2-1 その双子は印象が真逆すぎる(1/2)
前回の更新で予告した通り、今回から2章に入ります。よろしくおねがいします。
私が公爵邸にきて数カ月。季節は進んで夏になり、今日も降り注ぐ強い日差しを目を細めながら見据える。
暑くなりそうだなぁ……洗濯物はよく乾きそうだけど。というか、せっかくなら私が洗濯当番の日にこれくらい晴れてほしいもんだけど。
最近は洗濯ももちろんだけど、他にもそれなりに色々と使用人としての仕事を任せてもらえるようになってきて、ここへ来てすぐの頃みたいにいつもナタリア先輩に付きっ切りで教えてもらわなくてもできる仕事がかなり増えてきたんだよ。
でもまず今は、朝の当番であるこの玄関前の掃除を終えないといけない。
あくびをかみ殺しながら早朝の馬車留めを箒で掃いていると、邸の裏手の使用人区画出入口からこちらへ向かって一人の女性が歩いて来るのが見えた。
「あら、アリスさん。朝早くから、ご苦労様です」
「……ナタリア先輩! おはようございます」
普段着なので一瞬わからなかったけど……シンプルで落ち着いたブラウンの上品なデイドレスに身を包んだ彼女が微笑むと、その笑顔はいつものナタリア先輩だ。 髪型もいつものきっちりまとめたシニヨンではなくて、顔の周りを編み込みして後ろ側をゆるくおさげにしてある。
日差しをよけるつばの広いお帽子が清楚でいいね……そりゃあそうか。先輩だって休日があるし、こうやって普段着で外にでかけることだってある。
「今日はお休みですか?」
「ええ、そうなんです。お休みをいただいてしまってごめんなさいね。その分今日はアリスさんのお仕事の負担が増えてしまうかもしれないけれど……」
「いえ、そんなことは気になさらないでください! 私なら大丈夫ですから!」
「そう言ってくださるのはありがたいんですけど……アリスさん、あなたもちゃんとお休みをとっていますか? 使用人とはいっても休暇は労働者の権利ですから、ちゃんとお休みはとらないとダメですよ? あなたは少し、がんばりすぎるところがあるので心配しているんです」
「がんばりすぎる……えっ、そうですか?」
そうかな……? そんなつもり、全然なかったけど。
ああ……でも、やっぱりこちらへ来てしばらくは緊張したりがんばろうって気合入れたりして、それなりには張り切っていたかもしれないね。そう言われてみれば、あまりお休みもとっていないかもしれないなぁ。……先輩、私のことよく見てくださっているんだな。
「確かに、改めてよく考えてみたらあんまりお休みとってないかもですね〜。ありがとうございます、これからは意識的にお休みをいただくようにしようと思います」
「ええ、是非そうなさってください。読書をゆっくりなさるとか……趣味を楽しんだりして、しっかり気分転換なさってくださいね」
あれ、私先輩に読書好きって言ったかな? ……ああ、でもそうか。ゼノン様が小説を読み込むために翻訳を手伝ったり、その内容で盛り上がったりするところは見られているもんね。それなら私が読書というか小説とかを好きってご存じでもおかしくないか。
……逆に、先輩って趣味とかあるのかなあ? 考えてみれば、私は……あんまり彼女のことを知らないのかもしれない。
「そうですね。またぺルラ様にご相談しようと思います」
「ぺルラ様なら、いつもアリスさんや私たち使用人の気持ちに寄り添ってくださると思いますのでよっぽどないとは思いますが……もし難しいことを言う人がいたら、私が一言申し上げますから。いつでも言ってください」
うん? それって、もし休みを取ることを断られたり渋られたりしたら文句言ってあげる! ってことだよね? 先輩、本当に頼もしすぎる。
ああもう、私の先輩が、理想の先輩すぎるよ~! 初めての職場で最高に優しくて美人で頼もしいこんな先輩に恵まれるなんて、私は本当に運がいい。
「重ね重ねありがとうございます……! ところで先輩は、今日はどこか楽しいところへおでかけなんですか? いっぱい気分転換してきてくださいね!」
私の言葉に先輩はちょっと驚いたように目を見張ったあと、少しだけ気まずそうに苦笑いした。
「……ええと、出かけるは出かけるんですけどね。アリスさんに気分転換してくださいと言っておいてなんなんですが……今日はちょっと気分転換は逆というか……、肩の凝る用事をこなしてこないといけないんですよ」
「あ、そうなんですね? じゃあそのご用事、つつがなく終わるといいですね!」
「ありがとうございます。まあ、そこまで長い時間拘束されるわけではないはずですから、帰り道でゆっくりして来るのもいいかもしれないですね……せっかく街へ出るんですから」
私たちがそんな会話をしていると、遠くから馬の蹄の音が聞こえてきた。その音に顔を上げると、門から馬車が一台こちらに向かって走ってきているのが見える。
ん~? ……あれはどこの家の家紋かな? 知らないなぁ……と目を細めて馬車を凝視していると、馬は段々と速度を落とし、私たちのちょうど目の前で停止する。
「……迎えです」
ナタリア先輩が、頬を上気させて小走りに駆け寄った。
ん~? なんか今一瞬見えた横顔、すっごく可愛い顔してたよ、ナタリア先輩。多分あれは恋する少女の顔だった! 知らんけど!
え、でもそれじゃあつまり、この中に先輩の恋人……? が、いて、先輩をお迎えに来たってこと?
え~? どんな人!? 見たい!!
御者さんが運転席から下りて、馬車のドアを外から開ける。首を伸ばして中を覗き込もうとしている私を見て、先輩は堪えきれないといったようにクスクスと笑っていた。
「アリスさん……そんなになさらなくても大丈夫ですよ、ちゃんとご紹介しますから!」
「えっ、あ、すいません!」
なんとか中を見ようとしてたのがバレてた。まあバレるか!
でも気になるんだもん。先輩が乙女の顔をして待つ相手だよ~?
「おはよう、ナタリア! 待たせたか? ……ん? どうした?」
「おはようございますバート様。いえ、トラブルとかではないですから安心してください」
怪訝そうな声が聞こえる。ナタリア先輩がすぐに馬車に乗ってこないから何かあったのかなと思ったみたいだね。
「私の後輩を紹介したいんですが、お二人とも一度馬車から降りて来られますか?」
「……ナタリアの後輩だって!? いいぜ、ちょっと待ってな!」
「はあ。まあ、構いませんが……」
中からは二人分の男性の声と、バタバタという元気な足音が聞こえてきた。
まずせわしなく降りてきたのは、明るい茶髪を短く切りそろえた若い青年。
騎士様なのかな、私服だけれど剣を腰に差している。
まくり上げた袖の合間からしっかりと筋肉が乗ったたくましい腕が覗いていて、私を好奇心いっぱいのキラキラした目で見てる。
続いて後からゆっくりとした足取りで出てきたのは、深緑の髪の青年。こっちは少しゆったりめの裾の長いシャツを着ていて、片眼鏡が印象的だ。
なんか不機嫌そうというか、眠そうというか……そんな印象。私のことも、なんかじとーっとした感じで半眼で見てる。
さーて。どっちがナタリア先輩のお相手だ?
で、その場合もう一人は何者だ?




