船旅ですよ魔王様
「あんたたちツイてないね…こんな時に港に来るなんて…」
大陸の北の方にある港町の宿屋に着くなり主人にそう言われた。
「一体どうしたんですか?」
主人に聞いてみると、港がある湾に巨大なタコかイカのような怪物が現れ船を襲っているらしい。
なぜか乗っていた魔族は襲われず、何とか逃げ帰る事はできているので幸い死者は出てないらしいが…
「少し前に大きな貨物船が襲われてねぇ…その時は少し荷物が海に落ちた程度なんだけど、それ以後船を壊すようになってしまってね…」
「あらら」
「湾の真ん中辺りまでぐらいしか来ないようなので、停泊させてる船は無事なんだけど、漁船も含めて船が出せないんだ」
「それは大変ですね…」
とはいえ雪が降っているので外で寝るわけにもいかず、とりあえず宿屋にチェックインして部屋へと案内してもらった。
そして防音魔法をかけてアンナと相談を始めた。
「困りましたね。ここから東の方の港まで行こうと思いましたのに…」
「陸路でも行けない事はないのですが、大陸の北の方のこの地方は雪が多くて道が塞がれてる可能性も高いですし、そもそも寒すぎてこの時期は陸路は厳しいですね」
「船なら大丈夫なんですか?」
「まあ船でも魔晶石動力の暖房入れられますからね」
「なるほど…」
私が育った人間の国の故郷と違い、魔晶石が豊富に使える魔族の国にはそういう物があるのだ。
「この寒さですと、海に潜ってその怪物倒すのも無理でしょうしね…」
「寒さに強い種族に耐寒魔法をかけても無理ですね…」
二人でため息をついて、とりあえず寝る事にした。
「おはようございます」
「おはようございます魔王様」
朝目覚めると、軽く食事をして昨晩ベッドの中で思いついたことを確かめるため、街に出た。
「ここを出た船の記録を残してるような所ってあります?」
「港のそばにある黒い屋根の大きい建物がそうだよ。とはいえそこでも船は出してもらえないと思うよ」
「いえ、ちょっと調べたい事がありまして…」
私は寒くて嫌がるアンナを連れてその建物へと向かった。
船便の管理をしている事務所だった。
「お忙しい所失礼します。以前ここで大きな怪物に襲われた船があったと思いますが、その時に紛失した貨物に何があったかってのは調べられますか?」
「んー、少し時間かかるけどいいかい?」
「はい、お願いします」
暖炉のそばで座っているアンナの元へと向かい私も暖炉の前で待っていた。
なおアンナの話によると暖炉の方がコスト的には安く済むので、船のような薪を燃やしづらい場所以外では魔晶石の暖房器具はあまり使わないらしい。
「いったい何をお調べで…」
「いえ、昨日の話を聞いてちょっと引っかかる事がありまして…」
「と言うと?」
アンナが首をかしげて聞いてきた。
「話からすると、大きな貨物船が襲われるまでは今までそんな怪物が出てなかったようじゃないですか」
「はい、今まで見たことが無い怪物だと宿屋の主人も言ってました」
「だとすると、その怪物は一体なぜその船を急に襲ったのかが気になったんですよ」
「なるほど…」
アンナと話していると、係員がメモ用紙のような物を持ってきた。
「えーと、これがその時紛失した荷物のうちはっきりわかっている物だね」
「ふむふむ…」
「細かい荷物なんかはちょっとわからないね…もしかして送ろうとしてた荷物があったのかい?」
「まあ、そんな感じですね…」
そう言って軽くはぐらかして手数料を払ってメモを持って事務所から出た。
外に出るとアンナは震えている。
「い、いかがですか、ま、ま、魔王様…」
寒さに震えながらアンナが聞いてきた。
「とりあえずここは寒いですし、宿屋まで戻りましょう」
宿屋に戻り温かい飲み物を注文して受け取り部屋に戻った。
アンナは人心地ついたようだが、それでも部屋の暖炉の前に陣取っていた。
「…ふむふむ、なるほど…」
「何かわかりましたか?」
「おそらくですが、この事件の発端は推測できました」
「え!?」
「その怪物を捕らえましょう」
「え!?ええ!?」
「では港に行きますか」
「…はい」
泣きそうな顔をしながらアンナが付いてきた。
「さて、私の予想通りなら…」
港についた私は魔力を解放し、道具を使い大き目の魔晶石を生成した。
そしてそれを湾の方へと放り投げた。
そこそこ大きな水柱が湾に立った。
港の方では皆不思議そうに見ている。
「…」
しばらく水面を眺め、海中の気配を探知していた。
「…来た!」
魔力を感じた方に、強力な魔法弾を撃ち込んだ。
港に泊めてある全ての船がその衝撃で揺れていた。
