第10話:『魔の森』は天国
――――――――――『魔の森』にて。マイルズ聖騎士団長視点。
「パルフェ様、ここが『魔の森』の入り口でございます。足元にお気をつけください」
「わかった、ありがとう。ふんふーん。楽しみだなー」
新聖女パルフェ様のお付きを命ぜられ、聖教会管理下にある『魔の森』の探索を行うことになった。
そろそろ魔物狩りをして、数を減らしておかなければならない時期だという事情もある。
しかし今日都合がついたのが、我を含めて四人しかいなかった。
パルフェ様を守りながらだと、正直四人では心許ないのだが?
合掌。
それにしてもパルフェ様は至極御機嫌だ。
何が楽しいのだろうか?
我々聖騎士にとって『魔の森』の魔物退治は、少しの油断が大ケガに繋がる大変な任務だ。
悲壮とまで言わなくても、ある程度の覚悟をもって臨むものであるのだが。
「大司教のおっちゃんに、ここの森はウサギやイノシシが多いって聞いたんだ」
「多いですが、のっぴきならない魔物でございますよ?」
「楽しみだなー。ふんふーん」
また鼻歌か。
パルフェ様はハテレス辺境区生まれと聞いた。
辺境区といえば、国防結界の恩恵外の地域だ。
当然魔物のことは御存じのはずだが……。
「『魔の森』には魔素の吹き出る地点があります。そのため国防結界の恩恵内でありながら魔物が湧いてしまう場所なのです」
「うんうん、そうらしいね。少し聞いた」
「時々魔物を狩って魔素を消費しておかないと、巨大で危険な魔物が出現してしまう可能性があると言われています」
「とゆーことは、心ゆくまで魔物を狩っても怒られないのかな?」
「それはもちろん、狩り放題ですが」
「天国みたいなところだねえ」
え? 『魔の森』の何が天国?
魔素のせいで魔物の増殖度合いが並みでないエリアですぞ?
地獄みたいなところの間違いではなくて?
パルフェ様が懐かしむように言う。
「あたしの住んでた辺境ではねえ。生態系の保全が重要なんだよ」
「生態系の保全、ですか?」
聞いたことのない言葉だ。
どういう意味だろう?
「例えば弱い魔物を狩り過ぎたりすると、危険な肉食魔獣や強力な魔物がエサを取れなくなっちゃうじゃん? そーすると人里近くに出やすくなって、人を狙ったりするからヤバいんだよ」
「なるほど、そういうこともあるのですな」
「むやみと魔物を倒すんじゃなくて、ドラゴンのエサになりそーなやつはある程度残しとくとか、頭数管理しなきゃいけないの」
「ど、ドラゴン?」
ドラゴンって倒すと『ドラゴンスレイヤー』として英雄扱いされるあのドラゴン?
どうもパルフェ様とは魔物に対する認識が根本的に違うような気がする。
辺境人にとっての魔物とは、ドラゴンが当たり前なのだろうか?
「『魔の森』では頭数管理なんて考えなくていいんだよね? どうせ魔素のせいで魔物が湧いちゃうから」
「必要ないですな……。つかぬことを伺いますが、パルフェ様は魔物を倒したことがおありで?」
「うん、あるよ。あたしは故郷では冒険者やってたんだ」
冒険者とは傭兵稼業や魔物退治を生業とする者と聞く。
なるほど、そうだったのか。
一四歳の少女であるパルフェ様が冒険者をしてたとはどれだけ修羅の道なんだ、ということはさておくとして。
聖女が務まるほどの魔力をお持ちで回復魔法をガンガン使えるのだ。
パルフェ様なら超絶ヒーラーとして引っ張りだこだったに違いない。
「今日は聖騎士さん達が一緒だから頼りにしてるね」
「「「「はっ!」」」」
聖騎士は『魔の森』の管理を任されてはいても、魔物退治は本職じゃないんだが。
しかしパルフェ様の回復魔法を当てにできるのは安心材料ではあるな。
ヒーラーが魔物に襲われるようなことがあってはならない。
聖女を守れないなど聖騎士団の名折れでもある。
命がけでお守りせねば。
「しかしパルフェ様。杖をお持ちでないですが、よろしかったのですか?」
ヒーラーならば杖が必須ではないのか?
