第122話:王宮の変事
――――――――――その頃王宮図書館にて。クインシー視点。
「今日はどうしたんでしょうね?」
従者のイヴが首をかしげる。
確かにやけにバタバタしていてせわしない気がする。
違和感があるな。
普段見かけない者もいるような?
「戦場で緊急事態が起きたのかも知れないね」
「執務室へまいりましょうか?」
「いや、お母様はボクが図書館にいることを知っているから」
父陛下の執務はお母様が代行しているのだ。
お父様に指名されたのはボクだったのに。
平時ならともかく、戦時では今のボクは役立たずだ。
ボクも執務室なり会議室なりにいるべきだと思うのだけど、それだとお母様が教育モードになってしまい、執務が捗らないらしい。
大人しく図書館で将来のための勉強をしている。
「物事に対して臨機応変に対処することは難しいと思います」
「そうだね。身に染みて感じているよ」
イヴの言う通りだ。
またボクとお母様が両方いては、どちらの指示を仰ぐべきか臣が迷うということもあるかもしれない。
「でも聖女様がいると、誰もが聖女様の言うことを聞くんだ」
「不思議な個性ですよね。さすがと言うべきか」
自然と皆の中心になるのだ。
お父様にもそういうところがある。
ボクもカリスマ性のある王になれるのかなあ。
自分で想像できないんだけど?
イヴが笑う。
「いえ、統治者にもタイプがありますよ。リーダーシップ旺盛でグイグイ引っ張るタイプの王もいれば、他人の意見を適切に取捨選択する調整型の王もいる。どちらが優れているということはありません」
イブの言葉に頷く。
ムリしたってダメだ。
臣民はついて来ない。
ボクは調整型の王を目指すべきか。
他人の意見はよく聞き、それらを取捨選択して判断できるだけの知恵を蓄えないと。
「何だ、お前らは! がっ……」
何事だろう?
図書館入口に控えていた近衛兵が倒れた。
「いたぞ! クインシー王子だ!」
クーデターか?
いや、帝国訛りの見慣れないやつらだ。
おそらくは帝国の侵入工作兵。
まさか捨て身で王宮に強襲してくるとは……。
違う、従軍している影が多くてボクの警備が薄くなっているタイミングだからだ。
油断を見せずにじり寄ってる四人の男達。
「王子の身さえ確保してしまえばどうにでもなる。生簀の中の魚のようにな」
「お前らどこの手の者かっ!」
「その声、女だったか? すっこんでいろ」
「!」
イヴも打ち倒された。
女性に向かって無体な。
考えろ、ボクに何ができる?
「捕まえろ! だっ……」
聖女様に教わった結界だ。
迂闊にボクに触れられまい。
「こ、小癪な!」
「魔道の王国の王子だけのことはあるぜ」
「待て待て。何にでも効くような結界なんて、大魔道士しか使えないはずだ」
見抜かれたか。
武器による攻撃にこの結界はほぼ無力だ。
しかしボクが図書館にいることは知れているのだ。
時間を稼げば絶対に誰かが助けに来る。
「殺さない程度に斬れ!」
「「「おう!」」」
一人の剣が振り下ろされる!
だがボクの装備しているケープが攻撃を弾く!
