あのアホ面がどうなるのか見ものだ。
あのアホ面がどうなるか見ものだ。
正直に言えばそれを見るためだけにどうにかこの一週間気を保っていたようなところもある。
「暇をいただきたいのです」
私の言葉にアホはポカンと口をあける。
アホの目は先日、どういうわけか私にくれたペンダントにくぎ付けだ。
安心してよ。
これはちゃんと返すからさ。
「何故だ?」
「故郷に帰るつもりです」
「君はもう生きた時間よりも長くこの場所にいるのに?」
アホの言葉に苛立つ。
本当にどうしようもねえな、この人。
「故郷は故郷です」
「あのような場所に戻りたいって……本気かい?」
ゴミ捨て場と言う名の故郷に生まれてから二十一年。
そこであなたに拾われて十六年。
あんな場所に戻りたいなんて言うわけもないでしょ?
それなのに戻りたいって言うなんて。
それはつまり、この場所を離れたい理由が出来たってことに決まってるでしょ。
「本気です」
「どうしても戻りたいのかい?」
「ええ。たった一つの故郷ですので」
んなわけないでしょ。
理由はもっと簡単だよ。
このアホ。
誰かさんが『そろそろ結婚をしようと思う』とか言い出したからだよ。
「君があの場所をそんなに好いていたなんてな」
「意外ですか?」
「……だって、君。ゴミ箱からご飯探すような生活してたじゃん」
ゴミ捨て場の孤児と貴族の嫡男。
使用人とご主人。
その関係に満足する事が出来るほど私は慎ましくないんだよ。
もっと先を望むくらい傲慢なんだよ。
だけど、それが無理だって分かるくらいの知恵があるんだよ。
「まぁ、あの場所も大分変わって来たけれど……」
「坊ちゃまの尽力のお陰でですね」
せっかくだからいつもより褒めてやるよ。
この馬鹿。
アホ。
女心の分からない馬鹿。
お人よし。
そして、大好きな人。
「うーん……そんなに戻りたいなら仕方ないけども。あの辺りに住める家なんてあるかな」
「御冗談を。ここのようなお屋敷ならばいざ知らず、小さな家なら探せばいくらでもありますし、最悪小さな部屋一つあれば十分なんです」
「いやいや。それじゃ流石に仕事に支障が出るよ」
「仕事は向こうで探すつもりですが」
「? いや、僕の仕事に支障が出るでしょ?」
何言ってんだ、こいつ。
ここまでアホだったか?
「自慢じゃないが僕は普通の仕事は出来ないよ。情けないけれど」
「それはそうでしょう。坊ちゃまは貴族なのですから。貴族は貴族として生きるべきです。そして貴族として働くべきです」
「うん。そうだよ。だからこそ、君の故郷じゃ僕はほとんど役に立てないでしょ?」
?
本当に何言ってんだ?
「坊ちゃま。何故、あなたがついてくるつもりなのですか……?」
「いやいや。結婚するのに妻と離れる夫なんていないでしょ」
?
??
???
本物のアホが誰か気づくまでに私は夫に随分とアホ面を晒す羽目になってしまった。




