第63話:ネッサの告白その2
「聖教会はどうなんだい?」
「えっ? ネッサちゃん神学選択してたでしょ?」
「神学は特定の組織について教わるわけじゃないよ。パルフェさんは聖教会の聖女だから、詳しいことを知っているだろう?」
「どうでもいいことには興味がないというか、あたしにとって都合が良ければそれでいいというか。ここは聖教会の修道士で神学選択者であるマイク君の意見を拝聴しようじゃないか」
「オレの?」
急に振らないでよ。
偉そうなことなんか言えないんだが。
「そもそも聖教会って誰が一番偉いの?」
「王家との関係性も知りたいな。聖教会内部の人の方がよくわかるだろう?」
「序列ってことなら、大司教猊下と聖女様が一番上だ。さらに言うと、ウートレイド王国全体では国王陛下が一番上で、王妃殿下王太子殿下大司教猊下聖女が同格だったはず」
「マジか。あたし偉いんじゃん」
「偉いんだよ。言動から偉そうに思えないけど」
「ダドリー君が平民平民言いやがるから、そんなに偉いと思ってなかったよ」
平民なのは事実だ。
でも考えてみれば、ダドリーもよくあんなに聖女様を目の敵にしたもんだ。
最近比較的落ち着いてるのは、聖女様と敵対するのは損だと思い始めたからなのか、それとも物理的に勝てないからなのかな?
「ウートレイドは通常の統治以外に国防結界を維持しなければならないだろう? 人民の負担が大きくなるんじゃないかって説を聞いたんだ」
「あれ、あたしのお給料に対する批判かな? 傍からはそう見えるかもだけど、ウートレイドの税金が高いとは聞いてないな。この規模の国にしては軍隊が貧弱だからじゃない? 近衛兵憲兵聖騎士団の他は、各領主の持つ戦力くらいでしょ?」
「バランスは取れているってことなのか」
「税金高いのはよろしくないからね。住みにくい国からは人が逃げ出しちゃう」
「そうか……そうだね」
ネッサ嬢が再び考え込んでいる。
「国防結界は……果たして必要なのか?」
「ネッサちゃんはそこ疑問に思っちゃうのか」
「魔物がいるのは当たり前っていう考え方もあるだろう?」
聖女パルフェはしょっちゅうとんでもないことを言い出す。
魔物イコール肉くらいに思ってるだろうから、この手の意見には賛意を示すのかな?
「うーん? 初代聖女様の時代に比べれば人間も魔物に対抗する手段が多いだろうけど、強い魔物はマジで強いぞ? あたしもノーマルなドラゴンくらいまでなら何とかする。でもそれ以上の魔物だと相手したくないな」
「ど、ドラゴン?」
「ドラゴンだとまだ人間をエサくらいには思ってるよ? でもさらに上の魔物になると人間のことを何とも思ってないか、あるいは邪魔な虫くらいの感覚だと思う。あんなんと対立してはいけない。国防結界は必要」
魔物ってそんなすごいやつもいるのか。
生物学はもちろん、魔物学でもまだ身近な魔物しか習ってないから知らなかった。
「自然派教団の人達は国防結界いらんっていう考え方みたいなんだよ。魔物の本当の怖さを知らないんだと思う。辺境区に連れてってマジでヤバい魔物に遭わせてやりたい」
「私は……自然派教団員なんだ」
「ネッサちゃんが? そーだったんだ?」
この告白は驚きだ。
ウートレイド王国内で自然派教団はほとんど犯罪者集団みたいな扱いだから。
あるいは今日は従者を連れていないので、こんなことを言い出したのかもしれない。
「自然派教団員は肩身が狭いんだ。ここだけの話にしといてくれると嬉しい」
「オーケー。マイク君も内緒ね」
「う、うん」
「で、何でネッサちゃんはそんな言いにくいことを話すん? 目的があるんでしょ?」
「ああ。……教団の教えに疑問を感じているんだ」
「で、王制共和制や国防結界の話になるのか」
俯くネッサ嬢。
「……去年までは教団の教えを大しておかしいと思ってなかったんだ。ただパルフェさんに会って考えが変わって……」
「聖女の威光に当てられたってやつ?」
図書室だからケラケラ笑うのはやめようよ。
「他人の信仰をガタガタ言う気はないけど、国防結界をどうにかして魔物とともにってのは現実が見えてないぞ? そしてテロは論外」
「うん、サッパリした。少々告白を聞いてくれるか?」
「そーゆーのも聖女のお給料の内らしいから構わないぞ?」
「私は聖女なんだ」
「は?」
ネッサ嬢が聖女?
