第105話:王宮で食事会
――――――――――王宮にて。スカーレット王妃視点。
「さあさあ、遠慮せずにどんどんお食べなさいな」
「いただきまーす!」
学院でパルフェちゃんが泣いてしまったという話を聞いて、アナスタシウス大司教猊下とともに夕食に招待しました。
パルフェちゃんが大変忙しいということは聞いていますからね。
まさか精神的に疲れているなんてことはないと思いますが、本人の口からどうなのか聞きたいということもあります。
だって大事な娘になる子ですから。
でもいつもと変わりないようですね?
「文化祭の劇の脚本の出来が良かったんですって?」
「もー泣けてきちゃって。恥ずかしい」
……極めて普通ですね?
「ジェニーちゃんに主役を譲ったという話でしたか?」
「うん。あたし去年ユージェニーちゃんの劇見てるんだ。この役はユージェニーちゃんにハマりだと思ったから」
「聖女様は泣けてしまうから役を降りるということではなかったのですか?」
「そーゆー面もあるよ。他にいい人がいなけりゃ根性であたしがやったわ。でもこれはユージェニーちゃんが演じた方が絶対いい作品になる」
「そうだったんですか……」
パルフェちゃんの確かな判断力の出した結論と知って安心しました。
クインシーは少しガッカリしているようですけれど。
「あたしの魔法による特殊効果の場面が、かなり多くなりそうってこともあってさ。あたしがヒロインだと、ちょっと行き届かない部分がありそうで」
「まあ。パルフェちゃんの魔法が見られるのね?」
「ラストシーンは祝福だから、観客まで含めて会場の全員に飛ばすよ」
見たことのないような舞台になりそうです。
これは楽しみ。
「ユージェニーちゃんいい子だから、もっと目立って欲しいの」
「そういう思惑もあったのね?」
「あたしはいい旦那さんにもらわれるから、ユージェニーちゃんもいいお婿さんもらって欲しいし」
突然の不意打ち!
クインシーが赤くなってるではありませんか。
パルフェちゃんはさすがだわ。
「夏に陛下が迷惑をかけたでしょう?」
文化祭のことは問題ないとわかりました。
一ヶ月ほど前に、『魔の森』での聖騎士の魔物退治に陛下が同行したことがあったのです。
その時の詳しい報告は聞いていませんでしたわ。
ぜひともパルフェちゃんの口から愉快なエピソードを聞きたいです。
「とてもおいしいお肉をいただいて」
「でしょ? でも王様は本当に迷惑だったぞ」
「えっ?」
あっ、陛下が目を逸らしている。
何があったんでしょう?
「キラービーっていう、ハチの魔物がいるんだ。用意もなしで刺されると一〇人に一人くらいは死ぬ危険なやつ」
「そんなに注意が必要な魔物だとは言わなかったではないか」
「言う前に巣に石ぶつけてたぞ? 止める暇もありゃしなかったわ」
魔物の巣に石をぶつけた?
子供でもそんな愚かなことはしませんよ?
