番外編:アースドラゴンその1
パルフェが王都に来る前のお話です。
――――――――――ハテレス辺境区にて。傭兵ハンス視点。
ハテレス辺境区ってのは、行政上はウートレイド王国に属している、一応。
まあウートレイド国民は一般に、国防結界の中を自国と認識しているんだそうだ。
始まりの国の結界国家だもんな。
当たり前と言えば当たり前。
ハテレスみたいな端っこも端っこは、ウートレイド人もあまり自国扱いしていない。
国防結界の恩恵のないハテレス辺境区は魔物も多い。
たまにバカみてえに強力な魔物が出現することもあるんだ。
そんなところに人間なんか住まない、と思うだろ?
これが大きな間違いなんだな。
魔石をはじめとする魔物由来の素材。
これが結構金になるのよ。
腕に自信があっても人間関係を壊した者なんかに、ハテレスはいい場所だ。
ハテレスの人間はカラッと陽性で気持ちのいいやつが多い。
他人の過去を大して気にしたりはしないから。
金になるものがあれば商人も集まる。
店もできる。
かくしてハテレスは結構な賑わいを見せてるってわけさ。
オレみたいな傭兵稼業も、世の中平和じゃおまんまの食い上げだ。
経費削減で契約を切られてハテレスに流れてきたってわけさ。
まあ見事なくらい人種の坩堝で、帝国語も共通語も普通に通用するから、他所者にとっても都合がいいんだ。
他所者に優しいってのもハテレスのいいところだ。
辺境区の外でおかしな噂をバラ撒かれると人が集まらなくなるから、なんて穿った見方をするやつもいるが、多分そんなことない。
辺境区なりの秩序なんだと思う。
ハテレスなんて僻地も僻地だ。
脛に疵持つ者も多かろうにそれなりの秩序が保たれてるのは、ここを追い出されたら行くところがないってことだけじゃないだろう。
何故か世話焼きが多いんだ。
人情味があるとも言う。
『おっ、お兄さん結構な腕だね。魔物退治行くんだ。付き合ってくれない?』
ニコニコした小柄で黒髪の少女に声をかけられたのは、ハテレスに到着したばかりの時だ。
ド田舎に流れてきた端なんか気分もささくれてたけどよ。
まあ可愛い女の子を無視するほど、人間辞めちゃいなかったね。
女の子が魔物退治ってどういうことだ? と思ったが隙がない。
デカい金棒を持っている。
この子何者だよ?
パルフェ・カナンという名のその少女は、ハテレスではメチャクチャ有名だった。
『漂泊の賢者』フースーヤの弟子で、信じられないほど多くの魔法を使いこなし、また持ち魔力量もデタラメに多いんだそうな。
大物狩りの時は必ず声をかけられる凄腕冒険者。
何でオレに話しかけてきたかというのも、ちゃんと理由があった。
『だってハンスさん、どうせまだハテレスに来たばっかりだったんでしょ? 見たことない顔だったし、キョロキョロしてたもん』
ハハッ、その通り。
おかげですぐハテレスに馴染むことができて、色々助かった。
パルフェちゃんはハテレス辺境区の人気者だ。
逆らうやつはいない。
単純にいい子で可愛いってこともあるんだが、ヒーラーとして卓越した技術を持っているからだ。
ヒーラーに盾突いていいことなんかない。
ケガが日常茶飯事のハテレスでは、もちろん回復魔法ヒールの使い手は多い。
ただパルフェちゃんのヒールは効きが違うんだな。
聖属性持ちで、おそらくイメージが洗練されているから。
結構な大ケガでも一発で治癒する。
使ってるところを見たことはないが、より上級のハイヒールの使い手でもあるという。
ハイヒールともなるとヒールとは格が違う。
使い手になるには、それなりの魔道士による伝授が必要になる。
かつ聖属性持ちは女性にしか現れないとなれば、普通はデカい町で魔法医なり癒し手なりをするもんだ。
ハテレスみたいなド田舎に使い手がいる方がおかしい。