えっ? わけがわからない。
どういうことなんだ?
しかし聖女パルフェは意外でもなさそうな顔をしている。
「ネッサちゃんだったか」
「何なんだ? ネッサ嬢が聖女って?」
「いや、あたしは根性と愛嬌で聖属性を単独で使えるようになってるけど、生まれながらの聖女ではないじゃん? だから本来の聖女がどこかにいるんじゃないかなーとは思ってたってこと」
「な、なるほど。本来ならネッサ嬢が聖女だった……」
「自然派教団の関係者だから表に出てこないのかも、とは言われていたんだよ。首の魔道具が聖属性を隠してるんだ?」
「ああ。やはりわかっていたか」
ネッサ嬢が首の覆いを外すと、黒いチョーカーが現れた。
あれが魔道具なのか。
「魔法属性を封じる魔道具と聞いている」
「ネッサちゃんの魔力変だなとは思ってたんだ。大きい魔力をカットしてるような感じで。その魔道具、魔力を抑える効果もあるんでしょ?」
「えっ? それは知らない。ずっと外したことがないからかもしれないが」
「そーだったか」
「大変な事実じゃないか。これ秘密なのかい?」
「マイク君、ちょっと落ち着こうか」
とても落ち着けないんだが。
「まず現状、国防結界についてはあたしがいるから、本来の聖女がいなくても維持に問題がないじゃん?」
「うん」
「そして何で自然派教団が聖女をキープしとこうと思うのか、思惑については色々考えられるじゃん」
「えっ?」
自然派教団の思惑?
途端に陰謀じみてきたぞ。
「例えば堕ちた聖女として権威を落としたいとか、聖女の回復や祝福の術をテロに利用したいとか、あたしと親しくなったのを利用してもろともに自爆テロとか」
「か、過激!」
「そりゃそーだ。去年みたいなテロしてくる団体だぞ? 信用できるか。多分ネッサちゃんも意図は知らされてないんじゃないかな」
「ああ、聞いていない」
「じゃ、ネッサちゃんには泳いでもらった方がいい。ネッサちゃんの心が自然派教団から離れてるなら、教団内部を探ってもらうべきだよ」
「秘密にしなくたっていいじゃないか」
「王家や聖教会幹部がこの件を知ったら、自然派教団とネッサちゃんに対して何らかのアクションを取るに決まってるだろーが。そしたら教団はリアクションを起こす。十中八九暴発するね」
「そ、そうか」
「被害を小さくするためには、まず情報が欲しい。こっちが有利なタイミングで勝負すべき」
聖女パルフェは、自然派教団が必ず何かしてくると考えているらしい。
「もう一つ言っておかなければいけないことがあるんだ」
「ユージェニーちゃんを階段から落とそうとしたこと?」
「!」
クラス分けの時のあれか。
クローディア嬢の足をもつれさせたという魔法。
確かにネッサ嬢は魔法がうまい。
「そうだ。教団の教えに囚われて王位継承権保持者を敵だと思ってたんだ。悪いことをした」
「聖女様いつわかったんだ?」
「後になってからだよ。ネッサちゃんの魔力の波動を知って、事件の時の魔力と似てるなと。まあ証拠はなかった。いつかユージェニーちゃんに謝れる機会を作るよ」
「うん、よろしく頼む」
色々衝撃的なんだけど!
これオレ内緒にしておかなくちゃいけないの?
「いやー、結構満足したな。そろそろクラブ行かない?」




