第50話:魔道理論の初講義その2
「先生! 私も魔力塊くらい出せます! はっ!」
黄色い魔力塊を出現させる。
やった、ぶっつけ本番だったが成功だ!
ソーサリーワードの辞書を首っ引きで密かに研究していたんだ。
私だってこれくらいのことはできる!
教室の生徒たちの驚いた様子が心地良い。
あれ、アルジャーノン先生が眉を顰めているな。
許可なく勝手に魔法を使ったからか?
いや、魔法を使ってるのはあの平民聖女だって同じだ。
「ダドリー君。この魔法の解除条件はどうなっているのかね?」
「は? 解除条件?」
考えたことがなかったな。
ええと解除条件とはすなわち、魔法が切れることを意味するから?
「皆、よく聞いてくれ。魔力塊の魔法のように出現させている間中魔力を消費するタイプの魔法は、どうやって解除するか考えておかねばならない。でないと体内の魔力を使い果たした時に生命力が枯渇して死ぬ」
「し、死ぬ?」
再び教室が騒然とする。
だ、ダメだ。
どうやっても魔法が解けない。
ジワジワ魔力が消費されていくのが知覚される。
死ぬのは嫌だ!
誰か何とかしてくれ!
「パルフェ君、任せていいかい?」
「あいあいさー。ディスペル!」
チビの魔法とともに魔力塊が消えた。
今のは解呪の魔法か、助かった!
アルジャーノン先生が厳しい声が響く。
「たまたま出力の低い魔法だったから余裕があった。これが大出力で一瞬の内に魔力を消費する魔法だと、解呪さえ間に合わなくて命を落とすことになる。今後新しい魔法を習得したとしても、初めて使用する際は、私かパルフェ君の許可を得てからにしなさい。諸君、わかったね?」
「「「「「「「「はい」」」」」」」」
「ダドリー君。今日の件は私が注意する前だったから不問に付す。しかし二度目は許されないから気をつけたまえ」
「は、はい」
「いや、でもこれダドリー君が自分で組み立てた魔法でしょ? 魔道理論すら習ってないのに独学で魔法を構築して発動させるってすげえ! 才能ある!」
平民のクセに、チビのクセに。
キラキラした笑顔で褒められて嬉しいと思ってしまった。
しかしクインシー殿下の視線が冷ややかなのが気になる。
お調子者と思われてしまったか?
私が今日やらかしたのは事実だ。
失敗は甘んじて受けとめよう。
「ただの嫌味なやつじゃなかったなー」
「何だその言い草は!」
誰だ笑ったやつは。
私自身も笑ってしまったけど!
アルジャーノン先生が言う。
「今日のポイントは魔法の七属性についてだ。それぞれの特徴については各自が復習しておくように」
――――――――――同刻。第一王子クインシー視点。
今日は初めての魔道理論の講義だ。
魔道は一番興味のある分野だから、朝から少しワクワクしている。
聖女様がアルジャーノン先生の助手を務めるらしい。
聖女様はすごいなあ。
クラス分けの際にユージェニー嬢が難に遭った件、学院と聖教会から王家に連絡が入った。
おそらくエインズワース公爵家にも連絡は行っているだろう。
お母様の想像通り、やはりあれは単なる事故ではなく事件だったのだ。
あの時ボクとお母様の周りは、生徒の関係者であるところの騎士がさりげなくガードしてくれていた。
また王家の影も多かったんだと思う。
ガードの薄くなったユージェニー嬢が狙われたのだと思うと、緊張で身が引き締まる思いがする。
ボクが標的になる可能性だってあり得たのだから。
危険があるという意識は常に持っていないと。
それにしても、同じクラスだというのに聖女様とまるで接点がない。
ボクの周りにはいつも人が集まってしまうから、遠慮しているんだと思う。
従者のイヴにはサインを送ってきたというし。
魔法クラブの活動までは我慢か。
聖女様って、選択科目は何を取ってるんだろうな?
