第92話:初めての魔法実技その2
「ダドリー君、あとはどんどんヒール使って慣れてね。その内ソーサリーワードを思い浮かべなくても撃てるようになるから」
「わかってる」
「もしアレンジしたくなったら、一度あたしかアルジャーノン先生に見せるんだぞ?」
アレンジって。
そんな高度なことまでできるのね。
「さて、じゃあ次はサブリナやってみようか」
「えっ?」
何を?
ひょっとしてヒールを使ってみろってこと?
「さっきから自分の魔力をぐりぐり弄くり回してるじゃないか。そんだけ扱えれば十分魔法は発動するわ」
「そ、そうなの? 私ヒールの構文覚えてないんだけど」
「んー? まあ大丈夫だろ。構文見ながらでいいから自信持て。さっきのダドリー君のヒール見てたでしょ? あれをよーくイメージしてね」
「わかった、やってみるわ」
「イメージしやすいように同じ位置に傷作っとくね」
聖女様ったら、また腕切ってる!
「それはやめてっ!」
「え? 初心者には実際にケガがあった方が治癒する様子が理解しやすいんだけどな。術者も見学者も」
「か、かもしれないけどっ!」
聖女様怖い。
ま、まあいいわ。
精神を集中して魔力をぎゅっと込めて、ソーサリーワード構文を横目で見ながら魔力を右手に持ってくる。
傷が塞がる様子をイメージして……。
「ヒール!」
や、やった! 傷が治った!
私にも回復魔法は使える!
皆が拍手してくれる。
「おお、サブリナやるな。マジで発動したぞ?」
「えっ? どういうこと?」
「簡単な魔法なら構文を暗記してなくても発動するってのは事実なんだけどさ。今日自分の魔力を知覚したばかりのド素人で発動するほど、魔法は甘いもんじゃないんだ。結構器用に魔力をコネコネしてたけど、八対二くらいの割合でダメだと思ってた」
そうなの?
たまたま発動したのかも?
「どうして言ってくれないのっ!」
「自分でダメかもなんて思ってちゃ、魔法は絶対発動しないからだよ。私はやれる大丈夫って信じてたから上手に魔法を撃てた」
「……偶然なのではなくて? 次は発動しないかもしれない」
「いや、魔力を集中する感覚、利き手に持ってくる感覚、撃ち出す感覚、全部覚えてるでしょ? 赤ちゃんが一度歩けたら次からも歩けるのと一緒で、一度発動した魔法はもう大丈夫だよ」
「そういうものなのね?」
「でもソーサリーワードは覚えてね。魔法を発動させることができても、構文を暗記してないと単位はもらえないらしいぞ?」
「わ、わかったわ」
一日で魔法を使えるようになった。
信じられない。
パパに自慢しよっと。
「さて、他の皆さんはどれくらい自分の魔力を感じられるようになったかな? さっきみたいに感情の揺らぐ時は同時に魔力も動くことが多い、とゆーか全員動いてたぞ。怒れること、泣けること、感動したことなんかを思い出して、自分の魔力を知覚するという方法を試してみようか」
――――――――――学院高等部講堂にて。留学生ラインハルト視点。
クインシー殿下に張りついて様子を窺っている。
ふむ、自分の持ち魔法属性ではないだろうに、大道芸人の器用さで回復魔法を使うじゃないか。
正直驚いた。
さすがに魔法の王国ウートレイドの王子だけのことはある。
十五分の休憩時間中に殿下と話をする。
「ラインハルト君は魔力の操作に手慣れていますね。既に何がしかの魔法をお使いになれるのでしょう?」
……探りを入れてきているわけでもなさそうだな。
子ネコのような好奇心だろう。
手の内を晒すことになりそうだが、クインシー殿下と親しくなっておく方がメリットは大きい。
「俺の持ち魔法属性は雷なのですよ。直接攻撃魔法サンダーボルトを使えます」
俺はサンダーボルトを磨いている。
それしか使えないが、威力はかなりのものと自負している。
「ああ、雷属性ですか。感知魔法を使えると便利ですね。アルジャーノン先生が得意ですよ」
気軽に言うが、感知魔法はかなり高等な魔法だぞ?
