第78話:待機する時間その3
――――――――――建国祭前日、王宮にて。王妃スカーレット視点。
パルフェちゃんったら、自然派教団の蜂起に感付いて王宮に支援を求めてきましたわ。
しかも自然派教団の中では大物と思われるキーファー・ケイン子爵と、探し求めていた準聖女を連れて。
素晴らしいではないですか。
……伝令兵が来ないところを見ると現場の事態は問題ないのでしょう。
現地指揮官の判断だけで処理できているということですから。
自然派教団の蜂起なんて、王都コロナリアを揺るがす大事件のはずです。
それなのにどうやら明日の建国祭の開催に支障はなさそうな雰囲気になってきました。
というかパルフェちゃん自身は、最初から開催できると考えていたみたい。
おまけに百官をリードして、事後の処理まで大まかに決めていました。
完璧だわ。
パルフェちゃんをクインシーの妃に迎えるのに、聖女と言うだけでは重みが足りないとは感じていたのです。
やはり辺境区出身の平民という出自があるから。
でも今日の件で、少なくとも高官達はパルフェちゃんの知性と指導力を理解したことでしょう。
頭の固い守旧派貴族は反対に回る者がまだ多いでしょうけど、それも学院高等部に通う数年で解消されそう。
パルフェちゃんの存在感が徐々に浸透するでしょうから。
ああ、本当に大したものだわ。
「ごちそーさま。満足です!」
「あらあら、パルフェちゃん。おかわりあるわよ?」
「ありがとう。でもこれ以上食べると眠くなっちゃいそう。ここ温かいし。もう一働きしなきゃいけない気がしてるから起きてないと」
ニコニコしていて本当に可愛いわ。
クインシーもパルフェちゃんに惹かれているようだし、婚約者として発表するのは本当にタイミング次第ね。
今の状況だと、やはり学院高等部卒業直後になるかしら?
その頃には異を唱える者はほとんどいなくなるはず。
パルフェちゃんはまだ陛下と決めておきたいことがあるようですね。
何でしょう?
「ねえ、王様」
「む、何だ?」
「ネッサちゃんのことだよ。聖教会預かりってことまでは決まったけど、待遇をどうするか聞いてなかった」
「待遇?」
「ネッサちゃん、本来は聖女だぞ? ただの修道女ってわけにいかないじゃん。国防結界の維持において重要な存在なんだし」
「その通りだな」
「あたしは聖女降りても構わないよ。たっぷり稼がせてもらいました」
「ネッサ嬢を聖女に据えるということか」
「そうそう」
パルフェちゃんが聖女を降りる?
まあクインシーの妃として内外に活躍するとなると、聖女まで兼任するのはやり過ぎのような気も確かにしますね。
権力の集中という面でも避けた方がいいのかも。
婚約までは聖女としてのバリューが必要でしょうけど、その後はネッサさんを聖女にというのはアリかもしれません。
「……試みに問うが、そなた聖女を辞任したらどうするつもりだ?」
「そりゃあ辺境区に帰るよ」
えっ? 思わぬ発言に目が点になります。
クインシーとの婚約の件はどうなったの?
あっ、ひょっとしてパルフェちゃんたら、クインシーの妃は聖女であればいいと誤解している?
王家と聖教会の距離が近い方がウートレイドの統治に有利だから?
違うの!
聖女なら誰でもいいわけじゃなくて、パルフェちゃんがいいの!
「あ、でも学院卒業までは王都にいようかな。せっかく推薦特待生でタダで通えるから。図書室の蔵書は充実してるし友達もできたし、今スクールライフがとっても楽しいんだ」
完全に卒業したら帰るモードではないですか!
陛下、何とかしなさい! の意を込めてキッと睨みます。
「……まあ実際には聖女の交代などあり得ぬ。前例のないことで人心が動揺するからな。そなたに非があるのでもないし」
「そーかー」
「ネッサ嬢については準聖女ないし聖女補佐の名目で、国から給与を出そうではないか。子爵、ネッサ嬢、構わぬか?」
「「もちろんです」」
「早急にそのセンで調整する」
ホッ、ひとまず落ち着きました。
パルフェちゃんが聖女を辞めて田舎に引っ込むことはなくなりましたが、それにしても一大事です。
パルフェちゃんは、聖女であることにもクインシーの婚約者であることにも全然拘りがない、ということが判明したではないですか。
何ゆえに?
そういえばパルフェちゃんは『魔の森』で魔物狩りをしても、肉以外の売却可の品を気前よく聖騎士に譲ってしまうという報告がありましたね。
聖女の給料で十分足りてるから、肉以外に欲しいものがないとか。
辺境区生まれだとあっさりした価値観になるのかしら?
それともいつでも稼げる余裕なのかしら?
いずれにしてもパルフェちゃんには欲があまりないみたい。
パルフェちゃんが興味があって、釣れそうなものといえば……。
「パルフェちゃん、知っていましたか? 王宮には学院以上の蔵書があるのですよ」
「そうなの?」
「ええ。特に魔道関係の書籍は充実していますよ」
「へー、見てみたいな」
「ところで魔法クラブの活動はどうです?」
「うーん、ちょっと思ってたのとは違ったかな。宮廷魔道士になるための勉強をする場みたいなクラブだった。自由に研究というわけにはいかなそう」
「パルフェちゃん達が上級生になってもですか?」
「そうだね。宮廷魔道士になりたくて入部する子が今後も多いんだろうし。あたし達が勝手なことして宮廷魔道士になる道筋が消えちゃうのもよろしくないだろうし。下級生にはふつーに魔法教えてあげるって形になりそう」
ふむふむ、クインシーから聞いていた通りですね。
ミッションスタート!
「王宮の図書館を利用して調べごとや研究をするといいですよ」
「えっ、いいの?」
「もちろんですよ。現在の魔法クラブに在籍する部員全員に、王宮図書館の使用許可証を発行しましょう。今年は宮廷魔道士の採用が一人もなかったということで、レベル低下を防ぐことと人材確保が喫緊の問題なのです。一方で魔道の基礎研究や魔道具の開発も重要です。図書館の利用が人員確保の助けになるのならば、ウートレイド王国にとってプラスですから」
「スカーレットさん、ありがとう!」
「王宮図書館はもちろん宮廷魔道士達もよく利用しますからね。先ほどの魔道具のマント、あれの情報交換にも図書館を利用するといいでしょう」
「そうだね。楽しくなってきたなあ」
よかった。
王都や王宮のいい点を見せながら、なるべくパルフェちゃんの機嫌を取っておきましょう。
それもクインシーがパルフェちゃんのハートをきちんと掴んでおかないから……クインシー、どうしました?
「魔法クラブのことなんですけれども。来年の新入生は魔法クラブに押し寄せてしまうのではないかと」
「あっ、そーだ! 忘れてた!」
クインシーやパルフェちゃんに近付きたい新入生は当然多いでしょうからね。
「部員数が多くなった時に対応できないっていう、魔法クラブの欠点は解消されてないもんねえ。宮廷魔道士になりたい人が魔法クラブ入れないではよろしくない」
「ボクは先輩に事情を話して転部しようかと思うんです」
「じゃ、あたしもそうしよ。ネッサちゃんとマイク君はどうする?」
「私はパルフェさん達と一緒がいいな」
「オレも」
「ならユージェニーちゃんとも相談して、一応一年生部員五人は全員転部の方向で。魔法クラブと縁が切れないように、コラボできそーなクラブを検討しよう。ってことでいいかな?」
「「「賛成」」」
自然とパルフェちゃんが仕切り役になるんですのね。
そしてすぐ方針が決まりました。
いいことです。




