第120話:尋問
――――――――――王宮にて。ユースタス憲兵隊長視点。
「しっかり機能していますな」
「うん、バッチリ」
聖女パルフェ殿が自然派教団の首魁、フューラーなる称号で呼ばれている仮面の男を捕縛してきた。
宮廷魔道士と開発した拘束用の魔道具の具合をガルガン殿と確かめ、好感触を得ているようだ。
歩けなくなるほど身体の力が抜けてしまい、また魔法も使えなくなるが、会話の受け答えには問題がないという。
「お前が自然派教団の指導者フューラーで間違いないな?」
「……黙秘します」
まあそうだろうな。
しばらく牢に閉じ込めておくことになるか。
パルフェ殿はフューラーに興味があるようだ。
「フューラーは帝国の偉い人なんでしょ?」
「……いいえ?」
「いやいや、教団員やお付きの騎士の人から聞いてるから」
今は仮面を外させているので、フューラーがなるべく表情を隠そうとしているのもよくわかる。
しかし動揺しているのだろう。
顔色までは隠せないな。
「偉い人の血筋なのに苦労してるんだねえ」
従士からさほど情報を得られたわけではない。
が、フューラーが帝国の有力者なのは間違いない。
しかし高位の外交官もフューラーの素顔から何者か判断できなかった。
顔立ちや瞳の色から、ミナスガイエス帝国の皇室の一員ではないかということだ。
知られざる皇室の一員、それはつまり……。
「あたしは平民出身じゃん?」
僅かにフューラーの反応がある。
年齢からすると、フューラーは皇帝の庶子か末弟なのではないか?
帝国皇帝家は皇位継承権保持者が多いから、母親の身分が低いとほぼ飼い殺しか政略結婚の駒になる。
優れた魔道士だというフューラーには、それなりの野望があったのではないだろうか?
「二年半くらい前かな。ド田舎から王都に連れてこられてさー。戸惑うこともあったわ」
「そうなのですか?」
「そうそう。今でも学院のクラスメイトの中には、あたしのこと『平民』って呼ぶ人もいる」
ふうむ、パルフェ殿も苦労しているのか?
陛下との会話を聞く限り、王都での生活を満喫しているものと思っていたが。
「バインドの魔法、フューラーはどこで覚えたの? あれあんまり有名な魔法じゃないじゃん?」
「ハテレスですよ。使い勝手がいいですよね」
「あたしの故郷だったか。バインドって、あの辺にしかない魔法なのかな?」
「だと思います」
完全にフューラーの興味を引いて釣り込んだ。
パルフェ殿の手腕というか、人懐こさは尋常じゃない。
「それでマルティンさん……」
「できればその名前で呼ぶのは避けていただけると」
マルティン。
従士から聞き出したフューラーの名だ。
元子爵キーファー殿殺害の黒幕が名乗っていた名とも一致する。
「フューラーごめんね。自然派教団にはかなり思い入れがあったの?」
「私が作った組織ではないですけれどもね。魔物も国防結界もない世界というのは、理想ではありましたよ」
「ああ、そーゆー理想だったのか。おっかない魔物がいない世界はいいねえ。でも実際には魔物がいるから、国防結界不可欠ってのはわかってたでしょ?」
「ええ。私も色々研究はしてみましたよ。今のところ国防結界が最も効率よく魔物を排除できるということが確認できただけでした」
「じゃ何で自然派教団の教義は国防結界を目の敵にするのよ。あたしの商売だぞ? 営業妨害だ」
「ハハハ。国防結界はブラックボックスですからね。怪しさをアピールしやすいのですよ」
「それもそーだ。ウートレイドと聖教会はもっと国防結界の仕様とかもアピールすべきなのかな?」
「仕様の公開は、同時に弱点を晒すことにもなりそうですけどね」
「むーん? 難しいな」
普通に喋ってるじゃないか。
パルフェ殿にお任せだ。
「で、フューラーにお仕事の依頼があるんだよ」
「王都コロナリアに内部混乱は起こせない。勝ち目がないから撤退しろと、帝国軍に言えということですか?」
「うん、そう」
核心に突っ込んだ。
どうなる?
