第126話:新しき一歩
――――――――――学院高等部教室にて。マイク視点。
「春季の休業期間中が忙しかったからさ。色々準備が足りないんだよね」
新学期が始まった。
高等部の三年生になった。
オレは今年も聖女パルフェと同じ最優秀クラスに入れたので嬉しい。
「聖女様が忙しかったのは知ってるけど。準備って何だい?」
聞いた話によると、ミナスガイエス帝国の謀略で国防結界を物量で破ろうとしたワイバーンの群れを、転移魔法で帝国に『お返しした』らしい。
国境の川沿いに布陣した帝国軍は急ぎ帰国、必然的に帝国戦は未遂に終わった。
その後すぐさま帝国からの留学生ラインハルトとその一行を連れて、帝国の首都ラトルバに飛行魔法で訪問。
ローゼンクランツ公爵家の仲介で今上帝カールハインツ陛下に謁見し、ワイバーン退治を手伝ってきたそうだ。
自分で火事を起こして消すみたいなやり方は相変わらず聖女らしくないと思うけど、同時に聖女パルフェらしいとは思う。
「春休み中お肉あんまり食べられなかったんだよなー」
「それが準備なの?」
「体調を整えることは重要だぞ? 立派な準備だ」
聖女パルフェの体調はどこも悪くないと思うけど。
いつも元気一杯なんじゃないの?
「帝国の様子はどうだったの?」
戦争になりかけたとはいえ、帝国に興味がないわけじゃない。
何たって世界で最も人口の多い国だ。
行ってみたいという憧れはある。
だからこそオレは帝国語を履修してるんだし。
「ラインハルト君ったら高いところがダメな人でさー。ぎゃあぎゃあ騒ぎやがるから、眠らせて運んだわ。余計な手間だった」
「そんなことを聞きたいんじゃないんだけど」
「皇帝陛下は陛下らしい人だった」
「どういうこと?」
年を取っていて貫禄のある人ということらしい。
そういえば聖女パルフェはローダーリック陛下のことを『王様』って呼ぶ。
まだ若くて陛下っぽくないと思っているからだったのか。
おかしな拘りだなあ。
「やっぱり帝国は人が多いの?」
「空から見た感じ、帝都ラトルバはコロナリアよりもでっかい町だったな。ビックリした」
「帝国の首都だもんなあ」
「そんな町にワイバーンが突如現れてさあ大変」
「他人事みたいに言うなあ」
「他人事にしといてよ。あたしがワイバーンを転移させたのは、帝国には内緒なんだ」
いたずらっぽい笑顔を見せる聖女パルフェ。
「聖女様がやったと疑われてはいるんだろう?」
「まあね。あたし個人がやったというより、ウートレイドは大型魔物を転移させて暴れさせることができるんじゃないか? っていう解釈だと思うけど」
「悪いことしてるなあ。それで帝都の被害は?」
「あたしは帝都を目標にえいやで転移させたんだけどさ。実際の転移先はかなり郊外だったみたいだね。今まさに帝都の城壁にワイバーンが襲いかからんとしたところであたし登場。ばったばったとワイバーンをなぎ倒し、大喝采の巻だよ」
「守備兵はいたんだろう?」
「いたけど、大型飛行魔物って魔法なしで相手にするのはかなりキツいんだよ。ワイバーンと戦えるような魔道士はウートレイドに向けて出陣しちゃってたから、退治には全然間に合わないし。飛び道具もさほど効果ないしな。爆弾は効果あったけど、帝都のすぐ側じゃドカドカ使うわけにいかないじゃん?」
「だから早めにラインハルトを連れて帝都に行ったのか?」
「まあ。ラインハルト君のサンダーボルトが何発かワイバーンを直撃してたぞ? 雷の直接攻撃魔法は目立つから、格好良かったね」
比較的親ウートレイドであるローゼンクランツ公爵家をプッシュするために、ラインハルトの活躍を目立たせたんだろう。
「聖女パルフェ」
「やあ、ラインハルト君おはよー」
登院したラインハルトが話しかけてきた。