「魔法とは魔力を用いた事象一般を意味します」
「魔法は特別なものじゃないよ。誰でも使えるからね」
いけない、講義は真面目に聞かないと。
師のフースーヤ様にも魔道の筋がいいと言われたんだ。
魔道理論でみっともない成績なんか取れない。
聖女様には勝てないにしても、次点をキープしないとならないな。
魔法は誰でも使える、か。
これはフースーヤ様にも何度も言われたことだ。
魔法はイメージが重要なので、使えないと思っていては使えないのだと。
「今までのように何でもいいから魔法を一つ習得すれば単位を認めるというコースに加え、より実用的な魔法の習得を目指すコースを新設します」
「今まではちょろっと火を出せたり風を吹かせたら合格だったんだって。でもそんなんつまんないから、もうちょっと使える魔法を覚えようじゃないかっていうことね。自分の持ち魔法属性に合致するんだったら、魔法の教科書に載ってるくらいの魔法であればどれも習得できると思って」
えっ? どの魔法も習得できる?
聖女様とんでもないこと言ってない?
教室がざわめく。
極めて使いでのある上級魔法を覚えられるということになると、これはロマンだ。
高等部の勉強は高度だから取捨選択が難しいな。
領主や領主夫人、文官、商人などを目指す、実務が重要で魔法を重視しない人は、今までのコースを選択するのが合理的かもしれない。
しかし聖女様の指導を受けられるチャンスがあるのはこの学年だけ。
上級魔法を習得できるというラッキーを捨てられる学生がいるだろうか?
あ、トリスタンが質問している。
「例えば自分は火属性持ちだが、身体強化魔法を習得できるということか?」
「身体強化魔法は難しくはないよ。火属性持ちでなくても習得するところまでは楽勝でーす。でも効果はどれだけ理論を理解しているかやイメージ力にもよるから、座学も大事だよ」
トリスタンほどの剣術使いが魔法に興味を持っている?
そうか、身体強化魔法や付与魔法は武官を目指す者にも恩恵が大きいから。
となると、近衛兵や憲兵等の騎士希望者も上級魔法コースに流れる?
考えるのはあとにして、目の前の講義に集中しよう。
今日は魔法七属性の話か。
聖女様が色違いの魔力塊を七つ出現させた。
あれが七属性か。
全部を収束させることによって消失した。
単純に火と氷の魔法をぶつけたら消える、というものじゃないことがわかる。
ん? あれは確かスピアーズ伯爵家の令息か。
「先生! 私も魔力塊くらい出せます! はっ!」
黄色い魔力塊? 雷属性か。
高等部一年生なのに、もう魔法が使えるなんてすごい!
あんなのを見せられると焦るな。
ボクも練習しないと……いや、今の魔法にミスがあったのか?
聖女様が黄色い魔力塊を解呪の魔法で分解している。
続くアルジャーノン先生の説明にヒヤッとする。
「たまたま出力の低い魔法だったから余裕があった。これが大出力で一瞬の内に魔力を消費する魔法だと、解呪さえ間に合わなくて命を落とすことになる。今後新しい魔法を習得したとしても、初めて使用する際は、私かパルフェ君の許可を得てからにしなさい。諸君、わかったね?」
な、なるほど。
魔法の実践は危険だ。
下手に自習はするべきじゃないな。
聖女様がいる時にしよう。
「いや、でもこれダドリー君が自分で組み立てた魔法でしょ? 魔道理論すら習ってないのに独学で魔法を構築して発動させるってすげえ! 才能ある!」
聖女様に褒められるなんて、羨ましい!
魔法が使えることといい、ダドリーは当面のライバルだな。
うん、やる気が出てきた。
これでどうやら今日の講義も終わりだろう。
アルジャーノン先生が言う。
「今日のポイントは魔法の七属性についてだ。それぞれの特徴については各自が復習しておくように」