「ムリな相談ですね」
「そこを何とか」
「いや、勝てる戦で撤退する軍はないということです。私がいくら言ったところでどうにもなりません」
「どこに帝国軍の勝てる要素があるのよ? ウートレイドには援軍がどんどん駆けつけるんだぞ?」
「聖女殿は私の『声』に随分警戒なさっているようですが」
急に話題が変わった?
フューラーは人を操ることのできる特殊な声の持ち主らしい、という情報は入っている。
もちろん俺やガルガン宮廷魔道士長も十分に警戒している。
「私の『声』は魔物にも有効なのです」
「えっ?」
「ガーツ山脈のワイバーンの群れを手懐けることに成功したのです!」
ワイバーンだと?
紅潮した頬から、フューラーの誇らかで高揚している様子がよくわかる。
「マジか。フューラーすげえ!」
「ハハッ、もう間に合いませんよ! 狂えるワイバーン達が王都コロナリアに向けて進撃中です。そろそろ国防結界に攻撃を仕掛ける頃です!」
な、何だと?
「国防結界はワイバーン級の魔物の波状攻撃なんて想定していませんよ。魔力切れを起こして破れます!」
「そーかもなー」
「ぱ、パルフェ殿!」
この期に及んで何を落ち着いているのだ!
「聖女殿のバカげた魔力があれば、あるいはかろうじて国防結界を維持できるのかもしれませんが」
「どーかな? あたしが維持してる内に誰かがワイバーンを倒してくれる見込みがあるならその通りだけど。飛んでる魔物は倒しづらいんだよなー」
「よく現実が見えていらっしゃる。仮に国防結界を維持できたとしても、戦後その管理の不安定さは必ず各国から槍玉に挙げられます。今までのようなウートレイド優位の体制は続きませんな」
戦場の勝利でなく、搦め手からウートレイド王国の勢力を落とす狙いだったのか。
狡猾な!
「パルフェ殿! 即刻そやつに命令させるのです! ワイバーンに国防結界への攻撃を……」
「ハハハハハ! ミナスガイエス帝国に栄光あれっ!」
ズガアアアアアアアン!
フューラーが自爆!
パルフェ殿の結界のおかげか、我々は何ともない。
「どわーっ! ビックリした」
「何事ですかっ!」
駆けつけてきた近衛兵や宮廷魔道士達に説明する。
そんな時間も惜しいのだが。
「自爆、ということもあり得るのですな」
「想定外だったねえ。でもこれ以上行動を制限すると自由に喋れなくなっちゃうしな?」
「拘束のケープは十分に使えますよ」
「拘束者の魔力を抜き取る部分は高価なんでしょ? ごめんね。一個壊れちゃった」
「いや、パルフェ殿ガルガン殿。ワイバーンの襲撃をどうします?」
「どうもこうも。パルフェ殿と準聖女ネッサ嬢に魔力を注いでもらい、国防結界で耐えるしかなかろう」
「いや、そーでもないな」
地図を見ながらパルフェ殿が言う。
何か思いついたのだろうか?
「どうせ魔物に細かい命令なんか出せるわけないよ。方角だけ示してデカい町襲えくらいの大雑把さだと思うんだ。ワイバーン達がガーツ山脈から真っ直ぐ王都に来るとするなら、エストラントを経由する」
エストラント?
確か国防結界の基石の一つがある町と記憶しているが、それが何か?
「エストラントはよく知ってる町なんだ。あたしが転移で様子見てくるよ。ユースタスさんは今聞いた話をクインシー殿下と政府高官に報告しといて。ガルガンさんはネッサちゃんに国防結界を維持するよう聖教会に通告。そんでもし維持できなくなりそうなら、王都の結界に使ってる魔力を回してあたしが帰るまで何とかもたせて。その時は聖騎士と宮廷魔道士で『魔の森』の魔物を押さえといてね」
「「わかりましたぞ!」」




