第115話:フューラーに会ってみたい
――――――――――『魔の森』にて。マイルズ聖騎士団長視点。
「ふんふーん。あっ、お肉の群れだ!」
今日もパルフェ様が『肉狩り』と称する、『魔の森』の魔物退治だ。
お肉の群れというのは、ほぼ群れで現れる草食魔獣ビッグボアを指す。
大体いつの魔物退治でも最も大量の肉となってくれるありがたい魔物だ。
合掌。
「『魔の森』は不思議だねえ。冬でもあんまり寒くない」
「これも滲み出る魔素の影響なのでしょうな」
「普通は冬だと魔物減っちゃうんだよ。でも同じようにお肉を狩れるもんねえ。本当に嬉しいことだなあ」
アハハと笑い合う。
裏を返せば冬でも魔物が湧くということなのだが、パルフェ様の魔物退治に付き合っていると本当に『魔の森』の恵みのように思えてしまう。
「な、なあ、聖女さんよ」
「ん? 何だろ?」
一昨年の自然派教団蜂起未遂事件から、自然派教団員を魔物狩りに伴うことが多い。
最初は死にそうなほど緊張で強張っていた教団員も、何度か参加しているうちに慣れてきたらしい。
今では普通に話せるようになってきている。
「あんた、こんなことしてていいのかよ?」
「実はあんまりよろしくないんだ。三学期の試験がもうすぐで」
「そんなこと聞いてるんじゃねえんだが」
「行儀作法がピンチなの」
パルフェ様の行儀作法のスコアが毎回赤点ギリギリだということは聞いている。
レイチェル先生は真に厳しいから。
我も学院時代を思い出して、震えが来てしまう。
合掌。
「だからお肉をつけ届けしなきゃいけないんだよ。そーすると試験通してくれるの」
「そうじゃなくてだな。俺らは自然派教団員で、この魔物狩りは奉仕罰っていう建て前じゃねえか」
「建て前か。まあ合ってるね」
「あんまり罰を受けてる気がしねえんだが」
確かに。
魔物はパルフェ様が倒してしまうし、おいしいお土産の肉もたくさん持たせる。
ちょっとしたハイキングとしか思えない。
「今更だな。魔物とはどういうものかを知ってもらえればいいんだよ。対応間違えればひじょーに危ないってことは理解したでしょ?」
「そ、そりゃもう」
「そしてヤバい魔物はマジでヤバいぞ? あたしが辺境区で見たことのある最強の魔物がもし暴れたら、王都は三日で廃墟になるね。だから国防結界は必要。これは聖教会とか自然派教団とか関係なしにだぞ? だから周辺各国からもウートレイドは支持されてるんじゃん」
「「「「……」」」」
「まー楽しく罰則を受けてちょうだい」
飛び出してきたアルミラージの首を瞬時に刎ねるパルフェ様。
実に鮮やかだ。
「……自然派教団は間違っているのか?」
「だから何を信じるかは信者側で決めるもの。宗教なんか都合のいいことだけ言って信者を集めるもんだわ。聖教会だって例外じゃないわ」
「ぱ、パルフェ様!」
「本当だぞ? 初代聖女様なんて神様みたいな扱いだけどそんなことないわ。結局のところ国防結界があれば楽ができると思って作っただけだわ」
「そ、そうなのか?」
「そうそう。でもおかげで世界中の皆さんが魔物に脅えずに生活できてるのは事実。いいか悪いかは事実だけで評価しようよ」
「自然派教団は……」
「どんな教えを信じてたって構わんとゆーのに。その代わり他人に迷惑かけんなってこと」
「「「「……」」」」
おそらく王都で生まれ聖教会で育てられた聖女なら、間違ってもこんなことは言わないだろう。
パルフェ様は聖教会の象徴であるというより、国に雇われた聖女というスタンスを崩さない。
頑ななところがなく、事実と事実に近いであろう推論を論拠とするので、自然派教団員の心も溶かしてゆくのだ。
実に独特だと思う。
「……自然派教団は間違っているのか?」