「くっ、攻撃が無効化される!」
「多分そのケープだ 剥ぎ取れ!」
「うっ!」
ボクの張っている結界が拒絶する。
こいつらがボクのケープを剥ぎ取ることはできない。
剣で斬りかかってくるだけだ。
しかし四人に囲まれる状態はまずいな。
ケープに仕込んだ魔石の損耗が激しくなってしまう。
ならば……。
「逃げる気か!」
「隅へ追い込め!」
部屋の角へ駆ける。
一見追い詰められたように見えるだろうが。
逃げられないことを知って余裕ができたか、襲撃者の表情が弛緩する。
「王子様よ。もう逃げられないぜ」
「大人しく降伏しな」
「断る」
これでいい。
狭い部屋の隅なら、一回で相手にする人数は最大で二人だ。
「やっちまえ! がっ……」
「どこにそんな力が……」
蹴り飛ばしてやった。
用心して一旦引く襲撃者達。
ボクのケープは聖女様がプレゼントしてくれた新作だ。
魔法に対する防御がない代わりに効率よく魔力を使用でき、また装備者の行う物理攻撃をトリガーにその威力を強めるというものだ。
こっちからの攻撃にも魔石の魔力を消費してしまうから多用はできないが、警戒させることはできるだろう。
「必ず二人以上で同時にかかれ!」
ちっ、冷静だな。
少しずつ魔石の魔力を削られてしまうのは仕方ない。
少しでも結界に触れさせて反撃してやる。
「ね、粘るじゃないか」
「結界が厄介だ」
「あっ、魔石が割れた!」
そうか、ボクの結界に触れてこいつらのマントの魔石も削れていくんだ。
「落ち着け。魔石を交換しろ」
「いや、時間がない。早く王子を確保しないと。あばばばばば……」
マントの魔石の壊れた男を結界に強制的に引き込み気絶させた。
残り三人。
用心して躊躇してくれるといいけど。
「時間がないのは事実だ。速やかに制圧するぞ。剣で攻撃だ」
そんなにうまくはいかないな。
どこまで持つだろう。
剣撃をケープで受けていく。
「お、おい、どうなってるんだ? これだけ撃ち込んでるのに無効化を解除できないぞ」
「魔道の国の王子だからな。高価な魔石を使ってるんだろうよ」
ボクのケープにセットしてあるのは、聖女様にもらったドラゴンの魔石だ。
そう簡単に壊れるものか。
「あっ!」
しめた、魔石が壊れたな?
こいつも気絶させる。
残り二人だ。
「さあ、どうする? 残り二人になっちゃったけど、まだやる?」
「残念ながら逃げる選択肢はないんでな」
思わず苦笑いだ。
ボクが強がっても追っ払うことなんてできないなあ。
様にならない。
「何がおかしい!」
いや、おかしくて笑ってたわけじゃないんだけど。
「おい、魔石を交換しとけ。壊れるとやられる」
「おう、そうだな」
気付いたか。
消耗戦だな。
しかしボクの魔石に替えはない。
「王子様の魔石は特級品かもしれないが、これだけの攻撃を食らっていつまでも持つと思わない方がいい」
「それはどうかな?」
虚勢を張ってみたがその通りだ。
魔石から失われた魔力は取り戻せないのだから。
「殿下!」
「トリスタン!」
遠征に出ているランスロット近衛兵長の息子トリスタン他三名の近衛兵が図書室に飛び込んできた!
後方に気を取られた襲撃者二人を思いきり蹴とばす。
あっ、魔石が割れたか。
本当にギリギリだった。
近衛兵が四名の襲撃者を縛り上げていく。
「遅くなって申し訳ありません!」
「帝国兵だね?」
「さようです。来客や御用商人等に変装して侵入したものと思われます」
でも王宮内に押し入られるってどうなの?
可哀そうだけど、フィリップ近衛兵副長は減給かなあ?
「王宮内の他の様子はどうなってる?」
「賊どもは既に制圧しています。混乱も静まりつつあります」
「わかった。ところでトリスタンはどうして王宮に?」
近衛兵でもないのにな。
「本日の午後から殿下の護衛につく予定だったのです。父に言われておりまして」
「トリスタンがいれば安心できるよ」
近衛兵長の指示だったか。
何かを察していたのかもしれないな。
「ありがとう。助かったよ」
「何の。殿下こそ奮闘されていたではないですか」
「いや、聖女様のおかげなんだ」
聖女様のくれたケープと魔石がボクを救ってくれた。
聖女様は離れていてもボクの力になってくれる。
「フィリップ近衛兵副長は王宮内の見回りを強化してるよね?」
「もちろんです」
「憲兵隊に通達して、ラインハルト・ローゼンクランツ公爵子息を逮捕してくれ」
「はっ!」
他にも協力者はいるんだろうが、王宮の変事を聞いて王都コロナリアから逃げ出すならそれでいい。
戦争が終われば全て解決する。
「さて、イヴを回復させないと」




