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暗殺者ですよ魔王様

ある街を歩いていた時のことだ。


(魔王様、後ろから誰かつけてきているようですが…)


アンナがテレパシーで伝えてきた。


(ええ、10mぐらいの距離をつかず離れずついてきているようですね)

(どうします?)


少し探ってみたが、今はそれほど危険な感じはしなかった。


(ちょっと殺気感じますけど何かしてくるまでは放っておきましょう)

(いいのですか?)

(ええ、歩く方向が同じでただイライラしてるだけの人だったりしたら、捕まえたら気の毒ですし…)


だがその気配がどんどん近づいてきた。

そして人通りの少ない暗い道を通った時、その気配は飛びかかって来た。


「ぐ、な、なんだこれ…!?」


だがその気配は私たちの少し後ろで座り込んでしまった。


「近づいてきた時に魔力を解放しただけですよ」

「そんなばかな…化け物か…」


振り返るとまだ若い彼は魔力に圧倒されて動けなくなっていた。

手に持っていた鋭い刃物も地面に落としており、魔力を解放した時の風圧で道の隅の方へと吹き飛んでいた。

アンナが取り押さえるまでもなかった。


「さて、なぜ私を狙ってきたのか、答えてもらいましょうか」

「ぐ、誰が…」


するとアンナが怒ったような様子で、彼のすぐそばに走り込んで抑えつけた。


「どうします?答えないようなら拷問しますか?」

「いえ、やめておきましょう。それよりちょっと試したい事が…」


そして私は以前魔族の街で読んだ本に出ていた魔法を彼に試してみた。

初めて使うのでちょっと難しかったが…


「ふん、ふん、なるほど…」

「一体何を…!?」


頭に手をかざして動かしていると、魔力の圧のせいか、彼は完全に怯えていた。


「あー、私を暗殺するように頼まれたんですね…」

「!?」

「しかも…かなり安い額ですね…」

「!!??」


簡単な質問に対して答えが返ってくる程度のものだったが、一応読心術は成功だったようだ。

魔法をかけながら相手の脳内に「なぜ襲って来たのか?」と問いかけるイメージをすると、「依頼された」という簡単な返事が返ってくるような感じだ。


「そんなに安い額なんですか?」

「ええ、一週間ぐらい港で仕事すれば稼げる程度の額ですよ」

「うーん、こっちの通貨だとイマイチピンときませんが…」

「反撃される恐れもあるし、仮に成功したとしても追われる身になるわけですしね。リスク考えるとどう考えても割に合いませんよ」

「えーと…」


そう言うとアンナは考え込むようなしぐさをして指を折り数えだした。


「…なるほど、魔族の通貨に直してみましたが、我々の害獣退治の際の一人分の出動費用にも満たないですね…」


人間の国の通貨に慣れていないアンナは、私の説明の後魔族の通貨に変換して納得したようだ。

もっとも私の感覚では、アンナの挙げた例の額がピンとこないが。

その横で彼は真っ青な顔をしていた。

依頼の額まで含めて全て読み取られたのに驚いたらしい。


「おそらくですけど、彼への依頼者も誰かに依頼されたんでしょうね」

「そうなんですか?」

「直接依頼すると誰が依頼したかバレやすいでしょうしね。何人か経由してるんじゃないですかね」

「なるほど…」

「なのであなた、多分元の依頼からするとだいぶピンハネされてると思いますよ…」


そう言うと彼はちょっと怒ったような様子になった。

そこで私は魔力を抑えてこう言った。


「ずいぶん安く見られてたんですね…依頼者に…」

「あのやろう!」


すると彼は怒って走っていった。


「いいんですか魔王様、放っておいて」

「まあ被害無かったですしね。ただ、彼に見つからないように追跡して、依頼者が誰だったのかは調べてください。買い物などは私が済ませておきます」

「わかりました!」


気配を消して追いかけるのは得意だと言っていたので彼女なら依頼者を見つけることができるに違いない。

私は買い物を続け宿屋へと戻った。


次の日の昼頃、アンナが宿屋へと戻って来た。


「あの後、依頼者らしき相手の家に行ってドアを叩いていました。ただ誰も出てこなかったのでそのまま家に帰ったようです」

「ご苦労様です。どうやらたまたま留守だったようですね」

「はい。これからどうします?」

「…そうですね、その家のそばでちょっと見張っていましょう。案内お願いします」

「かしこまりました」


私はアンナの案内でその家の近くまで来た。

