番外編:光の見えた日
パルフェが王都に来た直後のお話です。
――――――――――クローディア・スモールウッド伯爵令嬢視点。
「神経が切れてしまっています」
「と、言うことは?」
「残念ながら、お嬢様の足はもう……」
「そ、そんな……」
お医者様の言葉に顰め面で首を振るお父様と。
泣き崩れるお母様を、どこか他人事のように見ていました。
わかっていました。
右足も左足も、付け根から全然感覚がないのですもの。
馬車事故に巻き込まれたのです。
下半身が挟まれたようで。
意識を取り戻した時には、足が全然動きませんでした。
傷は治りましたけど、足を動かせる気配は一向になく。
今日のお医者さんの沈痛な顔を見て、諦めもつきました。
諦めというか、絶望ですね。
私が何をしたというのでしょう?
神様を恨みたくもなります。
「初等部だけでも卒業しておきなさい」
「……はい」
王立学院初等部の卒業まであと一年です。
ああ、高等部にも進学したかったですけれど。
お父様の言い方からすると、進学できる見込みはないようです。
わかります。
王立学院に通うのには結構なお金がかかりますから。
私もこんな身体になってしまっては、他家に嫁ぐことはできません。
スモールウッド伯爵家当主たるお父様の観点からすると、王立学院高等部に通わせて娘の商品価値を上げる理由はない。
政略に使えない娘にムダ金は使えない、という意味です。
私もそう思います。
スモールウッド伯爵家のことを考えるならば、私よりも家を継ぐ弟に一層力を注ぐべき。
はあ、気分が沈みますね。
この先いいことなんかないんじゃないかしら?
◇
――――――――――数ヶ月後、スモールウッド伯爵邸にて。
従者による補助を特別に許可してもらい、また級友の皆さんの助けを借りながら、どうにか学院初等部に通っていました。
暑い季節は厳しいですね。
お父様が妙な言い方で問いかけてきます。
「クローディアは、可能なら元の身体に戻りたいだろう?」
「もちろんです」
決まっているではありませんか。
再び歩けるようになることを、何度夢に見たことか。
朝起きるたび、変わらぬ我が身に何度ため息を吐いたことか。
もう諦めているのですけれどもね。
お医者様も魔法医の方も、絶対ムリだと首を振っていらっしゃいましたから。
でも心のどこかに奇跡を信じる自分もいるのです。
「最近聖教会に新しい聖女が現れたろう?」
「はい。パルフェ様という、確か私と同い年の」
「今から言うことは内密にな。第一王子クインシー殿下の目が快癒した。新聖女パルフェが治したという」
「えっ?」
「聖女の神秘の魔法だそうだ」
クインシー殿下も私と同い年です。
長いこと目を患っていたとは聞いていますが、治ったということになると王太子になられますよね?
結構な衝撃的ニュースなのでは?
「本当なのですか?」
「確実だ。フェリックス様に直接聞いた」
フェリックス様はドランスフィールド侯爵家の元当主様。
クインシー殿下の母方の祖父です。
疑う余地はないようですね。
「フェリックス様によると、新聖女パルフェは常識では考えられない回復魔法を使用できるらしい。しかしその魔法には莫大な魔力を必要とするのだそうな」
「……聖女様の魔力は、国防結界の維持に回されるのではなかったですか?」
「まあそうだ。だから誰にでも聖女殿の魔法を使うわけにはいかぬ。ただ神秘の魔法で確実に救われる者もいるから、密かに治療のための窓口を開いているということだ」
なるほど、理にかなっていますね。
私も神秘の魔法の対象者に?
「クインシー殿下は来春王立学院高等部に編入の予定で、調整が進んでいるらしい。が、殿下の話はこの際置いておいてだ」
「問題は私の身体、ということですね?」
「そうだ」
つまり私の足は治る可能性がある?
