第114話:王様が不意に登場
――――――――――王宮図書館にて。ユージェニー視点。
「諸君、勉強か?」
クインシー殿下、パルフェ様、ネッサ様、マイク様、モアナ様と私の六人で王宮図書館にて勉強中、突然陛下が割り込んで来ました。
しかも従者を一人連れただけの身軽さです。
えっ? 何ゆえ?
「そうそう。王様の得意そーな勉強」
「予は勉強が得意ではないぞ。スカーレットは才女であったがな」
王妃殿下が学生時代大変優秀だったという話はあちこちから聞きますね。
「聖女パルフェは成績優秀なのであろう?」
「行儀作法はダメなの」
「レイチェル女史か。予も彼女は苦手だ。王太子だからといって一切の忖度がなかった」
「メッチャ厳しいよねえ。あたしいつも怒られてるよ。試験は赤点プラス一点で勘弁してもらってるけど」
「ハハッ、気に入られてるではないか」
「ところで王様どうしたの? 雑談してるほど暇ではないんでしょ?」
「うむ、キーファー元子爵が殺害された事件について、詳しい報告書が上がってきたのだ」
思わず息を呑みます。
「お父様、急ぎの事案ではないではありませんか」
「む? しかしこの六人はある程度事情を知っているのであろう?」
ネッサ様の御養父キーファー様が亡くなられたという話は存じております。
おいたわしいことです。
私が詳しい事情まで知っていいのかはわかりませんが。
「いいよ殿下。王様の話聞こう。事件について気になっちゃって、もー勉強のことなんか頭入んないわ。ネッサちゃんもいいよねえ?」
頷くネッサ様。
パルフェ様はクインシー殿下の婚約者になっても『殿下』と呼びます。
『クインシー様』とは呼ばないのですね。
きゃっ!
「犯人の商人は一時的に錯乱していたようなのだ」
「一時的に錯乱? どゆこと?」
「元子爵を殺害したという認識は、その商人本人にあるのだ。しかしどうも本人の意思ではないようだ。操られていた可能性が高い」
「操られていた?」
「元子爵を殺害した直後は高笑いしていたそうだ。しかし突然目が覚めたように自分のしたことを自覚し、泣いて謝り始めたとのこと」
何でしょう?
そんなことがあるのでしょうか?
「聖女パルフェよ。どう思う?」
「その商人が自然派教団と関係ないのは確定でいいのかな?」
「犯人である商人が自然派教団員でないこと、ケイン子爵家庶流とも関係がないことまでは確定だ。特定の誰かと因縁があったということもない。しかし……」
陛下が口ごもるような言い方をするのは珍しいですね。
「供述の中に『フューラー』という言葉が飛び出した」
「おおう。ネッサちゃん。フューラーって自然派教団のトップの人だっけ?」
「ああ。仮面を被っている正体不明の人物だ」
「キーファーさんを裏切り者と見ていたなら接触しようとしていたかもしれないけど、犯人が商人ってわけわからんな?」
「その商人が言うには、マルティン卿なるどう見ても高位貴族の男性との取り引きがあり、その時からキーファー元子爵への説明できない恨みを覚えたような気がすると。そのマルティン卿は従者から二度ほど『フューラー』と呼ばれていたとのことだ」
首をかしげていたパルフェ様が発言します。
「……フューラーが催眠とか洗脳の術者で、キーファーさんとこの出入りの商人と知って接触。恨みを植えつけたとかだと辻褄は合うな」
「ガルガン宮廷魔道士長も似た意見を述べていた。催眠や洗脳の術とは稀な魔法なのだろう?」
「うん。特殊な素質がないと使えないんだよね。瞳とか声とかカリスマ性? そゆとこに特徴が出るって言われてるけど」
ネッサ様が叫びます。
「あっ! フューラーの声を聞くと、頭の中が痺れるような心地良さがあるんだ。つい言っていることを受け入れられたくなる」
「げ、マジでそんな厄介なやつが敵なのか」
「特殊な素質持ちがたまたま高位貴族で、魔法の技術も身につけたということか?」
「みたいだねえ。そんな魔法に先生がいるわけないから、フューラー本人の努力だと思う。催眠や洗脳抜きでも相当な魔法の使い手なんじゃないかな」
「対策はどうすればいい?」
「魔法は結界で弾けるよ。旧型の魔法を無効化するケープを着てたら操られることはないな。でも声がヤバいのは魔法じゃないから避けようがないぞ? もっとも魔法なしの声だけで人を完全に操るのはムリだと思うけど」
自然派教団のトップはとんでもない人だったようです。
でも自然派教団は無力化したとも聞いていますが?
