第53話:魔法クラブその1
――――――――――学院高等部廊下にて。第一王子クインシー視点。
「イヴさんって女の人だったんだ?」
今日は初めての課外活動の日だ。
ボクとボクの従者であるイヴ、聖女様、スイフト男爵子息のマイクとともに、魔法クラブの活動の場である魔道実習室に向かう。
課外活動では従者を連れていてもいいのだ。
魔法クラブ出身者であるイヴも嬉しいんじゃないかな。
「男性かと思ってた。ごめんなさい」
「いいえ、お気になさらず」
思わず苦笑する。
イヴは男に見られても仕方ないと思う。
女物では合うサイズがないとかで、文官の制服も男物を着ているから。
「いーなー。背が高くて羨ましい。カッコいい」
「聖女様は可愛らしいではないですか。私こそ羨ましいです」
「自分にないものは憧れちゃうのかなー」
入学してから全然聖女様と話す機会がなかったから、今日は楽しい。
マイクも最初はボクが王子であることで緊張してたみたいだけど、段々打ち解けてきた。
「そういえば聖女様の感知魔法は細やかで美しいですね。驚きました」
イヴの言ってることがわからない。
感知魔法が美しい?
どういう意味だろう?
「同じ感知魔法で違いがあるのですか?」
「あたしのはかなりアレンジ入ってるんだ。イヴさんの感知魔法は正統派だよ。多分アルジャーノン先生のと同じやつ」
「私はアルジャーノン先生に感知魔法を教わったんです」
「あっ、そーだったのか」
「イヴ、聖女様の感知魔法は何が違うんです?」
「まず、とても薄いです」
出力を絞って薄く広げているということか?
「感知魔法は薄くするほど操作は難しくなるけど、魔力の消費は抑えられるんだ。イヴさんやアルジャーノン先生は、数値で規定できる限界の薄さにしてると思う」
「その通りです」
「あたしは術式にそーゆー厚さ薄さを決める構文を入れてないの。うすーく広げるイメージだけで制御してるんだよ」
そんなことができるのか。
聖女様はすごい。
「魔力の扱いによほど長けていなければできないことです」
「イヴさんや殿下はあたしの言ってることを理解したみたいだけど、マイク君はまだムリか。魔法は普通、ソーサリーワードの構文と数値で制御するんだよ。でもイメージでもある程度可能なんだと覚えといてね」
「は、はい」
イヴが首をかしげる。
「聖女様の感知魔法について私が理解できるのはそこまでなんですよ。まだまだ秘密があるんですよね?」
「秘密とゆーか必要性とゆーか。魔物って敏感なやつは感知魔法に気付くんだよ。こっちも魔物に裏をかかれちゃかなわないから、段々薄くするようになって。さらに水魔法被せるようになって」
「「「は?」」」
水魔法を被せる?
何それ?
「感知魔法って雷魔法なだけに、独特のピリッとした感覚があって、わかる人にはわかっちゃうの。魔物も同じ。最初はそれを和らげて察知されにくくするために水魔法を重ねがけしてたんだ」
イヴが首を竦めている。
そうだよね、魔法の重ねがけなんてしてる時点で、もう他の人にマネできない。
「感知魔法は範囲内にある魔力の存在をチェックできるんだ。当然生き物は魔力を持つから感知魔法に引っかかる。誰かが魔法を使おうとしても魔力の増大を感じ取れる。ここまでいいかな?」
マイクを含めた三人とも頷く。
「当然本来の感知魔法だけでは無生物はチェックできないんだけど、水魔法のカバーがかかってると、何かが動く時の振動を察することができるの。これは水魔法の重ねがけをしたあとに知ったんだ」
「それはつまり?」
「例えば感知範囲外から飛んでくる矢にいち早く気がつくとか」
ええ? すごい!
