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7ー③

 突然の出来事にマネージャーはボー然と立っていたが、咳払いをしてから、その場を仕切り直す。


「んっ……急な事だったが、これから開店だ。それぞれしっかりと頼むぞ」

「はい!」


 ホストらは全員が声を揃えて息ピッタリに返事をする。それぞれが開店準備をするのに各自準備し始める。

 開店すると店はいつものように満員で大盛況。そんな中、ホストの待機場所で暇な2名が噂話に夢中の様子。


「今日のマネージャー気の毒そうだったな」

「そうっすね。そう言えば、マネージャー高科オーナーって言ってたっすけど、もしかして、あの高科コンツェルンの御曹司っすか?」

「ああ」


 先輩ホストは視線を左右に泳がせて周りを確認してから、新人の耳傍まで寄ると声のトーンを落とす。


「大きな声じゃ話せないが――――高科夫人とココのホストがデキてるんだよ」

「えっじゃあ、今日来たのって、それを確かめる為っすか?」 

「かも、知れないな」


 後輩はゴクッと喉をならしてから、質問した。


「でっだ、誰っすか?」

「龍之介さんだよ。この店の連中は、みんな、薄々気づいてるけどな」

「そうなんすか? 知らなかったっす」

「お前は新人だから、仕方ないさ」


 無駄話をしているヘルプたちを、いつの間にか、マネージャーが睨んでいた。眉間にしわをよせ、ヘルプたちの所へ近づいてきた。 


「おい! おまえら暇ならヘルプにでも入れ。無駄話ばっかりしてるんじゃない」

「はい!」

「ヘルプですね」


 それまで、余裕だった彼らは一斉いっせいに立ち上がる。

 ふたりの顔はさっきまで緊張の文字すらうかがえない表情だったが、一瞬で凍りついた。

 マネージャーはそんなヘルプたちを引き連れ、龍之介のテーブルに来ると耳元で用件を告げた。


「マコト、あちらからもご指名だ」

「はい、わかりました」


 龍之介が小声で返事をする。手に持っていたグラスをそっとテーブルに置いた瞬間、横にしな垂れがかっていた年配の小太りな女性が、何か察知しのか、甘ったれた声を出す。


「あらぁ~マコチャン、私を置いていくざぁますかぁ?」


 煌びやかに着飾った服に身を包んだその女性はふくよかな体を立ち上がろうとする龍之介の太くて血管の浮き出た腕にグイグイと無駄な贅肉を押しあてながら引き止める。

 

「すみません、ですがご安心を。戻って来るまでこいつらがお相手しますので」


 龍之介の視線の先には彼程ではないが、美形のヘルプたちが傍で待機していた。

 席から離れようとする龍之介を恨めしそうな眼で見つめるマダム。そのすぐ傍にいたヘルプたちが視界に入る。


「まぁ、この子達もなかなか、カァイイじゃないのぉ」

「はい、かわいがってやって下さい。マダム」

 

 龍之介は高価な指輪をいくつもしているマダムのプニプニとした手を、やさしく手に取る。そして、手にではなく頬へ軽くキスをした。


「それではマダム、少しの間、失礼致します」

「もうマコチャンったら、うまいざぁますね~ピンドン(ピンクドンペリ)とか、一番高いお酒頼んでおくざぁます」

「はい、お気遣いありがとうございます。では、マダム」


 少し距離を取った場所から、一部始終見ていたヘルプたちは、龍之介の接客ぶりに感嘆の声を上げる。そこへ龍之介がすれ違いざま、彼らへ耳打をした。


「大事なお客様だから頼んだぞ、おまえら」

「はい!!」 


 ふたりにその場を任せた龍之介。今夜、何度目になるかわからない指名のテーブルへと、また移動するのだった。


 龍之介が忙しいと、それにつれ、店もお客さまにパフォーマンスするホストたちで、ドンドンに賑やかになっていくのだった。

 今日もまたイルミネーションが、繁華街のどこの店よりも輝きを増す。いつものように夜が明けるまで、ホストクラブは、今宵も営業し続けるのだった。

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