第100話:王様真夏の大冒険
――――――――――『魔の森』にて。マイルズ聖騎士団長視点。
「ここが魔の森の中か。恐ろしげではないか」
「魔素が微妙に森の木々にも影響を与えてるのかもしれないねえ」
どうしてこうなった?
王宮から急に触れが来て、陛下御自身が『魔の森』の魔物退治を視察するとのことだった。
聖騎士団による魔物退治に不満があるのか?
それともパルフェ様に頼り過ぎている現状に対する叱責だろうか?
パルフェ様が王太子妃となることが発表されたから、今後魔物退治に出せないということかもしれぬ。
ああああ、頭の中がぐるぐるして考えがまとまらない。
不意に背中を叩かれる。
「ランスロット殿……」
「マイルズ殿、お気にされない方がようございますよ」
気持ちはありがたいが、我の立場としてはどうしても深読みしてしまうのだ。
ちなみに今日は、近衛兵からランスロット近衛兵長のみ同行している。
『近衛兵が王様の側を離れたくないとゆー忠誠心はわかる。でも普段と異なるオペレーションで使命が果たせるかってのは話が別なのだ。『魔の森』での魔物退治は聖騎士の方が慣れてるから、近衛兵がいると却って邪魔だな。王様を危険に晒すことにもなりかねないから、近衛兵長さんだけ連れてく』
『うむ、もっともだ。ランスロットだけついて来い』
パルフェ様はズバッと言うなあ。
陛下もその意見を良しとするし。
おかげで意思決定が早い早い。
普段の魔物退治とそう変わらないから、我としてはやりやすい。
「あっ、魔物だ。多分ウサギ一匹」
「何? どこだ?」
「左前方だよ。もうすぐ見えてくる」
「あっ、あれか」
「倒しとくぞー」
「聖女パルフェ待て、もう少し観察させろ」
「え? 贅沢だな。アルミラージは草食魔獣だけど割と凶暴なんだ。じーっと見てると、何ガンつけてんだゴラァって感じで突っ込んでくるよ。ほら来た!」
「おおおおおおおお?」
「はい、そこまで」
ランスロット殿が構えを取ると同時に、パルフェ様の飛ぶナイフが一閃。
アルミラージの首を刎ねる。
「おお見事! その技は魔物相手の方が映えるな」
「王様に見せたっけな? ああ、マントを分解する時か」
サクサクと解体していく様を見ながら陛下が上機嫌だ。
聖騎士団のあり方が問題視されているのかと思ったが、違うのか?
ランスロット殿がそっと耳打ちをしてくる。
「……実は陛下が魔物を見てみたいと仰せられまして」
「魔物を?」
「はい。それでクインシー殿下が聖女殿の魔物退治を見物することを勧めたようです」
な、何だ。
そういう事情だったのか。
驚いて損した。
ならば陛下はパルフェ様にお任せしよう。
合掌。
ランスロット殿が言う。
「私も聖女殿の戦闘には興味があったのです」
「そーなの?」
「負けず嫌いの息子が聖女殿にはとても敵わんと言うものですから」
「トリスタン君はまだまだ強くなるって。あたしもこの先五年は負けると思わないけど、その後はわかんないな。おっと、虫の魔物だ」
「だから近付いてくるまで倒すのを待てというのに」
「ごめんよ。身体に染みついてる技なんだよ。瞬間的にナイフが出ちゃうの」
ぺりぺりと解体して魔石を得るパルフェ様。
陛下を相手にしてもパルフェ様はタメ口なのだなあ。
「……ちょっと静かにしててね。多分カモシカ。やつは美味いけど逃げやすいんだ」
カモシカの魔物イビルアンテロープか。
姿を確認するやいなや首を飛ばすパルフェ様。
いいぞいいぞ。
肉が充実する。
「……さっきから聖女パルフェが魔物を倒しているだけで、聖騎士は何もしておらぬではないか」
ぎくっ。
陛下、それは言ってはならぬお約束なのです。
「運搬係が必要なんだよ」
「おお、それもそうか。予としたことが運搬の重要性を失念するとは」
