第25話:追放の旅路
――――――――――翌日、王都コロナリア正門にて。アナスタシウス元大司教視点。
「おっちゃん、巻き込んじゃったみたいでごめんよ」
「いや、私こそすまん。せっかく辺境区から連れ出したというのに、御両親に申し訳ない」
「三ヶ月でクビかー。楽しかったからまーいーや」
王都正門外までヴィンセント聖堂魔道士長、マイルズ聖騎士団長、シスター・ジョセフィンの三人が見送りに来てくれた。
律儀なことだ。
「残念です。パルフェ様の存在はウートレイド王国にとっても聖教会にとっても重要でありますのに」
「猊下、国外追放はやり過ぎではないですかな?」
「もう私は猊下ではない。王弟殿下と呼んでくれ」
アハハと笑い合う。
ウートレイドを去る前の最後の軽口だ。
「仕方ない。聖堂主管や神職長が相当とさかに来ていたからな。非があったのはパルフェだ。聖教会を分裂させてはならん」
「パルフェ様が可哀そうです。まだ一四歳なのに」
「お姉ちゃんは優しいなー。いいんだぞ? 元の生活に戻るだけだから」
「でも故郷のハテレス辺境区には戻れないのでしょう? あそこも国防結界の外部とはいえ、ウートレイド王国内ですから」
「あれ? 理屈からするとそーだな。じゃあどこ行こう?」
私に一つ腹案がある。
「パルフェ、隣国のネスカワンに行かんか? 私の母の出身国なのだ。少々伝手がある」
クビになったとはいえ、貴重な聖女の資質の持ち主だ。
いざという時のために監視しておく必要はあるだろう。
私自身が見ておくなら間違いはない。
「ネスカワン? 行く行く!」
「随分と乗り気だな。何故だ?」
「ギガトード食べてみたかったんだ。ネスカワンにいるの。おいしいんだって」
えっ、ギガトード?
カエルの魔物?
パルフェらしいと言えばらしいが、両生類を食卓に乗せるのは勘弁して欲しい。
「ネスカワンは東だね。ハテレス辺境区とは真逆だなあ」
パルフェの言葉にヴィンセントマイルズシスター・ジョセフィンが同情を帯びた視線を向ける。
ムダだ、パルフェがセンチメンタルな感情など持ち合わせているわけがない。
どうせ故郷で食べることのできた魔物が遠くなるな、くらいのことを考えてるだけだろう。
「じゃ、行こうか。見送りありがとう。ばいばーい!」
「さらばだ。聖教会をくれぐれもよろしく頼む」
飛行魔法でびゅーんと東へ。
◇
「国外追放ってのは、最初からネスカワン行きが頭にあったんでしょ?」
「そうだ」
街道上空を飛行魔法で行く。
飛行魔法とは実に快適なものだ。
「何で?」
「カーティス聖堂主管が恐れていたのは、反聖女派による工作だろう。となるとウートレイドにいたのでは攻撃が止むことはない。どの道国外に出ねばならなかった」
ならば後手に回るよりも、最初から重そうに聞こえる処罰にしておいた方がいい。
「それで追放なのかー」
「ウートレイドの状況次第では早期に帰国できるであろうしな」
「色々考えてくれてありがとう!」
「いや、パルフェはよくやっていた。私こそ報いてやれずにすまなかった」
「そんなことないよ。三ヶ月で結構なお給料もらったから、武器買おうと思うんだ」
冒険者をやらないという選択はないんだな?
