散すりゃいいんだろ」
そう言って、3人が龍之介だけを残して、去って行こうとしたのを、莉亜はつい呼びとめた。
「――――行かないで、下さい」
莉亜は不安げな声で、部屋から叫んだ。