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おかえりなさい魔王様

窓から朝日が入ってきて、外から小鳥の鳴く声が聞こえてきた。


「んー、よく寝た…」


ベッドから起き上がり、窓の外を見た。

今日もいい天気のようだ。

自宅からすぐの所にある宿泊所へと入ると、アンナがすでに起きて準備をしていた。


ここは私の故郷の村。



20歳の頃に村が滅び、旅に出てからどれぐらいの年月が経っただろうか。

大陸中を旅し、色々な物を見て魔族の国へと戻った。


「おかえりなさい魔王様」


そんな歓迎の声の中、各種の手続きをし魔王の座へと戻った私は、まず人間の国との交渉に乗り出した。


何度も人間の国の王に手紙を出したが最初は返事すら来なかった。


「やはり交渉は無理なのでは…」


大臣や将軍達にもそのように言われた。

長年モメていたせいもある。

それでも諦めずに何度も手紙を出し、何とか返事が来た。

だが、返事は丁寧な文章ではあるものの、罠ではないのかというような意識が透けて見えており、かなり疑われているようだった。

そこで私は護衛もつけずに一人で行くことを返事に加えた。

もちろん国内での反対も多かったが、あえて一人で行くことにした。


「しかし魔王様、いくら何でも護衛もなしで一人で行くのは無茶ではありませんか?」

「これぐらいしないと向こうの国も信用してくれないでしょうしね…」

「ですが…」

「この旅の間、色々な魔法の本も読んで練習しておきました。腕もかなり上げてますから大丈夫ですよ」

「しかし、以前のようにまた討ち取られでもしたら…」

「大丈夫です。今の私なら人間・魔族の両方の軍隊が同時に攻めてきても負けませんよ」


そう言って魔力を解放し、何とか説得することができた。

アンナも心配はしていたが、一緒に旅をしている間に私の魔力を見ているせいか


「必ず無事に帰ってきてください」


と言うだけで止めようとはしなかった。


そして私は指定された交渉の場所に向かった。

人間の国の首都にある王の城から少し離れた場所にある広めの庭園と言ったような場所だ。


「ここは今から重大な事が行われるので、立ち入り禁止だ」


人間の兵に呼び止められた。

庭園の中も外も、大勢の兵隊が厳重に警備していたのだ。

まるで大規模な軍事行動でもやろうとしているような様子だった。


「ええ、そのためにやってまいりました」

「???」


相手は不思議そうな顔をした。

私は見た目が人間と全く変わらないので、知らない者からすれば魔王どころか魔族にも見えない。

その為、兵からすると、魔族との交渉の場に人間の女性が何をしに来たのか、という感覚なのだろう。


「御覧の通り、国王様からの招待状もありますわ」


そう言って人間の国王から送られた招待状を見せた。

それを見た兵は驚いて、私を軍隊が警備している中の会場へと案内してくれた。


こうして、重武装した軍隊に囲まれた中、私一人で交渉の場に臨むことになった。

交渉中、私に恐れをなしたのか、一人の兵が突然矢を放った。

だが強固な魔法のシールドを張っていたため、そのまま矢は跳ね返って地面に落ちた。

その様子を見た者は、皆、私の魔力の高さに驚いた。

シールドに当たった矢が、ボロボロになって地面に散らばっていたからだ。

普通の魔力量のシールドだと、いくら何でもここまで矢は破壊される事はない。


「ももももも申し訳ない!部下が…」


人間の国の王は、真っ青な顔をして地面に擦り付けるように頭を下げて平謝りしてきた。

周囲の兵もかなり動揺していた。


「頭を上げてください、私なら大丈夫ですから…」

「し、しかし…」

「とりあえず、この辺をさらに詰めて話し合いましょう」


何とか宥めて頭を上げてもらい、さらに交渉を続けた。

しばらくは国王も震えていたが、交渉を続けるたびに収まっていった。


その後も辛抱強く何度も何度も交渉の機会を設けて話し合いを重ねていった。

