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時空の三連星 第1章  第20話(シリーズ第1部・完結)

第二十話


:新世界の星座(シリーズ第一部・完)

【前編:日常への帰還、あるいは新しい理】



夜明けの光が、高層ビルの屋上を白く染め上げていく。

激しい魂の衝突が嘘のように、世界は静かに、しかし決定的にその姿を変えて日常へと戻りつつあった。

御子柴 駿の『絶対知覚圏』はもうない。

だが、彼の五感は以前よりも遥かに瑞々しく、世界の息吹を捉えていた。

隣に立つシズの体温、そして彼女の奥底で心地よさそうに微睡む二つの魂の気配が、彼の世界を優しく満たしているからだ。

シズの精神の深淵では、激闘を終えた二人の少女が、満ち足りた静けさの中で互いの存在を確かめ合っていた。


『……頭の中が、こんなに静かなのは初めてです』


中学生のハルが、自らの膝を抱えながら、穏やかな吐息をついた。かつては孤独な時空で、周囲の人間が愚かに見えてしまうほどの知性に苦しんでいた天才少女。

だが今、駿の巨大な知性に内側から触れ、包まれたことで

その乾きは完全に癒やされていた。


『私の知恵は、もう誰かを拒絶するためのものじゃない。これからは駿さんとシズお姉ちゃんのために、この世界の新しい数理を編み出していきます……!』


『うん、私も! もっともっと、お兄さんを驚かせるような技を作らなきゃ』


高校生のアオイもまた、心地よい疲労感の中で、誇らしげに胸を張っていた。

ただ一人、誰にも理解されない領域で身体を鍛え続けていた孤独なアスリート。

その過酷な修行の日々が、駿という「最強」に真っ直ぐ届き

等価の存在として認められたのだ。


『私の武技は、お兄さんと並び立つための翼。シズお姉ちゃん、私、あの人の隣を走るのが、今から楽しみで仕方ないよ』


二人の歳相応な、しかし何よりも純粋な誓い。

シズは内なる可憐な妹たちの言葉を、すべてを包み込むような深い慈愛の微笑みで受け止めていた。


(ええ、ハル、アオイ。私たちの真っ直ぐな愛は、ついに届いたのね。これからは四人で、誰も見たことのない景色を見に行きましょう)


日常という名の天上を自ら堕ち、駿という唯一無二の光を選んだ美しき「堕天使」は、今やその翼を優しく閉じ、完全な調和のなかに佇んでいた。




【後編:永遠の等価、そして未来へ】



「……フッ、ずいぶんと賑やかな朝だな」


駿は、シズの髪をそっと撫でながら、水平線から昇る朝陽を見つめた。

冷徹な計算機だった彼の脳裏に、今はかつてない穏やかな、しかし決して揺らぐことのない確固たる幸福感が広がっている。

分が悪いと知りながら、時空すら超えて自分を侵食しにきた、愛おしい堕天使たち。

彼女たちの、あの毎夜の疼くような情念と、それを全てガソリンに変えて挑んできたストイックなまでの「聖愛」の結晶が、今、駿の隣で美しく輝いている。


「シズ。これから始まる新しい因果のなかで、俺を退屈させるなよ」


駿はシズの肩を抱き寄せ、王としての絶対的な気品はそのままに、どこか悪戯っぽく、しかし最大級の愛を込めて囁いた。


「ええ。もちろんです、私のお兄さん。ハルもアオイも、もう次の手を考えているみたいですから」


シズは、これ以上ないほど知的で、寛容で、そして艶やかな小悪魔の微笑みを駿に返した。その瞳は、未来への確固たる歩みを一切止める気がないことを物語っている。

かつてベッドの上で祈った幼子の無垢な祈りは、時空を貫き、天才と超人を結び、ついに絶対の王と対等に並び立つ「新世界の星座」を完成させた。

二人の、そして四つの魂の足音が、新しい朝の光の中へと真っ直ぐに歩み出す。

凌駕し合い、愛し合うための『闘争』は、ここに美しき調和の幕引きを迎え、そして――彼らの新しい神話が、今、静かに幕を開ける。

              

                 (第一部・完)



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