「またそれか。人間何も信じられるものがないと頼りないってのはわかる。宗教を拠りどころにするのはアリなんじゃないの? あ、またウサギだ。ほいっと」
「「「「……」」」」
「宗教は信者からお布施を巻き上げて活動費を稼ぐ商売じゃん? だから人気のある宗教の方が、お金を出してもいいって思われてる度合いが高いってことだよ。皆に受け入れられてるとゆーのを、ギブアンドテイクの関係から考えるとそーゆーこと。わざわざマイナーな宗教を信じるのは損するリスクが高いと思うがな」
「「「「……」」」」
パルフェ様の宗教論は他所で聞いたことのないものだ。
背教者の異教のという話に絶対にならない。
何故か損得の理屈になることが多い。
「……聖女さんは聖教会の信徒なんだろう?」
「違うよ」
「「「「えっ?」」」」
ハッキリと言ってしまった。
我も薄々感付いてはいたが。
合掌。
「あたしは自分が国防結界の維持に関わる聖女という職業に就いていると考えているの。もちろん聖教会に反対してるわけではないよ。聖教会はお布施もらう分、癒しの施しとして皆さんに還元してるじゃん? あれは素晴らしいと思う」
全員が頷く。
「『魔の森』の魔物狩りだってそーだよ。魔物が王都の街中に溢れ出さないようにやっている、聖教会の大事なお仕事」
「最近は肉の確保のために『魔の森』に入っているようにしか思えぬのですが」
「お腹を満たしてパワーをつけるのも立派な仕事の内」
アハハ。
そうだ、おいしい肉を頬張るのも仕事の内なのだ。
「聖女さんに言われると、その通りな気がしてくるぜ」
「他人に言われたことを鵜呑みにしてちゃダメだぞ? 自分で考えたり調べたりしてね」
「フューラーは鵜呑みにするななんて言わねえんだよなあ」
フューラー?
自然派教団の指導者だという?
「フューラーに言われたことは、何故かその通りにしなくちゃいけない気になるって聞いた。そーなん?」
「そうなんだよ。不思議な声なんだよな」
「ああ、頭の中にすうっと染み透るんだ」
「フューラーは人に言うことを聞かせることのできる、特殊な能力者なんじゃないかって説があるんだけど知ってた?」
「「「「えっ?」」」」
パルフェ様はどこまで話すおつもりなのだろう。
教団員に対する揺さぶりかな?
「い、言われてみれば……」
「説だから本当のところはわかんないけどね。でもだからって蜂起しようと言われてそうするのはダメだわ。どえらい迷惑だわ。今ならわかるでしょ?」
「「「「わかる」」」」
「マジで蜂起して建国祭潰したら、罰則はこんなもんじゃすまなかったぞ? だって祭りを楽しみにしてた人が怒るもん。善良な市民ほど犯人殺せーって言うわ。いい国ほど民衆の要望は通るもんだ。国家に対する反逆とかの大仰な名札がついて、まず逮捕者全員処刑だったね」
「「「「……」」」」
「かといってフューラーばっかりに責任があるわけじゃないぞ? 言うこと聞いたやつが一番悪いのだ。自分の行動は自分で責任を持たないと」
パルフェ様はとことん正論で殴りにいくなあ。
またパルフェ様は論理の組み立てが上手でいらっしゃるから、心が賛成してしまうのだ。
「……今度フューラーがいらっしゃるそうなんだ」
「そーなの? いつ頃?」
「一ヶ月後くらいって聞いた」
「一ヶ月後だと春休み中だな。あたしもフューラーに会ってみたい」
フューラーは仮にも敵方のトップです。
危のうございまするぞ。
しかし教団員達は乗り気のようだ。
「そりゃいいや! オレは正直何が正しいのかわからなくてよ」
「ああ、聖女さんとフューラーが直接話すのをぜひ聞いてみたい」
「じゃ、フューラーが王都に来たら呼んでよ」
「「「「わかった」」」」
ええ? どうなんだろう、これは。
まさかパルフェ様に限って不覚を取ることはないと思うが。
合掌。