その間、国内からも攻め込むべきだという意見が出てきた。

色々な分野に交渉が広がって長引いていたからだ。

その手の意見は説得して(魔力で脅して)抑えつけていった。

時にはエルフの国に仲介を頼むこともあった。

特に経済に関してはエルフ達が一番得意だからだ。


そしてその結果、和平条約が結ばれることになった。


国境は今まで通りだが、身分証があれば問題なく通れる程度には往来の条件を緩めた。

そのため、過去の紛争で故郷を追われた人間や魔族も国境を超えて引っ越せるようになった。

一方で犯罪者が国境を通るのは両国で協力し合って絶対に通さないような条約も作った。

もちろん交易も規模を拡大するようにした。

特にお菓子の類の輸入はさらに拡大するようにした。


そして何か問題があっても紛争で解決することは厳格に禁じた。


最初のうちはギクシャクしていたが、それも10年もしないうちに慣れていきどこも平和に共存するようになった。

習慣や考え方の違いでもめ事が起こる事は今でもあるが、大事になる事は無くなった。


そうして年月が経ち、かつて人間と魔族の間で争っていたのがウソのような平和な大陸となった。



「おはようございます。今日も頑張りましょうね」

「はい、魔王様」


和平条約締結の後、色々な政策を打ち立てて実行し、内政を各地の将軍が話し合って行うような仕組みを作った。

そして私自身は、名誉魔王といったような感じで一線から退く事にした。


「魔王様が身を引くとなると、我々だけで治めていけるのか、不安です…」


将軍や大臣たちはこう言ってきた。


「大丈夫ですよ。私が一度亡くなってから生まれ変わって戻って来るまでの間、立派に国を治めていたじゃありませんか」


不安そうにしていた皆は、その言葉で少し自信を取り戻したようであった。

実際かなり上手くやれていたのは事実だ。

そして私は各種の手続きを済ませて村へと帰る事にした。


その際、魔族の大臣にわがままを言って、育った村に私の家と畑を作らせた。

最初、宮殿のような家を建てようと計画していた。

大きな城壁に囲まれた広大な庭に噴水まであった。

そこで、


「こんな広い家は管理しきれませんよ…」


と説得して(魔力で脅して)、以前住んでいた村長の家より少しだけ小さい家を建てさせた。

間取りもほぼそのままだ。

そこで畑を耕しながら過ごしていた。


子供の頃はそうでもなかったのだが、人間と魔族との間で交易が盛んになり海洋ルートも開拓されると、この辺りはちょうど通り道として便利だという事で、宿泊施設や商店が増えて発展していった。

今では畑を耕しつつ、村長兼宿屋の女将として、にぎやかになった村で暮らしている。


そして今日も宿屋の女将や村長としての仕事をした。

今では部下や従業員も増え、私の仕事は大幅に減っている。


「お疲れさまでした魔王様」


アンナは相変わらず私の事を魔王と呼んでいる。

元々軍人の家系だったためにそういうのが抜けないらしい。


「お疲れさまでした」


とはいえ私もアンナもそれほど実務はない。

今はさほど忙しい時期でもなく、ほとんど部下や従業員だけでももう回る状態である。

そこで私は以前から考えていたことをアンナに言った。


「また世界を見に、旅にでも出ませんか?」

「いいですね」


こうして私たちは実務を皆に任せてまた旅に出ることになった。


旅立ちの日の朝。

小鳥の声が聞こえ、さわやかな風がそよぐ、いつもと変わらぬ青空の下。

私はかつての村の住人の墓と、私を迎えに来て魔力の覚醒に巻き込まれて亡くなった魔族たちの慰霊碑の前にやってきた。

この慰霊碑は、村に帰る時に、魔族の国に言って家や畑と一緒に建ててもらったものだ。


(お父さん、お母さん、村のみんな…そして迎えに来たみんな…もうあんな悲しいことが起こらないようにしたよ…だから、安らかに眠ってね…)


そして花を供えて私はアンナと旅に出た。



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