文字のない楽園
その大型のタイムマシンの名前は楽園と言った。
その大きさは何と一つの星ほどもあった。
楽園に乗っている人々はこれがタイムマシンだと言うことを知らなかった。
何せ、このタイムマシンが過去に向けて出発してからもう二千年も経っているのだ。
当時の記憶を持っている人間など一人も残っていない。
挙句の果てに一番始めにタイムマシン乗り込んだ人々にはとある決まりが課せられていた。
文字を記すことを禁ずる。
その他のあらゆる事が許された。
話すことも、踊ることも、歌うことも、全て。
タイムマシンには元々多くの娯楽品が入っていた。
しかし、文字が消えた故に現在では誰も使い方が分からないガラクタと化している。
ある程度は口伝えでどのような物かを伝えていたらしいが……気づけば誰もガラクタが何であったか分からない。
そして、タイムマシンに乗っている人々は自分たちが過去に向かっていることを知らない。
当然ながらその理由も知らない。
そもそも自分たちの生きる場所がタイムマシンの中だと言う事も知らないのだから当然と言えば当然ではある。
人々は既に数えきれないほどの世代交代を果たしている。
全てを忘れるほどに。
疑問さえも持たないほどに。
きっと、目的地である過去についたとて何も変わることはないだろう。
何も知らないままに受け入れることだろう。
自分たちの祖先が『犯罪者の牢屋』として遥か昔に送り出されたことも知らないままに。




