第72話:文化祭後の王宮
――――――――――文化祭終了後、王宮にて。クインシー視点。
「聖女パルフェがそう言った、という簡単な報告は入っている」
難しい顔をしながらお父様……お父様がサラダを口の中に詰め込む。
食事中の話題にしては重苦しいだろうか。
国防結界への魔力供与が可能な聖属性の魔力を単独で扱える存在が、聖女様以外にもいるということは。
「聖女パルフェが発言した時の状況がわからん。クインシー、説明せよ」
「はい。学院の魔法クラブで、伝説的回復魔法リザレクションに関する展示を行っていたんです。リザレクションに宮廷魔道士が関心を持ったのか、部室に来ていまして」
「その場にいたのは宮廷魔道士以外では誰だ?」
「ボクと従者のイヴ、魔法クラブの四年生の先輩二人、聖女様とマイクという同級生の修道士です」
「どういう話の流れだったのだ?」
「リザレクションがこのままの発動条件だったら、使えそうな人は一人しか思い浮かばない、という意味の発言を聖女様がされたんです。聖女様以外に純粋な聖属性を扱える者がいると、騒然となりました。国防結界への魔力供与も可能と言っていました」
「ふうむ……」
お父様はまだ面白くなさそうな顔をしている。
「聖女パルフェは迂闊なのではないか?」
「はい?」
「ウートレイド王国にとって極めて重要な話ではないか。何故そんな話を漏らすのだ」
確かにボクも思ったけど。
「仮に準聖女と呼ぶことにしようか。そういった準聖女的な存在がいると明かした上で、王家に情報を絞るのもわけがわからん。何故協力を求めない?」
「パルフェちゃんも味方が欲しいのだと思いますわ」
お母様が意外なことを言い出した。
味方とは?
「同時に準聖女がいる、という情報だけでは準聖女を危険に晒さないと考えているのだと思います」
「スカーレット、どういうことだ?」
「リザレクションを使えるようになるかもしれない。国防結界の維持に役に立つ。パルフェちゃんは、その準聖女をウートレイドのために働かせたいと考えているんだと思いますわ」
「当たり前ではないか」
「準聖女が王家やウートレイドにとって、敵対的な存在であったとしてもですか?」
思わず息を呑む。
準聖女は敵?
そんなことは考えもしなかったけど。
「陛下の仰る通り、パルフェちゃんの情報開示には違和感を覚えますわ」
「だから準聖女は敵という発想になるのか」
「敵というのは一つの可能性ですわ。あるいは準聖女の特異性を別の何かに利用しようとしている組織の手にあるとか」
「ふうむ?」
「準聖女がどういう存在であるにせよ、普通にウートレイドのために働いてくれない状況下にあるのは事実なのです。そこに障害がないのなら、パルフェちゃんはすぐに紹介してくれたはずだからです」
そんな気がしてきた。
お母様は聖女様の考えをかなり理解してるのではないだろうか?
考え方が似ているのかな?
「今その人はかなり危うい立場にある。王家や宮廷魔道士が動いてるのがバレると最悪殺されてしまうと言っていました」
「では準聖女は敵、もしくは敵の影響下にあると考えるべきですね」
「どうしてでしょう?」
お母様が笑う。
「いくつか理由がありますが……。そうですね、これは宮廷魔道士やフースーヤ殿も話していたことですが、パルフェちゃんはおそらく本来の聖女ではない、という考え方ですね」
「えっ?」
「ふむ、予も同じことを聞いたな」
「パルフェちゃんは後天的に聖属性の魔力を独立に使えることができるようになったのでしょう? 先天的に純粋な聖属性の魔力を使える本来の聖女がどこかにいるはずだという仮説です」
「では準聖女こそ本来の聖女であると、お母様はそう考えているのですか?」
「そこまではわかりませんけれど、可能性は高いでしょうね。本来の聖女が存在しているとして、それがどうして世に出ないのか? 聖女を飼い殺しにしてウートレイドや王家を嘲笑いたいのか、それとも聖女を握っていることを盾に何らかの要求を突きつけたいのか。いずれであったとしても敵でしょう」
「なるほど。しかし一四年もの間要求を出してこないのであれば……」
敵は国防結界の機能不全を狙っていた?
つまり自然派教団?
「パルフェちゃんは準聖女のいいところだけしか言ってないでしょう? きっと今は敵だけど許してっていうサインですよ」
「かもしれませんね」
「もう一つ言うと、パルフェちゃんは準聖女とコンタクトの取りやすいポジションにいるのだと思います。クインシー達に情報を流すことによって、準聖女にどういう状況の変化があるかを見定めようとしているのでしょう。限定された情報を漏らすことでいざという時、王家や宮廷魔道士が味方になってくれることを期待するのと同時に」
それで不完全な情報開示になったのか。
聖女様もお母様もすごい。
「パルフェちゃんは王家に動いてもらいたければ、必ずサインを送ってきますよ」
「スカーレットは自然派教団が怪しいと思っているのだな?」
「あら、わかっちゃいました?」
「わからいでか。となればアジトを炙り出してくれる!」
「悪手です」
「何がだ!」
「パルフェちゃんが現れたことによって、準聖女の存在価値がガクンと低下してしまっているからです」
聖女は一人しか現れないはずだった。
その聖女を囲い込んでおけば次の聖女は現れないから、国防結界は崩壊するのではないかという目論見が敵にはあった。
ところが国防結界は健在であり、新聖女が辺境区から迎えられた。
絶対のはずだった準聖女の存在が揺らいでしまい、王国からも敵対組織からも不必要な存在になってしまったということか。
「ここで王家が準聖女の行方を追っていることが知られると、準聖女の価値を浮き立たせてしまいますよ。ガードが堅くなるか、あるいは王家を悔しがらせるために処刑するという選択を取るかもしれません」
その人はかなり危うい立場にあるという、聖女様の言っていたことと矛盾しない。
「パルフェちゃんは王家に動いて欲しくないから情報を絞っているのです。私も最終的に準聖女を味方に引き込むという考えならば、それは正しいと思います。陛下はどうします? 準聖女を味方にしたいですか? 敵でもいいですか?」
「……国防結界の安定を重視するならば味方にしたい」
「でしょう? であれば今は知らんぷりするべき。パルフェちゃんの要請に即応できる体制を作っておけば十分です」
「……わかった」
方針は決まった。
当面聖女様に一任だ。
「クインシーから何かありますか?」
「聖女様がこの話をした時、いつも聖女様と一緒にいるマイクが何かを知っていそうな顔だったんです」
「では準聖女は学院の中にいる。おそらくは同級生なんでしょうね」
「えっ?」
コンタクトが取りやすいって、同級生だから?
まさか!
「いえ、これはある意味当然なのですよ。前任の聖女ヘレンが亡くなって一五年。聖女が亡くなると次の聖女が生まれるサイクルと、準聖女が本来の聖女であるという仮定がともに正しいとするなら、準聖女も一五歳ですからね。パルフェちゃんが同い年なのは偶然でしょうけど、準聖女が一五歳であることは不思議ではなくて必然に近いのです」
そういえばそうか。
推論が多いけど論理的だ。
「また先ほどから準聖女準聖女と仮称していますけれども、必ず女性であるとは限りませんよ」
「「えっ?」」
これはお父様の意表をも突いたようだ。
聖女様と仲のいいマイクやダドリーが準聖女の可能性もある?
ええ? 頭がこんがらがってきた。
お母様が笑う。
「クインシーも余計な行動を起こしてはいけませんよ」




