第48話:ある昼のこと
――――――――――学院高等部院庭にて。エインズワース公爵家令嬢ユージェニー視点。
「お嬢様、その辺りなどいかがでしょう?」
「そうね。陽が当たって暖かそうですし、よさそうですね」
昼休憩の時間に、侍女のボニーとお弁当を広げる場所を見繕っています。
学期が始まった直後の学食は例年混雑するものですので、人混みの苦手な私には煩わしいのです。
私は今まで高等部の院庭はあまり来たことがなく、良さそうな場所を探すのに時間がかかってしまいました。
「あれっ? ユージェニーちゃんじゃないか」
「パルフェ様?」
聖女パルフェ様がマイク様といらっしゃいました。
仲良しですね。
パルフェ様は何をしていらっしゃるのでしょう。
「まだ学院の地理がよくわかんなくてさ。マイク君に案内してもらってたんだ。ユージェニーちゃんは?」
「お弁当を食べる場所を探していたんです」
「そーだったか。あたし達もお弁当持ってきたんだ。一緒に食べようよ」
全てを照らす太陽のような笑みを浮かべるパルフェ様。
私までウキウキしてきます。
クラスが離れてしまって、話す機会が入学の日以来なかったですけれども、今日はいい機会に恵まれましたね。
「歩いてないと寒いね。よっと」
パルフェ様の魔法ですが何でしょう?
見たことのない術ですね。
丸い塊?
「あっ、これは暖かいですね」
「うん。今日ちょっと冷えるからね。足元に置いておくよ。でも触ると火傷するから気をつけてね」
「初めて見た魔法です」
「いや、これただの冬用の明かりの魔法なの。光度をなくして熱に出力してるだけ。大体三〇分くらい持続するように調節してあるよ」
つまり原理としては照明の魔道具みたいなものですのね。
簡単に仰ってますけど、かなりのアレンジじゃないですか。
しかも土魔法で穴掘って半分埋めてますよ?
やっぱりパルフェ様の魔法はすごいです。
「足がじんわりポカポカしてきましたよ。いいですね」
「ちょっとお得な気分でしょ? いただきまーす」
楽しいお弁当タイムの始まりです。
話が弾みます。
「そういえば、パルフェ様がくださったというお肉をお姉様が持ってきたことがあるんですよ。食べたことのないような美味しいお肉でした」
「あっ、お土産にするんだったらもっとたくさん持ってってもらったのにな。お姉ちゃんも言ってくれればいいのに」
「いえ、かなり大きなブロックでしたよ。パルフェ様御自身が狩った魔物の肉だとか?」
「そうそう。『魔の森』にいるとってもおいしい魔物。王都じゃあれ以上のお肉を手に入れるの難しいと思うよ」
「『魔の森』の魔物を駆除するのは、本来聖騎士の役目なんだ。でも最近はほとんど聖女様が狩ってるって聞いて、オレもビックリした」
「そうなんですか?」
「うん。でも聖騎士にも魔法教えててさ。ここんとこ様になってきたから、あたしがいなくてもケガせずに魔物退治できると思うよ。でもお肉の血抜きとか毛皮売りたいからズタボロにしないとか考えると、あたしが狩ったほうが効率がいいから」
お姉様はパルフェ様に魔法のコツを教わっていると聞きました。
聖騎士にも教えているのですね。
私も教えてもらいたいなあ。
羨ましいです。
「私も上手に魔法を使えるようになりたくて、魔法クラブに入ることにしたんです」
「実にいい心がけあーんど奇遇だね。あたしとマイク君も魔法クラブに入りたいって希望出したよ」
「えっ? 確か聖職者は課外活動が免除されるのではなかったでしたっけ?」
「そーゆー話ではあるんだけど、クラブに入っちゃダメって規則はないらしいんだ。で、そんな面白そうなイベントにオレ様を参加させないのはどういうことだ。オレ様もクラブに入らせろってマイク君が駄々捏ねて」
「捏ねてないよ!」
「あはははは!」
こんなに大笑いしたのはいつぶりでしょう?