パルフェちゃんに聞いたことがある。
デカい町に憧れはないのかと。
『ないなあ』
『どうして?』
『でっかい町は魔物がいないからでっかいんじゃん?』
『そりゃまあ』
『おいしい魔物肉が食べられなくなっちゃうわ』
理屈が極めてパルフェちゃんらしいわ。
しかしわかる。
オレもハテレスに来て初めて魔物肉の美味さを知った。
安くて新鮮で美味い肉をいつでも食えるところは、辺境区のいいところだな。
そんな日常を乱す事件が起きたのは突然だった。
◇
「アースドラゴン?」
「ああ」
ハテレスでも凄腕連中が額を寄せる。
山一つ越えた向こう側にアースドラゴンが現れたという斥候からの報告に、皆が顔を顰める。
「確かなのかよ? アースドラゴンなんて見たことねえだろう?」
ハテレスではたまにドラゴンも飛来することがあるらしいが、グリーンドラゴンやサンダードラゴンのような飛行が得意な軽量級なんだそうだ。
通常真竜種では最強と言われるアースドラゴンなんて、さすがに現れたことはないとのこと。
「グリーンドラゴン以上のプレッシャー。尻尾で木をなぎ倒す技を使うとの報告だ」
「ちっ、テールストライクかよ。間違いなさそうだな」
パルフェちゃんが殊更深刻そうな顔で言う。
「おかしいと思ったんだ」
「何が?」
「最近狩り過ぎてもいないのにお肉達が少ないし、何か慌ててるように見えるから」
皆が一斉に苦笑する。
パルフェちゃんがお肉と言うのは草食魔獣のことだ。
パルフェちゃんにとっては、アースドラゴンの脅威より肉の心配なんだなあ。
「いや、しかし放ってはおけねえだろ」
「同感」
アースドラゴンがどこから来たかと言われれば、ガーツ山脈をはじめとする西の魔境からだろう。
魔境は魔素濃度が高く、魔物が暮らしていくのに都合がいいとされている。
しかしどんな気まぐれか、時々魔境を離れるはぐれ魔物が現れるのだ。
東に向かってるのであれば、ハテレスに被害が出る可能性が高い。
まったく自分のねぐらで大人しくしてればいいものを。
「じゃあ退治するとして、どうやって?」
「パルフェ、どう思う?」
パルフェちゃんに聞くのはわかる。
パルフェちゃんがムリと判断すりゃ、尻尾を巻いて逃げ出すしかねえだろう。
多彩な魔法でどうにかなるならあるいは?
「うーん、アースドラゴンの攻撃って、尻尾アタックと土くれのブレスと、爪、踏み潰しくらいだよね?」
「そう言われているな」
「アースドラゴンの鱗って、ほとんど攻撃魔法が通らないらしいじゃん? となるとあたしは補助にしかなれないけど」
思わず顔を見回す。
物理で何とかしろと?
ムリじゃねえ?
ブレスとテールストライクが厄介だ。
「……敏捷性自体はさほどないはずだ」
「……ブレスとテールストライク、どうにかならないか?」
「結界と魔法の盾で防げるような気がする。でも実際にアースドラゴンの攻撃を見たことがないからわからんなー」
ごもっとも。
どちらにしても、このメンバーでの偵察は必要か。
「ものは考えようだぜ。ブレスとテールストライクを封じることが可能なら、少しずつ鱗を剥がすことはできると思うんだが?」
「ハハッ、アースドラゴンの鱗か。金になるな。やり甲斐があるぜ」
「パルフェちゃん。鱗剥がしたところから魔法叩き込むことはできるだろ?」
「うん、鱗さえなければ任せて」
「よし、じゃあ方針は決まりだ。パルフェがアースドラゴンの攻撃を無効化できるなら、鱗を剥がして少しずつ弱らせ、魔道士の大技で始末する。防げなきゃ退治はムリだ。エサで釣って進路を変えさせるなり、別の手を考えようぜ」
「「「「「「「「賛成!」」」」」」」」
「じゃあ退治は明日な。遅れるんじゃねえぞ」
何とアースドラゴンみたいな大物と決戦かよ。
人生色々あるもんだぜ。