イヴもビックリしてる。
「水魔法じゃなくて風魔法や土魔法のカバーでも似たようなことはできるよ。でも感度の問題で水魔法が使いやすいから、あたしはそうしてる」
「聖女様みたいな感知魔法を使ってる人いませんよね?」
「見たことはないね。それでさらに聖魔法を重ねがけすると、他人の悪意も感じ取れるようになるんだよ」
「聖女様の感知魔法は三枚重ねなんですね?」
「そうそう。これだと敏感な魔物にもあんまり警戒されないし、あたしも得られる情報が多いから便利なんだ」
感知魔法と一口で言っても、使い手によって全然違うものなんだ。
「聖女様、これは秘密ではないのですよね?」
「あたしの感知魔法の内訳のことかな? 別に秘密じゃないよ」
「アルジャーノン先生が仰っていたのです。パルフェ君は感知魔法で人の悪意を感じ取れるそうだが、やり方がわからないと。話してもよろしいでしょうか?」
「もちろん構わないよ」
「オレ、本当に魔法使えるようになるのか、自信がないよ」
「マイク君何言ってんだよ。魔法なんか丸暗記でよければ誰でも使えるの。でも使えないかもなんて考えてちゃ絶対に発動しないぞ? 魔法はイメージなんだから」
「そ、そうなのか?」
「魔道理論の講義が始まったばかりだもん。わからないのは仕方ないんだって。でも殿下もマイク君も魔力量多いじゃん」
「「えっ?」」
「あれ、師匠は殿下に言ってないのか。魔力量が全てじゃないけど、多ければ当然魔法使うのに有利だよ。二人とも才能があるんだ」
聖女様に言われるのは自信になるな。
魔力量か、ダドリーとは違う魔法の才能。
フースーヤ様にも見込みがあると言われたし、ボクはボクを信じるべきだ。
「ねえ、イヴさん。魔法クラブで先輩方は何の研究をしてるのかな?」
「魔法の組み立てですね。私の時代では、宮廷魔道士になるための勉強が主でした」
「あれっ? あんまり面白そーじゃないな。具体的には?」
「宮廷魔道士になる試験の過去問の復習と、考え得る予想問題による対策ですね」
「マジか。つまらん。魔道具の研究したい」
ボクが魔道具に興味があると言ったら、聖女様はすぐに賛成してくれた。
あれは本気だったんだな。
「あたしは今、魔法属性を別個に扱えるようになる魔道具が欲しいんだよね。そうすれば聖女いらなくなるじゃん?」
「給料が出なくなるよ」
「あっ、マイク君の言う通りだ。収入の危機だ。いや、でも聖属性の魔法を単独出力できるのがあたしだけってのは、どー考えてもヤバいじゃん? おちおち旅行もできない」
国防結界の維持には純粋な聖属性の魔力が必要だという。
現在は聖女様の魔力に頼っていて、それは聖教会や聖女様の権力を強めるのに役立つはずなのだけれどもな。
聖女様は権力には興味がないようだ。
「ボクも魔道具に興味があるんですよ。豊かな生活や国の安定のために魔道具の進歩が必要です」
「だよねえ。宮廷魔道士は魔道具の研究をしているのかな?」
「していますが、人員は多くないですね。むしろ戦闘員の育成に力を入れています」
「ん? 戦闘員だから魔道具の研究しちゃいけないってことはないと思うけど。イヴさんはかなり魔法使えるのに、宮廷魔道士になろうとは思わなかったんだ?」
「就職の選択肢として考えてはいましたよ。でもやはり私に荒事は向いてない気がしまして……」
「なるほどなー」
「同期で魔法クラブに入った者は、私以外に三人いたのです。三人とも宮廷魔道士になりましたよ」
「じゃあ魔法クラブって、宮廷魔道士予備軍みたいなものなんだ?」
「はい。現在の宮廷魔道士は、学院高等部時代にほとんど魔法クラブに所属していたと思います」
そうだったのか。
ボクは場違いだったかもしれないな。
「まーあたしは自分のやりたいことやるから関係ないけれども」
聖女様の言う通りだ。
やりたいことをやろう。
魔道実習室に到着だ。




