第1話 突然の宣告
【プロローグ】
外は春晩の眩しい太陽の光が降り注ぎ、空は気持ちの良い青空が広がる。
町一番の大通りには、すがすがしい季節のため、たくさんの人々が歩いて賑わいを見せていた。
町の看板には日本語の物はなく、道路の標識や信号機の文字も英語で表示されている。
そればかりか、人々が交わす言葉は日本語ではなく英語を使って楽しそうに会話をしていた。
この事からお解り頂けただける様に、ここは日本じゃなくアメリカ合衆国の中の小さな州。
そして、小さな田舎町。
主人公がこの町で平和な日々を過ごそうとしていたところ、突然、思いもしない災難が降り注いぐのだった。
◆◇◆◇◆
田舎の町並みが残る風景にたたずむ片瀬一家のリビングで、始まりを告げた。
家族3人で食事をする古びたテーブルに優しく陽射しがあたる。窓からは爽やかな風が入り、カーテンレースを少し揺らして吹き抜ける。
「パパ、リストラされたんだ」
父親が急に口を開いたかと思えば、笑顔で思いもしないひと言。
「……っはい?」
間の抜けた声で聞き返したのはこの家の愛娘である片瀬莉亜。
生まれてからずっと暮らしているアメリカ。
入学した大学も、もちろんアメリカの大学。
今年の春に晴れて女子大生になったばかりだった。
容姿はというと両親が日本人なので、見た目からして典型的な日本人。
黒く艶やかな髪、長さはセミロングにスパイラルパーマ。メイクは口に色つきリップをするぐらいのもので、今日もまたノーメイク。 そのナチュナルな顔は今もまだ歪んだままの表情。
「今――――今、なんて言ったの?」
父親が言った事が理解できない。いきなりの出来事にもう一度尋ねる莉亜。状況を理解しようと、必死に冷静になろうと務める。
朗らかに笑みを浮かべた母親が、状況の把握できない娘に極めて重大な事をあっけらかんと言ってみせた。
「そうなのよ~リアちゃん。パパどうやらリストラされちゃったみたい」
「って、そんな朗らかに、なにっこの状況を説明しちゃってるのっ! ママっ」
莉亜の元々大きくて丸い瞳が、一層でかくなる。両親をキッと睨んだ。
「あら、何そんな怒ってるのかしら。お顔が恐いわ」
母親は娘の気持ちなんかお構いなしの様子。
父親も莉亜を気にも止める事無く、最愛の妻に愛想よく相づちをうった。
「そうだね、ママ」
「って、失礼ね!」
莉亜が、いい加減な両親に突っ込んでも、ふたりは平気なご様子。
「リアちゃん、そんなに怒っちゃダメよ」
「スマイル、スマイル」
父親がそう言って、自分の口角を上げてみせる。
ふたりの態度が理解不能に達している為、莉亜は理解に苦しむ。呆れ果て、ため息をついた。
「もう――――」
お気楽な両親に一喝しても、まったく効果なしの現状に、不安げな莉亜。
「それよりもこれからどうするの?」
「あらっ今度はそんな事」
「そんな事って、ママ……すんごく重大な事だと思うんだけど」
「リアはしっかり者だなぁ。パパすっごく鼻が高いぞっハッハッハ」
高らかに笑っている父親の声が、何故だか虚しく莉亜の耳に響いていた。
「いやいや、だからこれからの事なんですけど」
「もう、心配性ねぇ。リアちゃんは」
相変わらず笑みを浮かべる母親。向かいに座る娘のおでこを軽くひとさし指でツンツンと執拗に突く。
母親の指をこの世で今一番鬱陶しそうに、莉亜がはらいのけた。気を取り直し、真顔で両親に訴えるのだった。
「それよりもあたしの質問にいい加減真面目に答えて下さいっ」
少しの間沈黙が――――――
「まさか、なんにも考えてないとかじゃないよね?」
引きつる表情を押し殺し、優しく問いかけた莉亜。
無言を決め込んだらしく、何も反応しない両親。
「って……何その哀れみの瞳?」
莉亜に指摘されて両親の目玉が不自然な程に宙を彷徨う。
両親の態度に彼女は不信感を募らせるのだった。
(どうみてもおかしい態度……)