しかもパルフェ様も魔法クラブを希望しているなんて。
近年魔法クラブの人気はないそうですので、希望通り御一緒できることでしょう。
ああ、課外活動の日を待ち焦がれてしまいます。
「ユージェニー嬢ではないですか。御機嫌よう」
「ダドリー様、御機嫌よう」
振り向くとスピアーズ伯爵家のダドリー様がいました。
お友達のカーク様、ビート様もいつものように御一緒です。
……ダドリー様は押しが強いので、少々苦手なのですが。
「ダドリー君、足大丈夫だったかな? 調子悪かったら言ってね。もう一度折ってくっつけ直すから」
「だだだだだだ大丈夫だ。問題ない、うん」
パルフェ様はダドリー様を御存じなのですね。
同じクラスだったでしょうか。
でもこんなに動揺しているダドリー様は初めて見ますね。
足って何でしょう?
あとで聞いてみましょう。
「平民。ユージェニー嬢は公爵令嬢だぞ。こんな寒いところを連れ回しては失礼だろうが」
「違うの。偶然ここで会ったんだよ」
「平民のクセに口答えするな!」
どうしましょう。
言い争いになってしまいました。
私のせい?
「おいこら。平民のクセってのはどーゆ―ことだ。王立学院は身分の上下なく交流するのが建前だぞ。校則全部読んだけど、その序文に書いてあった」
「ハハハ、平民の知恵はそんなものか。建て前を本気にするとはおめでたいな。身分社会は厳然として存在するのだ!」
「王立って王家の管理下にあるってことだからな? 王位継承権保持者の前で王家の定めた理念を否定するようなことをよく言えるもんだ」
「むっ……」
お、王位継承権保持者って私のこと?
私王家の定めた学院の理念のような、大それたことを考えたことはなかったですけれども。
「伯爵令息がいつからそんなにお偉くなったのかな?」
「言わせておけば平民の分際で生意気な。聖女であることを盾につけ上がりおって!」
「バカなことゆーな。聖女だから我慢してるんだわ! あたしが聖女じゃなかったら、強制的に辺境区まで拉致してドラゴンの前にポイーだわ! ドラゴンのうんこになってしまえ!」
「ぶふっ!」
うんこ! ドラゴンのうんこですって!
こ、こんなことで笑いがこみ上げて止まらない。
いけない、淑女としてあるまじきことですわ。
気を鎮めなくては。
「あれ? ユージェニーちゃん気分が悪そうだね? どうかした?」
「い、いえ、これは……何でもないんです」
「口汚い舌戦がショックを与えちゃったかな? あたしはエンターテインメントのつもりだったんだけど、ごめんね」
「ユージェニー嬢、くだらない諍いを見せて申し訳なかった」
「ダドリー君、今日は休戦だ。あたしはユージェニーちゃん送ってくるから、また今度ね」
「うむ」
よかった、大きな対立にはならなかったです。
食べ終わったお弁当を片付けて教室へ向かいます。
マイク様が呟きました。
「ダドリーは嫌なやつだ」
「んー? まあでも今日は紳士的に引いてくれたじゃないか。この前足引っ掛けてきた時は根性腐ったやつかと思ったけど、そーでもないかな」
ああ、足とはどういうことか理解できました。
それにしてもパルフェ様は大変寛容ですのね。
「ユージェニー様に配慮しただけだ。オレ達のことなんか考えちゃいないよ」
「ユージェニーちゃんだけじゃなくて、女の子には格好つけたがるんじゃないかなあ。ダドリー君が今まで女の子に絡んだことある?」
「……見たことないな。この前の講義始まった日の聖女様が初めてだ」
「きっと好みの女の子は無視できないタイプなんだよ」
何てポジティブ!
アハハと笑いが出ます。
パルフェ様と話しているとすごく楽しいです。
魔法クラブで御一緒できるのが待ち遠しいですね。




