第4話 時には素直に
機内は着陸準備にはいり、莉亜の頭上のランプが点灯する。それは座席の上に幾つかあるマークの中のベルトが点灯。着陸するというアナウンスが流れ、機体は徐々に降下し始めた。
少しずつ滑走路に近づいては停止位置に何事もなく無事に着陸する。しばらく走り続け、機体はそのままゆっくりと速度を下げ停止した。
着陸した事がアナウンスされると、座席に座っていた人々が一斉に機内から降りる準備をし始める。
その中には莉亜の姿も。頭上の棚に腕を伸ばして荷物を取るが、手を伸ばした先のどこにも荷物がない。他の搭乗客が彼女の荷物をどうやら奥に押し込んだようだ。
「まいっちゃったな、奥まで行ってしまって届かないよ」
何度となくチャレンジするが、棚の中でむなしく空を切る莉亜の手。
「やっぱり、ダメだぁ~」
困った顔の真横を太くてたくましい腕がニュッと後方から伸びる。そして、いとも簡単に奥に入り込んだ棚の荷物を引きずり出した。
莉亜は何もできずに、ただ視線の先を眺めるのだった。
背後を振り向くとにあの男性が無表情な顔で荷物を持ち莉亜の真後ろに立っている。
無言のまま男性が荷物を持った腕を莉亜の方へ伸ばした。彼女はまだその状況を理解できないらしく、身動きひとつできずにいる。男性は何もいわず、彼女の腕に荷物を無理やり押しつけ渡した。
唐突な出来事に戸惑う様子の莉亜も自分の腕の荷物を黙って受け取ると確認する。そして、途切れ途切れに男性へ一言だけ発するのだった。
「どうも……あり、が、と、う」
「礼ぐらい、もう少しかわいい笑顔で言ったら――――どうなんだ?」
「どうも、ありがとうございました」
男性の言葉に莉亜は苦虫を砕いた様な笑顔で答えた。
「うわっ、アンタの笑顔最悪だな」
笑顔と言えばいいのか、莉亜の微妙な表情を見た男性がスッと腕を組む。次に不思議そうな顔をしてから、哀れむ顔を軽くかしげた。
「どんな女でも笑顔は一番かわいく見えるもんだろ?」
「……余計な、お世話です」
横目で軽く男性を見てから仏頂面した莉亜が気に入らなさそうに言った。
「もう少しくらい、女なら、しおらしくできないのか?」
「貴方にするなんて、考えられません」
「んっとにっ、可愛げがない奴だな、アンタ」
「何度も大きなお世話です!!」
(ホントっ嫌な奴っ!)
キッと男性をひと睨みしてから莉亜は捨て台詞を吐き捨てた後、小柄な体格をズカズカと機体を揺らしそうなくらいの足取りで機内から空港へ飛び出して行くのだった。
◆◇◆◇◆
空港へはトンネルの様な通路が続いている。
機内出入口前にはズラリと人々が並んで外に出る順番を待っていた。
その列に従って莉亜も並ぶ。しばらく待つと空港へ続く通路からフロアに出て、入国検査の場所へと進んで行く。検査が無事終わると税関を抜けてからやっと荷物のあるフロアにたどり着くのだった。
搭乗者のトランクが乗せらてグルグル回転しているレール。
早速近づいて自分の荷物を探し始める莉亜。
何度目かのレールが周回し終わった時、赤色で光沢のある見慣れたボディーにグリーンのバンドが付いたクリスマスカラーに目を奪われる。
莉亜が家を出る時に目立つようにとトランクをクリスマスカラーにコーディネイトしておいたから、そのお陰で迷わず手に取る事ができるのだった。
トランクを手に莉亜がその場を去ろうとフロアから移動するも、無数の空港出入口に足が自然に止まる。予定では空港に迎えが来る手はずなのに、今だそれらしい人影が発見できないでいた。
莉亜はどの出入口から外に出れば良いのか、さっぱりわからず。さ迷い歩き疲れていた。もはや、口からでるのはため息と泣き言しかない。
「全然わかんないよ……出口が」