事実ならば嬉しいことですけれども。
「結論から言うと、もう聖女殿の予約は取ってある。明日朝聖教会本部礼拝堂に出向くから、今日はよく寝ておくのだぞ」
「えっ?」
お父様が片頬を吊り上げます。
あっ、サプライズのつもりでしたか?
もう、驚かせないでくださいませ!
……聖女様だって何でもかんでも治せるわけではないと思います。
見込みがあるといいなあ。
せめて今夜はいい夢を。
◇
――――――――――翌日、王都コロナリア聖教会本部礼拝堂にて。
「いらっしゃーい!」
「聖女殿。よろしくお願いいたしますぞ」
お父様とともに、聖教会本部礼拝堂にやって来ました。
目立たない一室に案内されます。
神秘の魔法による治療自体が秘密だからですね?
何だかドキドキします。
聖女パルフェ様は黒い目で黒髪の、小柄で可愛らしい方でした。
あまり聖女っぽいイメージではないですね。
ニコニコしていて、どこかのお店の看板娘という感じです。
隣にいらっしゃるお腹の大きな方はゲラシウス筆頭枢機卿。
サブリナ様の父君ですね。
「クローディア嬢は半年ほど前の馬車事故で、両足を動かせなくなったそうである」
「そりゃ災難だったねえ」
「元々クローディアは明るい娘だったのです。事故以来塞ぎこむことも多くて」
「今身体で痛いところはないかな?」
「ありません」
「ふーん、ちょっと診せてね」
「はい」
聖女様は太もも辺りを触っていらっしゃいます。
本来はくすぐったいものなのでしょう、が……。
「あの、両足の付け根から下には全然感覚がないんです。お医者様には神経が切れているから治せないと言われて」
「よろしくないな」
ああ、聖女様が難しい顔をしていらっしゃいます。
やはり治らないものなのでしょうか?
「クローディアちゃん、いいかな?」
「は、はい」
「これは治したって歩けるようにならないんだよ。筋肉が落ち過ぎてる」
「えっ、筋肉? ……神経の方は?」
「神経は問題ないな。あたしに任せろ」
少なくとも感覚は戻ってくる?
希望の光が差し込んだように思えます。
こんな浮き立つ気分は久しぶり!
「いい顔になってきたね。歩けるようになるかならないかは、クローディアちゃんの根性次第だぞ?」
「わかりました!」
「かなり厳しいリハビリになると思う。でも絶対諦めんなよ?」
「はい! 必ず!」
私が努力すれば報われるということですね?
どうにもならないのでなければ頑張れます!
「よーし、いい返事。いくぞお! ハイヒール!」
眩しい!
すごい魔力光です!
あっ、聖女様が倒れた?
ゲラシウス様が聖女様をベッドに寝かせます。
大丈夫なのでしょうか?
「聖女パルフェのことなら心配ないである。魔力を使い果たすとこうなのである」
「クローディア、身体はどうだ?」
「あっ、感覚が戻ってきました!」
少しですけど、足も動かせます!
「よかったである。しかし聖女パルフェは言っていたである。歩けるようになるかならないかは根性次第だと」
「はい!」
そうですね。
お父様の目に涙が見えます。
心配かけてごめんなさい。
私はやります!
「謝礼と寄付金は後日必ず」
◇
足を少し上げられるようになり、立ち上がれるようになり。
数ヶ月で歩けるまでに回復しました。
本当に、本当に、毎日自分の進歩を実感できて。
学院高等部にも進学できることになったんです。
聖女パルフェ様にはいくら感謝してもしきれません。
クインシー殿下はもちろんのこと、聖女様も学院高等部に編入されると聞きました。
治療の日以来、聖女様に会う機会がなかったのです。
高等部で再会できると思うと楽しみですね。
神秘の魔法で治してもらったことを、大っぴらに言ってはいけないそうなのです。
けれど歩けるようになった今の私を、ぜひ見てもらいたいですね。
私に未来を与えてくれた聖女様に。