大司教猊下もクインシーも目が点になっているではありませんか。
「陛下」
「い、いや違うのだ。急な出来事に聖騎士達がどう反応するか見たくてな」
「行動が予想外過ぎてビックリしたわ! マジで危ないからやめろ!」
「どう対処したんですか?」
「おう、それがな。結界の外に雷魔法の膜を重ねがけするという見事な技で、迫り来るキラービーを全て撃退したのだ」
「聖女様すごいです!」
……それはちょっと私も見てみたかったですわね。
パルフェちゃんが苦々しく言う。
「あれはさすがに聖騎士だけじゃ対応できなかったぞ? もしあたしがいなかった場合、王様はメチャクチャ刺されてた。聖騎士は毒消しを携帯してるから死ぬことはなかったろうけど、一〇日は高熱で苦しんだと思うね」
「雷魔法はキラービーに効果が高いという所見が得られたからよかったではないか」
「結果としては。でも王様ちっとも反省してないな。スカーレットさん、あとでこってり絞ってやってよ」
「わかりましたわ」
今頃恐怖の目で見ても遅い。
王たる身でありながら、面白半分に危険を求めるとは何事ですか。
しっかり反省しなさい。
「せ、聖女パルフェの方から聞きたいことはないか?」
ムリヤリ話題を変えましたね。
まあいいでしょう。
私も今パルフェちゃんが何を知りたいのか聞きたいです。
「留学生のラインハルト君のことなんだけど」
「ミナスガイエス帝国からの留学生だな?」
「そうそう。ローゼンクランツ公爵家ってのは、帝国の中でどういう立ち位置なのかなと思って」
「どういうことだ?」
「うーん、どこから説明したものか。今帝国とウートレイドの関係って良くないんでしょ?」
「ここ一〇〇年で一番悪いくらいだな」
「あ、やっぱそーなのか」
近年帝国はウートレイドに対する敵意を隠そうとしない。
貿易も細っていますわ。
「ラインハルト君が留学生として来た時、スパイかなと思ったんだよ。でもそれにしては徹底していないというか。学院での生活を楽しんじゃってるように思えるんだよね」
「クラブも美術鑑賞ですしね。ボクや聖女様を探る意図はあるんでしょうが、露骨でないというのはボクも感じます」
「従者も怪しいとこないしなー」
「それで違和感を覚えるということか」
「うん。状況とラインハルト君の行動がそぐわなくて気持ち悪いの。王家で何か掴んでたら、言えるとこまででいいから教えて欲しいなーと思って」
パルフェちゃんは鋭いですね。
特別口外禁止の事項はありませんし。
「ローゼンクランツ公爵家は帝国の名家ではありますけれども、政治の本流ではないようです。むしろ煙たがられているのではないでしょうか」
「ふーん。何でわざわざそんな家の御曹司を送り込んできたんだろ?」
「そのラインハルトなる留学生は、去年の学院文化祭の剣術大会を見ていたのだろう?」
「うん。その時えらそーなこと言ってたから、もっと突っかかってくるか、それとも本心隠して近付いてくるのかと思ったら全然違った。そりゃ帝国に報告書くらいは送ってるんだろうけど、あれじゃ通りいっぺんの内容にしかならないんじゃないかなあ?」
パルフェちゃんは帝国の狙いが絞り切れていないようです。
私の中では一応の結論が出ていますが……。
「ちなみに聖女パルフェはどう考えているのだ?」
「さあ? いくつかは考えられるけど」
「例えば?」
「ラインハルト君は帝国の思惑と関係なく、単なる興味本位かウートレイドで学ぶために自主的に来たとか」
「あり得んな」
「とゆーことは、帝国とウートレイドは戦争になっちゃうかもってこと?」
「む? まあそうだ」
パルフェちゃんが深く頷く。
パルフェちゃんは帝国との関係がどれほどなのか、王家の率直な見解を知りたかったのですか。
「冗談抜きでよろしくない事態なんだな。よーくわかったよ。なら考えられるのは三つ」
「それは?」
「一つにラインハルト君ないしその一派が、ウートレイドを亡命先として考えている。二つ目がラインハルト君の活動は、ウートレイドを油断させるためのブラフだ。三つ目が……」
「留学生は生け贄だ」
「スカーレットさん、言いにくいことを言ってくれてありがとう」
しんと静まる。
パルフェちゃんはデザートをおいしそうに食べていますけれど。
「……妃よ、どういうことだ?」
「帝国と戦争になるのは近い将来だということです。さして重要でもない公爵家の子息を送り込んでウートレイドに処刑させ、敵愾心を煽る」
「そんなところだろうねえ。王様の短気が帝国にバレてると見た」
思わず笑いそうになってしまう。
パルフェちゃんは面白いわ。
「ごちそーさま。おいしかったです! おっちゃん、帰ろう」




