4ー②
疲れ果てて、空港の床にへたり込む莉亜へと、男性は数メートル近く接近すると不適な笑みを浮かべた。
「あんた、あと何回空港を周る気なんだ? 随分、独りで楽しそうなんだな」
声の聞こえた方角を見上げた莉亜。恐れおののくと、か細い声だったが、悲鳴に近いハッキリとした声が出る。
「――――アア゛」
目の前には機内で一緒だったあの男性が立っている。彼をつくづく嫌そうな顔で見上げる莉亜。
(ま、また……この人)
そんな驚愕した莉亜を一蹴した男性。
「そこで、座ってると通行人の邪魔になるだろ?」
「そっそれよりっあたしにつきまとうのやめてもらえません?」
文句を言った後にその場をもたつきながら、立ち上がってから、おしりの辺りの服を手でパンパンと払う莉亜。
男性はその様子を無関心な感じで見ている。そして、莉亜に冷たく言い返すのだった。
「別につきまとってはない。あんたが俺の行く場所にたまたま居るんだろ」
筋がとおった答えに何も言えず黙る莉亜。
「自分の立場が悪いと黙るんだな、あんた」
「じゃあ、この際言わせてもらいますけど、自分だって勘違いさせるような行動とかするから、こっちが誤解するんでしょ?」
「なんだ、それ――――」
呆れ返る男性はそれしか言えないのか、不機嫌な表情で黙り込んだ。
莉亜はその様子でそれ以上は追究しない方がいいと感じ取るのだった。
「――――声掛けて悪かったな」
と、無表情な顔で男性がポツリと言うのだった。そして、通路を歩くのを再開した。
無言で立つ莉亜。そこを通り過ぎようとした男性の腕を思わず掴む。
「――――――ごめっ……」
何かを言い掛けようとした拍子に莉亜のポケットから何かが落下する。
それは莉亜の財布だった。そのまま空港の床を直撃した。
ふたりとも突然の出来事で身動きできずに中身がとびだすのを見る事しかできなかった。
中身は見事に飛び出しフロアへおもいおもいにコロコロと転がるのだった。
四方八方に飛ぶ小銭をキャッチしようとコミカルな動きをする莉亜を見た男性は横で腹を押さえて笑い出す。
「もうっ笑ってないで散らかった小銭、貴方も一緒に拾って下さい」
「お、俺も拾うわけ?」
「そうっ。こういう時は困っている人を助けるのが人の……優しさだと、思うんですけど」
「優しさ、ね……」
「なんですか、その――――文句言いたそうな目は?」
「別に――――なんでもない」
「それとも人が困ってるの、見て見ぬふりですか?」
「俺もまぁ、鬼じゃないんでね。協力させてもらうよ。でも――――あんたの場合はその方が良さそうだけどな」
「ありがとうって一応言っとくね」
と、言った後に男性から顔をそむけるとブーたれた顏をした莉亜。
数分間、ふたりで散らかった小銭を拾い集める。そして、見える範囲内の小銭を男性が莉亜のもとに届け渡すのだった。
「これで終わりだと思うけど。本当に次か次にやらかすの好きだな、あんた」
「それは……どうも」
(別に好きでしてる訳じゃ……ないんですけど)
とことん疲れたと言いたそうな表情をする莉亜。財布に渡された小銭を入れるのだった。