第33話:縮こまるゲラシウスその1
――――――――――翌日、王宮にて。ゲラシウス(まだ一応)大司教視点。
ああああああ、胃が痛いである。
聖教会の幹部らとともに王宮に呼び出されたである。
国防結界の管理を怠り、世界を滅ぼしかけた吾輩の罪を問うとのことである。
仕方がないではないか。
吾輩も知らないことが多かったのであるから。
しかしやるべきことをやらなかったのはその通りなのである。
大司教の椅子に固執してしまい、アナスタシウス殿下と小娘を呼び戻すのを躊躇った自分が憎い。
ああああああ、本当に反省しているのである。
国王ローダーリック陛下の目が怖いである。
吾輩が何をしたであるか。
いや、何も策を講じなかったことを責められているのであった。
この上小娘にリザレクションを使わせて結果的に自然派教団のテロに出動できなくさせ、追放のきっかけを作ったことがバレては首とおさらばである。
アナスタシウス殿下に軽く肩を叩かれる。
「ゲラシウス殿。可能な限り弁護する。胸を張れ」
「は、はい」
アナスタシウス殿下が頼もしいである。
かつて追い落とそうとしたことは心の内で反省するである。
いや、単に殿下は陛下を嫌っているからか?
それとも聖教会が王家の下風につくことを潔しとしないから?
吾輩の首が繋がれば何でもいいである。
見れば宰相閣下もいるである。
居並ぶ司法官達、宮廷魔術師達、近衛兵達。
何故宮廷魔道士があんなに多いであるか?
小娘にリザレクションを使わせたことが完全に筒抜けになっているであるか?
「あれは王妃様……」
「あっ、じっちゃんズ!」
じっちゃんズ? フースーヤ殿とフェリックス様のことであるか?
まあ小娘は無礼であるからな。
しかしフースーヤ殿はわかるにしても、何故フェリックス様がこの場に?
そしてスカーレット王妃殿下とクインシー王子殿下も?
王妃様が小娘に気さくに話しかける。
「あなたが聖女のパルフェさんですの?」
「パルフェ・カナンだよ。王妃様かな? よろしくね。にこっ」
「あらあら、お会いしたかったんですのよ。スカーレットと呼んでくださいませ」
「スカーレットさんね」
どうしてあやつは馴れ馴れしいのだ。
不敬ではないか。
いや、制度上聖女は王族と同格なのであったか?
にこっでクインシー殿下が頬を赤らめているのも解せぬ。
殿下は女子に対する耐性がなさ過ぎるのではないだろうか?
長年目がお見えにならなかったことの弊害がこんなところに?
ウートレイド王国の将来が不安である。
ああ、そんなことより吾輩の将来の方が不安なのであった!
首が肩に乗ったまま帰れますように!
「聖女殿」
「じっちゃんも久しぶりだねえ」
「うむ。聖女殿に目を治してもらったクインシー殿下が、来春の学院高等部入学に向けて鋭意勉強中であるのだ。わしも家庭教師や教材の手配が忙しくてな」
「じっちゃんそんなことしてるんだ?」
「うむ、フースーヤ殿にもそのために来ていただいたのだ」
「魔道の勉強のために? じっちゃんの修行は相当厳しいぞ? じっちゃん二人でややこしいわ。師匠は師匠って呼ぼ」
「そんな理由なのか。いや、クインシー殿下はなかなかじゃぞ」
「あれ、師匠が褒めるの珍しいな。相手が誰でも忖度しないんだよ」
「そうなんですか? 嬉しいです」
「クインシー殿下は魔力を掴む感覚に大層優れておるのじゃ。おそらく視力を失っている間に培われたものじゃろう」
「ふーん、世の中にムダなことってないんだなあ」
ガルガン宮廷魔道士長が挙手する。
何であろう?
