表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

暗殺者は推しを殺せない。

作者: 予炉
掲載日:2026/06/02

「標的はシャルロット・シッティンだ」


皇太子の側近はそう言った。

暗殺者は頷く。


「承知しました」


彼は暗殺者のプロである。

今まで数多くの仕事をこなしてきた。

毒殺。

狙撃。

潜入。

何でもござれ。

依頼人の事情など興味はない。

仕事は仕事。

それが彼の流儀だった。

だから、資料を受け取った時も、いつものように確認するだけのつもりだった。


名前。

シャルロット・シッティン。

年齢。

19歳。

特徴。

金髪、青い瞳。

肖像画。


暗殺者の動きが止まる。


「…………」


もう一度見る。


「…………」


さらに見る。


「いや待て」


推しだった。

三年前から推していた。

社交界で一度見かけて以来、密かに推していた。


「なんでだよ」


頭を抱える。

完璧な公爵令嬢。

美しい。

気品がある。

歌が上手い。

礼儀正しい。

笑顔が素敵。

推しだった。

めちゃくちゃ推しだった。


「なんで依頼が来るんだよ……」


人生で最悪の仕事だった。





当日。

暗殺者は山小屋近くの木の上にいた。

弓を構える。

標的を確認する。

シャルロット。

実物だった。

推しだった。


「うわ……」


顔が良い。

めちゃくちゃ顔が良い。


「近くで見ると本当に顔が良いな……」


うっかり三度ほど仕事を忘れかけた。

だが、プロである。

仕事は仕事。


「撃つぞ」


弓を引く。

狙う。

頭。

無理。

心臓。

無理。

首。

無理。


「無理だろ」


再三いうが、推しである。

撃てない。



一方その頃。

山小屋の中。

シャルロットがナイフを振り上げ、セシリアが悲鳴を上げた。

暗殺者は焦る。


「まずい!」


依頼内容を思い出す。

シャルロット暗殺。

成功しなかったら自分が怒られる。

でも、推し。


「くそっ!」


葛藤する。

推し。

仕事。

推し。

仕事。

推し。

圧倒的推し。

仕事が負けた。


「肩だ!!」


ヒュッ。

矢が飛ぶ。

ドスッ。

肩に刺さる。


「よし!」


よくない。

全然よくない。

暗殺者として最低である。




数分後。

皇太子の側近が何も心配していない声色で聞く。

暗殺者は、仕事ぶりは一流で有名だったのだ。


「どうだった」

「撃ちました」

「死んだか」

「もちろん」


嘘だった。

肩である。

絶対死なない。




その日の夜。

暗殺者は酒場にいた。

同僚が聞く。


「仕事どうだった?」


暗殺者は遠い目をした。


「推しを撃った」

「は?」

「肩を」

「は?」

「本当は頭を狙う仕事だった」

「お前暗殺者向いてないよ」


正論だった。





後日。

王都。

シャルロット生存。

暗殺失敗。

という噂を聞いた暗殺者は


「生きてる!!!!」


大きくガッツポーズをした。

「よかった!!!!」

仕事失敗を全力で喜んだ。

暗殺者として終わっている。




その頃。

皇太子はイライラと、側近に当たり散らす。

「なぜ死んでいない?」

「原因は不明です」


(原因は俺です)

暗殺者は、誰にも言えない秘密を抱えながら、今日も元気に推し活を続けるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