「その商人はどうしてるのかな?」
「捕らえてある。おそらくフューラーの素顔を見ている貴重な者だからな」
「あっ、素顔見てるんだ? そりゃありがたいな。処刑しないでね。あとで役に立つかも」
「うむ、無論だ」
クインシー殿下がパルフェ様に尋ねます。
「そのフューラーですけど。どう思います?」
「とゆーか、えらい特徴的な人物なのに身元がわかんないのは何でかな? マルティンって帝国人っぽい名前だけど」
「偽名であろうがな」
「そーか、帝国人って決めつけるのもよくないな。そっちに思考が誘導されちゃうかもしれない」
「おそらくはウートレイドの者ではない。当てはまりそうな者がいない」
「じゃあどうしてキーファーさんを殺したかってところから考えた方がいいかな?」
「どういうことだ? 見せしめのためではないのか?」
パルフェ様には考えがあるようです。
「そんだけのためにわざわざ外国から来るかなあ? もう自然派教団の状況から、フューラーがマークされてるくらいのことは想像できるだろうにだよ?」
「……聖女パルフェは何か他に目的があると見るのか」
「と、考える方が自然だねえ。自然派教団を梃入れするのか新組織を立ち上げるのか。はたまた全然別のことをしようとしてるのかは知らんけど」
パルフェ様はその笑顔の裏で色々なことを考えていらっしゃるのですね。
陛下の相談相手が務まるほどに。
驚きです。
「やはり王都コロナリアに来ると思うか?」
「思う。ウートレイドにダメージを与えたいって考えた場合、催眠や洗脳は王都にいてこそ効果を発揮するから。地方で蠢動するとすると、領主貴族を直接操って反乱起こさせるくらいしか手がないじゃん? でも領主貴族なんか学院で魔法の講義受けてるに決まってるから、レジストされる可能性が高いと考えるんじゃないかな。同じ貴族のキーファーさんが言うこと聞かなかったのもそのせいだと思ってそう。フューラーにとってはリスクが大きい」
「ふうむ」
「も一つ言うと、フューラーは自然派教団にコンタクト取ろうとすると思う」
「何故だ? 自然派教団は最早使えぬと判断するのではないか?」
「うん、フューラーもそういう報告は受けてるはず。でもフューラー本人がヤバい系の術を使う人だったら、自分なら何とかなるって考えちゃうんじゃないかな」
「根拠はあるか?」
「キーファーさんを殺害したこと。あれが単なる復讐じゃなくて見せしめの意味を持つためには……」
「なるほど、自然派教団は残っていなければならないということだな?」
「そうそう。そゆこと」
パルフェ様の論理の展開はすごい。
圧倒されます。
「では自然派教団を見張らせておく方がよいか?」
「いや、国に見張られてると思っちゃうと、教団員の心情がフューラーに傾いちゃうよ。あたしが大分教団の人達と仲良くなったからさ。そっちから聞き込んでおくよ。情報得られたら王様に知らせるね」
「うむ、では任せた」
「任されたぞー」
単なる勉強会が大変な重みを持ってしまいました。
言われるまでもなく内密のこと、ですね。




