第7話 NO.1の覚悟
お酒タバコ20歳から。物語上でてきますが、マネしないでね。
榊本龍之介が繁華街へと着く頃には、更に太陽が沈んで暗くなっていた。
暗闇の中、無数のネオンが美しく、そして妖しく光輝く。通り沿いにはスナック・キャバクラ・風俗やらが、たくさん建ち並んでいる。
中には必死に客を呼び込みをしている店もある。
そんないつもの後景をかわしながら、龍之介は自分の勤めるホストクラブを目指す。
ホストクラブの建物が見えると、関係者入口がある裏側へと回り込む。
裏口から中に進むと龍之介は更衣室のドアを開けたのだった。
灰色の2段ロッカーがいくつも並んでいるそこには龍之介程ではないが、そこそこの美男子が着替えているところに、龍之介が挨拶してから更衣室に入って行く。
「おはよう」
数人の後輩ホストらしき男性が次から次に気合の入った声で挨拶をする。
そのうちのひとり、ホスト君Aが不思議そうな表情で龍之介に声を掛けた。
「あれっ今日は同伴出勤じゃないんですね?」
「――――今日はちょっとね」
ロッカーから視線をホスト君Aに向けるが質問に答えるとすぐに視線を戻す龍之介。
「珍しいですよね」
ホスト君Aはよっぽど龍之介がひとりで出勤してきた事が信じられない様子。
龍之介がローカーにまた手を伸ばし、自前の服を店様の衣装に着替える。ボタンをひとつひとつかけながら、首を傾げる。
「そうか?」
既に着替え終わったホスト君Aが龍之介の着替える近くで、尚も食い下がる。
「はい、だって俺が知る限りはほとんどお客様と一緒じゃなかったすかぁ」
ホスト君Aの言葉に反応する男がもうひとり。
「そういえば……」
そう言いながら、この会話に参加してくるホスト君B。何やら思い出した様子。
「確かによく同伴で出勤が多いいっすよね」
「まぁ――――たまにはそういう事もあるだろ」
ロッカーからネクタイを取り出し、内側のロッカーの扉にある鏡をみる。結びつけ終わってからブランド物のジャケットの袖に腕を通す龍之介。ジャケットを両手でピンと張る瞬間、気持ちが引き締まるのだった。
「それより、お前らっ」
着替え終わった龍之介が気合のこもる声でホスト君たちに声をかける。いつになく気合が感じ取れる龍之介の声に身が引き締まったような彼らは敬礼でもするかのような返事。
「はいっ」
「今日もヘルプ頼む。俺がいない席でのお客様のフォローしっかり頼むぞ」
「もちろんっ任せて下さい!」
「俺がNO1なのはお前らのフォローがあっての事。だから、これでも感謝してるんだ」
ホスト君たちにねぎらいの言葉を言ってから、ポンっと軽く片手でそれぞれの肩に触れる龍之介。
「そんな俺らの憧れなんすよ。龍之介さんは」
何処か自慢げなホスト君たちの顔を複雑な表情で、黙って見守る龍之介だった。
(憧れ――――ね)
ロッカールームを出る龍之介。埃っぽい廊下を進んだ視線の先にはそれがひろがっていた。煌びやかで輝きに満ちて、天井へと散りばめられたシャンデリアが吊り下げられている。そう――――――まるで中世のお城を思わせる程、ゴージャスで夢の様な空間があった。
壁や床は大理石を使用。もちろん、フロア全体にはアンティークを思わせる様な豪華なテーブル・ソファも無数に存在しているのだった。
普通の生活をしている人間ならば、ため息が出そうな程の別世界。
ホストクラブというのは――――簡単に説明すると女性をお客の対象として男性版キャバクラ。ホストによっては店外でお客様と連絡を個人的に取り合い、店に一緒に出勤をする同伴出勤や店が終わってからも一緒に過ごすアフターとか、人気ホストの手助けや場継ぎなどの補佐的な役割をしているヘルプがある。
フロアでは仕事始めの朝礼が始まろうとしていた。他のホストと同じ様に龍之介も、煌びやかなお客様用フロアに並ぶ。