緊張するである。
「パルフェ殿は伝説の魔法リザレクションを用いてクインシー殿下を癒したのではないかとの観測が出ております。その点については?」
吾輩じゃなかった。
少しホッとしたである。
でもリザレクションについてか。
ジワジワと首が締まる感じがするである。
「御想像にお任せしまーす」
「この場に参じている者全てに命じる。今から耳にすることを決して漏らしてはならぬ。聖女パルフェよ。真実を話してくれ」
「そー言われちゃうと断れないなあ」
チラッとフースーヤ殿を見やる小娘と、頷くフースーヤ殿。
「うん、あの魔法はリザレクションだよ」
「おお……」
「やはり……」
どよめく宮廷魔道士達。
やはりバレているであるううううう!
興奮気味の宮廷魔道士が小娘への質問を続ける。
「リザレクションは死者でも生き返らせることができると伝えられていますが、本当でしょうか?」
「ウソではないけど、まあムリだよ」
「というのは?」
「宮廷魔道士さんなら知ってると思うけど、リザレクションは術者の魔力が満タンじゃないと発動しないんだ。そしてお亡くなりになったばかりで魂が離れていない状態じゃないと生き返らせることはできない。そんな条件が揃うことがそもそもないな」
そうだ、小娘は言っていたである。
リザレクションは術者の魔力をほとんど持っていくと。
だからクインシー殿下を治す時も、魔力満タンの状態ならとのことだった。
「もう一つ質問です。騎士シリル、クローディア嬢、アデライン夫人、前伯爵メイナード様、セシリー嬢、宮廷魔道士レックス、貿易商ベンジャミンを治療した魔法も、全てリザレクションですか?」
「そーだよ。レックスさんって宮廷魔道士だったのか。そりゃバレるわ」
見事なまでに患者全員を把握されているである。
ケラケラと笑う小娘。
何故そんな能天気なのだ!
そして何故吾輩は宮廷魔道士などを小娘に治療依頼したであるか!
身分を隠している者は信じられないである。
「パルフェ殿は聖女であった際、魔法による治療で金銭を受け取ることに関して否定的であったとの証言がありますが、それは?」
「いや、否定的ではないよ。聖女の仕事じゃないと思ってただけだよ」
「詳しく説明願います」
「聖女のお仕事イコール、国防結界の維持のためにあたしの魔力を国にお買い上げいただいてるものだと考えているんだ。その他低級回復魔法による無償の癒しもあるけど、それ以上の多くの魔力を使ってお金をもらうのは魔法医のお仕事だよ。結界の維持をはじめとする聖女のお仕事に支障があっちゃならない」
その通りである。
国防結界を維持する魔力の供与こそが聖女の務め。
全員が頷いている。
「一方でリザレクションのジレンマってやつがあるじゃん? 魔力をほぼ全部持っていかれるメチャクチャ使いづらい魔法で、明らかに聖女のお仕事と両立しない。だけど確かにリザレクションでしか治せない症例も多くてさ。しかもあたししか使えないから、有効に使う方法がないかなーとは思ってたの。そーゆー思いを抱えてた時に、患者を連れてくるから治療してもらいたいって言われたんだ。結界の維持には影響のないように調節してもらってたし、聖女のお仕事休みの日にあたしでしか治せない患者さんを診ることはいいことかなと考えた」
実に聖女らしい考え方である。
どうしてその聖女らしさが口調や態度に現れないのであろうか?
ふう、と息を吐く小娘。
「自然派教団のテロとゆーのは計算外だったな。でもそうでなくても事故かなんかで大量の患者さんが出ることはあり得るもんねえ。あたしのしてたことは軽率だったよ。ごめんなさい」
「自然派教団のテロのあった日、貿易商ベンジャミンをリザレクションで治療したため、癒しに出遅れたということで間違いないですね?」
「間違いないでーす」
「大司教ゲラシウス殿」
「はい」
ついに来たである。
心なしか冷たい声で、しかも『猊下』と言ってくれないである。
心臓が潰れそうである。




