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第8話 秘恋―ヒレン―

 世間が眠りについた頃、龍之介もまた仕事を終えて帰る途中だった。

 閑散とした繁華街を歩いて駅にひとり向う途中、目の前に一台の車が止まる。

 この時間には少々不似合の車。黒光した車は高級車のマークもついて、いかにもお金持ちが乗りそうなベンツだ。


 車のドアが開く。そこから美しい女性が降りてきた。彼女は上品な立ち振る舞いにブランド品を身にまとい、セレブの奥様風。あの有名な高科財閥御曹司の妻、高科ちさとだった。


「龍クン!」

「ちさとさん、大丈夫なんですか? 高科にみつかったら――――」

「大丈夫、高科が眠ったのを確認してから、屋敷を出たの」

「そっか。でも――――あの人は?」


 車のそばに居る白髪の老人に視線を向けた龍之介。

 黒い背広を来た小奇麗な老人が、龍之介の視線に気がつき、軽く会釈をする。


「あの人はあたしたちの味方よ。何も心配ないわ」

「では、奥様わたくしはさがっておりますので、御用があれば御連絡下さいませ」

「ええ、ありがとう。古谷」


 お辞儀をした古谷がベンツに乗り込むとそのまま車は暗闇に消える。

 状況をいまいち飲み込めてない様子の龍之介にちさとが説明したのだった。


「いつも彼が手伝ってくれていたのよ――――龍クンに会うの」

「そう」 


 頷く龍之介は愛おしそうにちさとをみつめ、少しピンクがかった頬にやさしく触れる。次に艶やかなくちびるへ、そっと指でなぞる。彼女の身体をグイっと、自分の方へ引き寄せる龍之介。細く頼りなさげな身体を壊れない様に包み込む。


「龍クン?」


 龍之介の腕の中で、小さく名前をただ呟く事しか出来ない、ちさと。


「ちさとさん、すごく会いたかった」

「あたしもだよ」


 ちさともまた、龍之介に応える為、彼の身体に手をまわして、同じ様に力を込めて抱きしめた。

 それから、ふたりのくちびるが重なり、息もできないくらいキスをする。お互いのくちびるが腫れ上がる程、何度も何度も繰り返し、くちびるをまじ合わせた。

 どれぐらいの時間、ふたりは抱き合っていたのか――――本人たちもわからなくなる程だった。


 ちさとは大きくて広い暖かな龍之介の胸に、うずくまり尋ねる。


「龍クン、あのあと大丈夫だった?」


 心配そうなちさとの顔に視線を落とす龍之介。


「なんで?」

 

 ちさとも龍之介の顔へと視線を移す。


「色々嫌な目にあってないか、心配で心配で」

「それで……わざわざココに?」

「――――うん」


 不安げな表情のちさとを、また強く抱きしめた。


「俺なら大丈夫だよ。ちさとさんこそ、高科に何かされてない?」

「あの後はイヤミな事言われたぐらいかな。でもね、平気なのよ」

「どうして?」


 龍之介の胸に顔をうずめるちさとが、恥ずかしそうに答える。


「だって――――龍クンに会えるから、ガマンできるのよ」

「ちさとさん……」


 ちさとへの愛おしい気持ちが抑えきれない龍之介は、抱きしめる腕の力がより強くなった。

 そんな力強く抱きしめられた腕から、悲しそうな表情で、ちさとはそっと離れる。


「そろそろ、帰らなきゃね」


 携帯を取り出して、ちさとは先程の古谷という執事に電話をした。数分後、また黒光りのベンツがどこからともなくふたりの前に現れる。

 ベンツの運転席から降りてきた古谷が後部へ。後部座席のドアに触れて、音を立てない様、静かに開けた。


「奥様、お時間が。お乗りください」

「ええ。龍クン、また会いに行くから」

「ちさとさん、高科にもし何かされたら、いつでも飛んでいくから」

「うん、ありがとう」


 古谷に催促され、ちさとはゆっくりベンツに乗り込む。背を向けて歩いて行く彼女を、今すぐにでも引きとめたい衝動が走るが、今はただ龍之介には見送る事しかできない。


 なぜなら、ある条件でちさとは高科の御曹司と結婚していたからだ。

 ちさとの父親は事業に失敗して何億という借金をしていた。その借金を返済するかわりに御曹司と結婚するという条件だった。

 それを知ったため、本来、事業を立ち上げるのに貯めていたお金を、今はちさとの為に貯めている。


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