私の母の実家の公爵家に身を寄せれば、魔物狩りなんてしなくても楽に暮らしていけるのだが。
まあわざわざ国外を選択したのだ。
パルフェにはやりたいことをやらせてあげたい。
それだけの能力がある少女だ。
「あたし合法的に国境越えたことはないんだよなー。手続き面倒?」
「今若干気になるフレーズがあった気がしたが無視するか。いや、国境では簡単な身分照会だけだ」
「もうぼちぼち国境じゃないかな。お昼御飯は国境超えてからにしようか」
「わかった」
「楽しみだなー」
食欲旺盛だ。
微笑ましい。
「しかし飛行魔法は素晴らしいな。パルフェほどの使い手はどれほどいるものなのだ?」
「重力を操る土魔法の応用だから、メッチャ難しいわけではないの。飛行魔法の使い手は多いはずだよ。でもちょっとミスると結構な事故になるじゃん? 普通は高いところに上るとか下りるとかの利用になると思うよ。長距離の高速移動に使ってる人はあたし以外にいないんじゃないかな」
「そうなのか? 例えばフースーヤ翁は?」
「じっちゃんもあんまり運動神経ないからな? 長距離はどうだろう?」
魔法の制御には運動神経も必要なのか。
「結構な事故と言われると怖いのだが」
「あたしの飛行魔法は特別だぞ? 風の防護魔法を重ねがけしてあるから、雨が降っても鳥にぶつかってもへーき」
「ふうむ、なるほど」
道理で風を感じないわけだ。
防護魔法のおかげだったのか。
しかし飛行魔法と防護魔法を重ねがけして数時間ってどんな魔力量だ。
「おっちゃんのお母ちゃんはネスカワンの人なんだ?」
「そうだな。兄陛下の母とどちらが正妃かで当時はゴタゴタしたらしい」
「あたしそういう王族様貴族様の事情はよく知らないんだよね。陛下のお母ちゃんとおっちゃんのお母ちゃんの内輪揉めを引きずってるから、陛下とおっちゃんが仲悪いってことなの?」
「まあそうだ。どちらが正妃かを定めなかった父先王陛下が一番悪い」
国内貴族とネスカワン、両方に配慮しなければならなかった事情はわかる。
次代に問題を先送りしたのはいただけないが、同格の正妃二人を押し通した父は大物だと今になって思うこともある。
年齢や立場で見方が変わることはあるものだ。
「人口はウートレイドとネスカワン、似たようなもんだよね?」
「ああ。歴史は知ってるな?」
「魔物の活動を抑制する結界を開発した初代聖女と協力したウートレイドが国として成立したから、人口が増えて魔法や技術が発展し、周りにも国が興ったってことは」
「そうだ。昔は周辺国と紛争を起こしたこともあったが、結局ウートレイドの国防結界が壊れると何が起きるかわからんからな。一応ウートレイドを立ててくれるという現在の状況ができあがった」
「でもウートレイドは威張ってないよねえ?」
「ウートレイドは余力を結界に全振りしている。王都聖教会だけでなく地方六ヶ所の結界の基石の管理にな。そして魔道技法はともかく兵力はなきに等しい。万一攻め込まれたら一溜まりもない」
「その代わり国防結界が壊れたら攻め込んだ国もどうなるかわからないってことか。じゃ、ウートレイドは安泰として、この前のテロの自然派教団てのは何なん? あれは全然知らない団体なんだけど?」
自然派教団か。
あの狂信者どもが。
「自然、つまり初代聖女以前の状態に戻せという教えだな。結界は壊せ、魔物と共生する。辺境区にはなかったか?」
「聞いたことないなー。辺境区は結界なんかないじゃん? そんな宗教を布教させようとしたら、頭湧いてんのかと思われそう」
「ハハハ、そうかもな」
「エストラントでも自然派教団なんて聞いたことなかったぞ? 王都限定なのかな?」
「ふむ? そうかもしれぬ」
「ロクなもんじゃないなー」
「意外だな。パルフェは魔物と共生は支持するのかと思った」
「労力が報酬に見合ってる魔物だけならいいよ? 草食魔獣とか。何でもかんでもなんて冗談じゃないわ」
「確かに」
パルフェはリアリストだ。
それだけに自然派教団などという、いかれた理想主義者のテロは想定外だったのかもしれない。
「結界壊せなんて言ってる連中はドラゴンに頭齧られればいいと思う。きっと考えが変わるよ」
「ドラゴンに齧られたら、その考える頭がなくなってしまう件」
「あ、ほんとだ」
アハハと笑い合う。
さて、国境だな。




