6ー②
慶太のおかしな姿が良人の目に焼きついたまま消えない。その場で不思議そうにつぶやいた。
「あれ? 用事……は」
自分の部屋に戻って来た慶太。複雑な顔つきの彼は良人が持っていた写真の事を考えるのだった。
あれからずっとベットに横になったままで、天井のどこかを見つめている。彼はおもむろにベッドから起きあがると壁際に置かれた机に近づく。
机にはいくつかの引き出しがある。その中の鍵がつけられている引き出しを開けると、中にはひとつだけひっそりと写真たてがあった。
慶太が写真たてを手に持ち目を細めた。その瞳には悲しみが満ち溢れている。
視線の先に写る少女は莉亜に瓜二つ。隣には少年が今までにないくらいの幸せそうな表情。誰がみても、幸福そうな未来ある少年少女の写真。
そんな写真に何度も語りかける慶太。
「キミの声が今は何も聞こえない……今日も微笑むだけだね」
少女の姿を何度もやさしく指でソッとなぞる。
慶太が写真に触れる度、微かに黒い瞳が寂しそうにゆらめく。そのまま心の奥にでもしまうかのように、思い出がある大事な写真たてを引き出しにゆっくりしまうのだった。
部屋で落ちこんでいる慶太をよそにデリカシーのないもうひとりの双子が大学から帰宅した。
玄関から帰宅そうそう、腹から声を出して、全力で叫ぶ祐大。
「お~い、もう迎えには行ったのかぁあっ?」
家中に響く声を静止させる為に良人も、また玄関の祐大がいる方へ全力疾走する。
良人の奇妙な姿が、祐大の笑いのツボにハマる。面白い余興を見たように祐大が大声で笑い出した。
祐大を目の前にした良人が顔を歪めて、近づくのだった。人の気も知らないで馬鹿笑いする祐大にひとこと注意するために。
良人は自分の口元にひとさし指を立たせた。そして、今だ状況を理解していない祐大にすごい剣幕で声を掛けるのだった。
「シィィィィィィ。うるさいっ! 祐大もっと、声小さくしろっ!」
しかめっ面の良人を見た祐大が、不思議そうに玄関をあがった。
「なんでだよ?」
「慶太も体調悪そうだし、彼女も疲れて寝てるんだから」
「ふ~ん、どんな顔してるか見に行くか」
階段を上がり掛けた祐大の腕をわし掴み、自分の方へ引きずりおろす良人。彼は今、祐大を莉亜に近づけない事が、自分の使命だと思いこんでいる。
「やめろよ、そんなデリカシーのない事、女の子なんだから」
祐大が良人に掴まれた腕を、汚いゴミでもはらうがのごとく力いっぱい彼の手を振りはらうのだった。
「冗談だろっバァカ。何、マジにしてんだよっ」
良人は半分呆れた眼差しでそんな祐大を黙ってみるのだった。
(まったく、こいつ何処まで冗談なんだか……)
良人が死守した階段から仕方なく離れる祐大。
諦めた祐大の後ろをピッタリと金魚の糞のように行く場所行く場所、何処にでも良人が執拗について歩くのだった。
用事を済ませた祐大が階段を上ろうとしたが、まだ離れる気がないのか良人がついて来る。
それが我慢できなくなった祐大は勢いよく後ろを振り返る。そして、良人に我慢の叫びをあびせた。
「だぁーーーーーー、鬱陶しいからっ俺についてまわるな!」
「祐大の事だし、何があるかわからないから」
「マジで行く訳ないだろ。俺疲れてるから、部屋で休む」
「それならいいんだけどさ」
「興味ないから安心しろ」
「興味ないって言ってもこれから、共同生活が始まるわけだし」
階段を1段上るとピタリと止まって、うっとうしそうに祐大が答える。
「だから? それがなんだよ」
「不自由な事もあるだろうし」
「――――で?」
「彼女、女性な訳だし」
「――――で?」
「俺たちは男だし」
「あのな、男と住む以上、何があっても文句は言えないぜ」
「いや、何かあったら困るよ、俺」
泣きそうな顔の良人を呆れた眼差しで見る祐大。良人の肩に手を乗せて、軽く肩をポンポンと叩いた。
「んじゃ、お前が困らない様にしてやれよ」
その言葉を最後に祐大は階段を一気に荒々しく駆け上がった。そんな彼に良人は再度注意する。
「だからぁぁぁぁぁ静かにぃぃぃぃぃ!」
叫び終わった良人は段々小さくなる祐大を階段の下から見えなくなるまで見張るのだった。