しばらくすると、巨大なタコのような怪物が浮かび上がってきた。
魔法でそれを持ち上げ港の広場へと運んだ。
「ふう、予想通りでした」
港の人々がざわめきながら集まって来た。
「一体どういうことなんですか?」
「そもそも始まりが違うんです」
「始まり?」
「はい。この巨大なタコの怪物が貨物船を襲いだしたんじゃないんです。貨物船が事故で荷物を落としてからこの怪物が生まれたんです」
「どういうことですか?」
「ちょっと待ってくださいね…」
そう言って私は怪物の体の中を魔法で探ってみた。
すると、私の予想通りに魔晶石が2つ見つかった。
魔法でそれを取り出し皆の前に並べた。
「あれ?さっき投げ込んだやつとは別のもありますね?」
「はい。おそらく、貨物船から落ちたやつです」
「え!?」
「この通り、貨物船から落ちた荷物の記録にも魔晶石が1個ありますしね」
「なるほど」
「その落ちた魔晶石を、偶然このタコが体に取り込んで巨大化したんだと思います」
「!!!」
「魔力が固まって生まれたモンスターも魔力が強いと大きくなりますよね?多分それと同じで…」
そのため、人間の国でも魔族の国でも、旅の指南書と言ったような感じの本には、人がいない場所で強い魔力を感じたら大きなモンスターがいる可能性が高いため近づくなと必ず書かれているぐらいだ。
実際、同じ種類のモンスターでも小さい個体と大きい個体では、じっくりと魔力を探れば魔力の強さが違うのがわかる。
なお、人間や魔族にはこの法則は特に当てはまらない。
もし当てはまるのなら、魔族は人間より身長の高い者ばかりになるはずだがそんな事はないし、私など山より大きくなっている可能性がある。
「なるほど!」
「その後、海の中から船を見つけると魔晶石がまた手に入ると思って襲ってきたんでしょう」
「ふむ」
「船を襲われても乗員が食べられなかったのはおそらく魔晶石が目的で、乗員は関係なかったからだと考えられます」
「なるほど…」
「推測にすぎませんが、おそらくそんな所だと思われます」
港の住人と一緒にタコを調べながら色々と推測を話した。
すると、どうしても試したい事が思い浮かんできて仕方がなかった。
「ちょっと失礼…」
巨大なタコの怪物の足を数センチほどの厚みに魔法で切り取り、指でつまんでみた。
「見た感じは普通のタコと同じような感じですよねー」
そしてその切れ端を炎の魔法で焼いて食べてみた。
魔力を込めすぎて焦げないように加減をしたが、うまくいって、いい具合に焼けていた。
「…うーん、普通のタコと味は変わらないですけど、大きくなりすぎてるのか味が薄い感じですね…」
思ったほどおいしくなかったので落胆していると、周りが静かになっているのに気が付いた。
「あれ?どうかしましたか?」
「…」
周囲を見回すと、私を見て絶句してるような様子だった。
キョロキョロと見まわしていると、少し青ざめたような表情でアンナが耳打ちをしてきた。
「…魔王様、タコなんて食べるんですか?」
「え?食べないんですか!?」
私がそう驚くと、周囲も驚いた。
話を聞くと、どうやら魔族はタコを食べる習慣が無く、むしろ食べるやつはおかしいという感覚らしい。
「私の故郷は海には面してませんでしたけど、育ての親に港町に連れて行ってもらったり、行商人が持ってきたりして時々食べてたのに…」
みんな食べないのかと落ち込んでいると、好奇心旺盛そうな男の子が一人やってきた。
「これ美味しいの?」
「うーん、ここまで大きいやつだと味は薄いけど美味しいですよ」
そう言ってまた足を薄く切って炎の魔法で炙って渡した。
「…」
男の子は食べ慣れないもののせいで躊躇していたが、意を決して口に入れて噛んでいた。
「本当だね。美味しいけど味が薄いね…」
その様子を見た他の若い魔族も興味を持って食べてみたいと言い出した。
中には包丁を持ってきて切って自分で焼いて食べる者も現れた。
パンに挟もうとする者もいた。
切れ端を鍋に入れている者もいた。
そしてその場で焼いて食べた誰もが口をそろえて
「意外と美味いが味が薄い」
という感想を述べていた。
一方、年配の住人とアンナは食べようとしなかった。
「本当にあんな物を食うのか?」といったような表情で、若いのが食べようとしているのを眺めていた。
こうして巨大なタコを退治し、問題無いのが確認されるまでの1週間、この港町で過ごしていた。
そして東の方の港へ向かう船に乗って私たちは旅に出た。
なお、その後、その港町ではタコを食べるようになったが、珍味扱いをされていると聞いてちょっと悲しくなった。