しかしせっかく学べるのなら、感知魔法を覚えるのがベストかも知れぬ。
サンダーボルトを練習する場所もなさそうだし、留学中に感知魔法習得を目差してみるか。
「聖女様も感知魔法は得意なんですよ。常時感知魔法を張っていて、切らすことはないそうです」
「えっ?」
聖女パルフェが感知魔法を?
昆虫の擬態のようなウソだろう?
彼女から感知魔法を使ってる気配を感じないんだが。
「特別製の感知魔法らしいですよ」
「特別製?」
感知魔法に特別とかあるのか?
聞いたことがない。
「ああ、聖女様が来ました」
「ふんふーん。殿下、ラインハルト君、こんにちはー」
「聖女様御機嫌ですね」
「皆覚えが良くって。次回の講義で全体の半分くらいはヒール使えるようになるんじゃないかな」
「そんなにですか?」
「魔道理論の講義受けてると違うなー。やっぱ魔道理論を一年勉強してから魔法実技って正解なのかも」
……感知魔法の気配なんか感じない。
冗談ではないのか?
「聖女パルフェ」
「何だろ?」
「君が常に感知魔法を使っているというのは本当なのか?」
「うん、本当。今も使ってる」
「アルジャーノン先生がレースのテーブルクロスのように美しい感知魔法を使っているのはわかるのだ。しかし君が使っているようには思えない」
「アルジャーノン先生の感知魔法がわかるんだ? あれ練度高いのに気付くとはやるなー。ラインハルト君も結構な魔法の使い手なんだ?」
しまった、情報を出し過ぎたか?
いや、この際俺の情報はオープンにしても構わん。
それ以上の情報を拾えばいいのだ。
「国にいる時はかなりサンダーボルトを撃ち込んで練習したな」
「そーだったか。あたしは元々辺境区生まれで、魔物と戦うことが前提になってる魔法を使うんだよ。ふつーの感知魔法だと気付く魔物がいるからアレンジしてるの」
「聖女パルフェは当然聖属性持ちなんだろう? どうしてアレンジを入れられるほどの感知魔法を使えるのだ?」
「言ってなかったっけ? あたしは全属性持ちなんだよ」
「えっ?」
聞いてないぞ。
誰も驚いていないところを見ると、ウートレイドでは常識なのか?
「聖女様は教科書に載ってるような魔法は全て御存じだそうで。それで同学年では聖女様の力を借りて、実用魔法を全員に教えようということになったんですよ」
「感知魔法は便利だから、ラインハルト君も覚えるといいぞ?」
「ちなみに聖女パルフェの感知魔法は、普通のとどう違うのだ?」
「段階的にやってみせようか。これがアルジャーノン先生が使ってる正統的な感知魔法」
わかる。
確かに同じピリッとした気配を感じる。
少なくとも聖女パルフェが高レベルの感知魔法を使えることは間違いない。
「で、これがあたしの使ってるアレンジバージョン」
あっ、金箔のように薄い!
なるほど、ここまで細やかな感知魔法の使い手はおそらく帝国にもおらぬ。
「へー、これでもラインハルト君はわかるのか。大したもんだな。最後のいくぞ? いつもあたしが張ってる水属性聖属性重ねがけの感知魔法だよ」
……全くわからん。
本当に感知魔法を使ってるのか?
「疑ってる? じゃ、あたしは後ろ向いてるね。位置変えてみそ?」
位置を当てるということか?
迂遠な。
聖女パルフェの頭に手刀を叩き込む。
感知魔法の使い手なら受けてみろ!
「はい、残念」
「……お見事」
完全に隙を突いたはずの腕を取られて投げ飛ばされた。
しかも周りで見ている連中が、さも当然と思っているらしい。
本当に感知魔法かは検討の余地があるが、聖女パルフェが何らかの手段でこちらの行動を掴んでいるのは間違いない。
「さて、休憩終わりだね。可愛い生徒達に教えてくるぞー」