「春休み中は大層世話になった」
「もっと帝国らしい言い回し使ってよ。ホニャララがどうこうしたようにって」
アハハと笑い合う。
ラインハルトもウートレイドに敬意を表しているようで、最近は持って回った言い方をあまりしない気がする。
「一連の紛争からワイバーン退治において、ローゼンクランツ公爵家の評価がうなぎ上りなのだ」
「とゆーことは、対ウートレイド友好派が優勢ということか。大変よろしいことだね。戦争なんてない方がいい」
これは本当にそうだ。
くだらない争いはするべきじゃない。
「でも家の人には調子に乗るなって言っといてよ。ローゼンクランツ公爵家には、帝国とウートレイドの架け橋になってもらいたいっていう思惑があるのだ。ローゼンクランツ公爵家が暴走して評価落としたって知らんからな?」
帝国と恒久的な和平を結びたいということだろう。
おそらく聖女パルフェの言うことだから、ウートレイド王家がそう考えているんだな。
しかしローゼンクランツ公爵家を利用したいとは思っても、積極的にバックアップするというわけではないらしい。
「次に帝国行く時にもラインハルト君連れてくからさ」
「祖父と父にはよく言い聞かせておく。が、飛行魔法はもうごめんなのだが」
「一度行ったことがある場所は転移魔法が使えるから、警戒するなとゆーのに」
「オレも帝都に行ってみたい」
「じゃ、今度行こうか」
楽しみだなあ。
「ワイバーンの件は……帝国市民を救うために急行してくれたんだろう? 帝国を代表して感謝する」
傍からはそう見えるかもしれないけど、単なる聖女パルフェの自作自演だぞ?
「いや、魔石が欲しくてさ」
「「魔石?」」
突然話が飛んだぞ?
「愛しのクインシー殿下にドラゴンの魔石をプレゼントしてたんだ。それが魔力使い切って壊れちゃったんだよね」
聞いてる。
王宮が襲撃された事件があったそうだ。
マリリン側妃殿下の手引きで、王太子であるクインシー殿下を狙ったものらしい。
「ドラゴンクラスの魔物にはなかなか遭えないもんなんだよ。少々格は落ちるけど、ワイバーンの魔石でもいいかと思って」
「格が落ちるって」
「そんな理由だったのか」
ラインハルトが呆れているけど、これは聖女パルフェの照れ隠しだろう。
魔石が欲しかったのも本当ではあるんだろうけど。
「今後ウートレイド王家はどうなるんだ?」
「おお? えらく堂々とスパイしに来たな? 帝国の手先めが」
「他国からの留学生とはそういうものだ。側妃殿下は処刑か?」
マリリン側妃殿下は帝国サイドに王宮の間取り図を渡していたことが判明している。
普通なら売国奴扱いで処刑だろう。
「いや、帝国との和平ムードに水を差すから、そーはなんないと思う」
「甘いことだな」
「いいんだよ。甘くて」
アナスタシウス大司教猊下によると、聖女パルフェがマリリン側妃殿下の減刑を強硬に主張したらしい。
帝国との和平ムードも重要だが、エグバート・アメリア両殿下の将来やマリリン側妃殿下の実家イーストン伯爵家の忠誠を考えてということだそうだ。
「聖女様は法律を厳格に適用するってことは考えないのか?」
「法律は世の中を治める基準の一つだけど、厳格でなくてもよくない? 四角四面に適用するより、丸く収めた方がいいと思うの」
「不公平ではないか」
「不公平と思われるケースでは厳格に適用すりゃいいじゃん。要するに法を曲げることを推奨してるんじゃなくてさ。皆が納得してりゃいいよってこと」
「つまり法より重い罰を与えることもある?」
「そりゃそーだ。法律の裏をかいて悪いことするやつは厳罰に処せばいいわ!」
何となく聖女パルフェの理想とする社会がわかったような気がする。
「おっと、アルジャーノン先生が来た。今年も頑張りまっしょい!」