そしてその日の夕方頃、家の主と思われる恰幅のいい男性が家に帰ってくると、昨日私を襲ってきた男がナイフでその主を刺そうとした。


「!?」


私はその手をつかんで止めた。


「な、なんて力だ!?」

「腕力じゃないですよ。魔力で抑えてるんです」

「ぐ、ぐ、何するんだ」

「こんなことで罪を重ねてもしょうがないでしょ?今なら無罪ですよ」


そう言うと彼は少し落ち着いたのか、ナイフを落として逃げていった。


「さて…」


家の主の方を見ると、ガタガタ震えていた。

彼に刺されそうになった事より、私を見て驚いているようだった。

私とアンナは彼をつかんだまま無言で彼の家に入ってドアを閉めた。


「一体何を…」

「私の命を狙ったのは何故ですかね?」

「し、知らん!」


アンナと少し顔を見合わせた後、私は魔力を解放した。

そのせいで、部屋の物が吹き飛んだ。

皿が割れたのは申し訳ない事をしたと思った。


「ひ、ひい!」

「さて答えていただけますか?」


そう笑顔で問いかけると、彼は泣きそうな表情で依頼をしてきた者の事を話してきた。

話し終わった後も、涙目で気の毒になるぐらい震えていた。


「は、話したんだ!命は助けてくれ!」

「ええ。でも、こういう稼業からは足を洗った方がいいですよ」


そう言って二人で外へ出ると、家の中からすごい音が聞こえてきた。

どうやら彼が気を失って倒れたようだ。

彼がまっとうな職に就くことを祈ろう。


教えられた次の想像してたより若くたくましい依頼者の元に行くと、窓から逃げようとした。

それを見たアンナが、ものすごく素早い動きで捕まえてロープで椅子に縛り付けた。

以前もあったが、アンナが手早く逃げられないように縛り付けてくれたので、依頼者は完全に動けなくなった。

だが、彼に依頼した者はローブやマントで身を隠していて誰だかわからないと答えた。


「どうします?」

「…依頼が成功した時に知らせる方法を教えてもらえますか?」


だが男はどうしても答えようとしなかった。

魔力を解放して脅してみたが、あまり効果はなかった。

なかなか肝の据わった人物ではあるようだ。

読心術も試してみたが、どうやら効きづらい体質のようで効果があまりなかった。

本にも出ていたが、こういう効きづらい体質の人に読心術をかけた場合、返ってくる返答がノイズまみれになって読み取れないのだ。

さらに魔力を込めれば何とかなりそうだが、それだとこの人の体が持たないだろう。


「なかなか頑固ですね」

「ええ、商売ってのは信用ですからね。こういう表に出ない仕事でも信用は大事ですし、簡単には言わないでしょうね」

「拷問します?」

「いえ…」


おそらく拷問したところで言うとは思えない。

そこで私は彼のそばで顔を近づけて耳元でこう言った。


「私も身を守る必要があるので、どうしても依頼してきた相手のことが知りたいんです。成功した時の合図を教えてもらえませんか?」


そして彼の耳にそっと耳に息を吹きかけると、彼は顔を真っ赤にしながらその方法を教えてくれた。


「ありがとうございます」


そう言って彼を椅子に縛ったまま家から出た。


「しかしよく合図を白状させましたね…」

「ええ、話をしている間、ずっと私の顔などをチラチラ見ていたかと思うと目をそらしたりしてましたからね。それを利用したんです」


アンナは驚いたようなあきれたような顔をしてこっちを見ていた。


そして指定の場所でその合図をし、さらに報酬の受け取り場所へと向かうと、男が言っていたようにマントとローブで顔を隠した者が現れた。

こちらもローブとマントで姿を隠していた上に、運よく先ほどの男と身長も同じぐらいだったので、別人だとは気が付かなかったようだ。

近づいてきたところを気配を消して隠れていたアンナが捕らえた。

そして捉えた者のマントとローブをはぎ取ると、魔族の男性であった。


「貴様!魔王様と知って人間に暗殺依頼をしたのか!?」

「ああ、そうとも!」


激高したアンナに殴り飛ばされた男はそう答えた。

理由を聞いたが答えなかったので、例の読心術を試してみた。


「…魔王様?」

「…え?ああ…」


相手の心を読み取り意外な動機に気が付いた後、少し呆然としていた私は、アンナに呼びかけられて我に返った。

そして彼を魔法で気を失わせた後、彼から読み取った場所へと向かった。


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