しかしパルフェ様の収納魔法があれば、実は運搬係も必要ないのだ。
整理が面倒だからと、パルフェ様が収納魔法を積極的にお使いにならないだけで。
「獲れたてのお肉はすごくおいしいんだよ。あとで近衛兵の皆さんまで含めてごちそーするからね」
「楽しみにしておるぞ」
「ところで王様今日はどうしたの? 『魔の森』なんかに来たがって」
「聖女パルフェがドラゴンを退治したという話を聞いてな。予もドラゴンを見てみたいと思ったのだ」
ランスロット殿が驚いている。
ドラゴンだものな。
しかしパルフェ様の視界に入った魔物は、たとえドラゴンであろうと倒される運命なのだ。
合掌。
「ドラゴンクラスの魔物になると、ハテレス辺境区でもそう出るもんじゃないんだよ。年一くらいかな? 見ようと思うとちょっと難しいと思う」
「うむ。それで予は魔物を直に見たことがないというのに気付いたのだ。一度見てみたくなった」
「なろほどー。何事も経験だよねえ」
陛下の気まぐれのせいで、我は生きた心地がしなかったのだが。
しかしパルフェ様じゃあるまいし、陛下に物申すなんてとてもとても。
合掌。
その後もパルフェ様は快調に魔物を屠っていく。
イコール肉が積み上がってゆく。
「呆れるほどの魔法の冴えであるな。その飛ぶナイフの技は誰にも使えぬのであろう?」
「あたし以外に使ってるのは見たことないな。でもナイフにかかってる、切れ味を増す風魔法なんかはマイルズさんでも使えるんだよ」
「ほう、マイルズ。そうなのか?」
「はい。パルフェ様に教えを乞いまして。我は風の付与魔法と回復魔法を使えるようになりました」
あれ、ランスロット殿が驚いているな?
「マイルズ殿は魔法を嫌っているものかと思っていたが」
「直接攻撃魔法は使える場面が限定されていると考えていたのですよ。それについては今でも変わらないのですが、パルフェ様の優れた技を見てしまいますと、魔法は有用なものと思わざるを得ませんな」
「それは……確かに」
「魔法は使えたら使えたで便利だよ。トリスタン君も身体強化魔法かなり上達して強くなった」
「……」
ランスロット殿も元々は我と同じで、戦いにおける魔法を重視していなかった。
考えを改めるだろうか?
変な拘りこそ必要ないですよ。
「あれは何だ?」
「キラービーの巣だよ。あっ?」
陛下の投げた石がキラービーの巣に命中。
怒った魔物が大挙して押し寄せる!
「ぱ、パルフェ様!」
「結界張るから動かないで!」
パルフェ様の張った結界に激突してくるキラービーが、面白いくらいに落ちていく。
どうなっているんだろう?
「ほう、結界とはこれほど迎撃力が高いものなのか?」
「いや、これ結界の外側に雷魔法の膜を重ねがけしてあるの」
「いっそ愉快なほどハチどもが倒れていくではないか」
「こんなに効果あると思わなかったな。キラービーって群れてるし的が小さいし食べるとこないし、倒すの難しいんだよ」
「食べるところがないのは関係ないのではないか?」
「モチべーションの問題で。今度からキラービーの巣見つけたら、雷魔法で包んでみよっと。簡単に殲滅できそーだな」
そんなことより誰か、陛下の暴挙を諌めて欲しいのだが。
パルフェ様が魔物狩りに参加されるようになってから、今日ほどヒヤッとしたのは初めてだ。
「しまったなー。咄嗟だったから固定型の結界にしちゃったよ。しばらく動けん」
「聖女パルフェともあろう者がつまらんミスを犯すではないか」
「誰かさんがくだらないことをするからだわ! また余計なことしやがったら、結界の外に放り出すぞ!」
「すまなかった」
陛下が謝った。
めでたしめでたし。
ようやく生き残りのキラービーどもが引き上げていったな。
パルフェ様が結界を解除する。
「じゃ、あたし見張りしてるから、魔石回収しといてくれる? 終ったら帰ろう」