それとも冒険者時代は違う得物をお使いだったか?
「いや、あたしは杖を使ったことないんだ。それに急いで王都に飛んできたから、武器持ってくるの忘れちゃったんだよね。失敗した」
「それでナイフを借りて?」
「まーしょうがない。大きい魔物が出たらお願いしまーす」
パルフェ様がお持ちなのは、刃渡りが掌を広げたほどの小振りのナイフだ。
あくまで護身用のもので、とてもじゃないがメイン装備たり得ない。
パルフェ様御自身が小柄でもあるし。
いよいよ我々が気を引き締めねば……。
「あっ、ウサギだ。よっと」
「え?」
頭部に角を持つウサギの魔物アルミラージの首が一瞬で飛ぶ。
かなり遠い位置だったぞ?
何故首が飛ぶ?
そもそもアルミラージがいることに気付かなかったんだが?
「よーし、獲物第一号、おいしいやつだ! 幸先いいなー」
「パルフェ様、今のは何です?」
「王都ではあまり見ない技かな? いや、辺境でもあたしがたまに使うだけだったわ。ナイフに風の魔法をかけて切れ味を増すじゃん?」
「わかります。エンチャントマジックですな?」
魔法を使える剣士がしばしば行う手法だ。
剣に魔法属性を乗せて威力を増すというもの。
火の魔法を付与してアンデッドモンスターと対するシーンを見たことがある。
しかし今のパルフェ様の技は趣きが違うんだが?
「ナイフを投げたのではないですよね?」
「いや、土魔法で重力を操ると、自由に宙を動かせるんだよ。こんな感じに」
ひゅっひゅっと生き物のように滑らかな動きで宙を舞うナイフ。
ええ? 何それ?
見ようによっては雅だな。
魔法でそんなことが可能だったとは。
さすがにこんな大道芸のような技は見たことがない。
「飛行魔法を使えるくらいの土魔法の使い手なら、これくらいはできるんだよ。でも実戦で使おうと思うとかなり練習がいるね」
「……つまり風魔法と土魔法のコンビネーションで物理攻撃を行ったと?」
「そゆこと」
「……ウインドカッター等の風魔法を直接ぶつければよいのでは?」
その方が単純であるし、消費魔力も少ないのでは?
「いや、あたし直接攻撃魔法はあんまり得意じゃなくてさ。ウインドカッターなんか当てると食べるとこ少なくなっちゃうから」
ツッコミどころが複数。
パルフェ様ほどの使い手で魔法が得意でない?
魔物を食べる?
食べるところが少なくなるって、それは威力があり過ぎるってこと?
宙に浮いたナイフで器用にアルミラージを解体していくパルフェ様。
あっという間にバラバラだ。
すごい切れ味だなあ。
いや、技の方に感心すべきか。
「あったあった。はい、魔石」
「ありがとうございます」
魔石は魔物が一つ必ず持つものだ。
魔素を集積する器官であるとも、魔素そのものの塊であるとも言われる。
魔物を倒した時に得られる有力な換金可能アイテムであるが、パルフェ様にとっては肉の方が重要のようだ。
「そして角と毛皮とおにーく!」
「肉は食するのですよね?」
「どーしてそこ疑問形なのかな? 食べられないお肉に価値なんかある?」
「魔物の肉を食うということに関して、どうにも抵抗がありまして……」
「基本的に魔物って、魔素のせいでふつーの獣より狂暴くらいの違いしかないよ? だからふつーのウサギと同じようにおいしいよ?」
「我は魔物でない普通のウサギも食したことがありませんので」
「あ、そーだったのか。今日初体験だね」
食べないという選択肢はないらしい。
パルフェ様の味覚が確かであることを祈ろう。
合掌。
「魔物の数を減らさないといけないんだよね。イコールお肉が山積みだ! 次いこうか」




