裏道ですよ魔王様
「この大きさだとこのぐらいの額かなー?」
「わかりました、それでお願いします」
「毎度ありー」
路銀を稼ぐために、小さめの魔晶石を作り取引所で買い取ってもらった。
「さて、ちょっと美味しいものでも食べましょうかね」
「ええ、それはいいのですが…」
アンナが不思議そうな顔をしてこっちを見ていた。
「どうしました?」
「いえ、細かい話で恐縮なのですが…魔王様いつも小さめの魔晶石を作って売ってますよね?」
「そうですね」
「魔王様の力であれば、あれの何倍もの大きさのも作れると思いますし、その分金額も高くなりそうなんですが、なぜいつも小さめの物ばかりなのかなと…」
「あー、そういう事ですか」
確かに私の魔力をもってすれば数mサイズの大きな魔晶石ですら簡単に作れるので、魔族のアンナにはいまいち理解のできない事だったのかもしれない。
「まずあんまり大きい物だと持ち運びが不便ですよね」
「はい」
「かといって店の中で作っても驚かれるでしょうしね」
「なるほど」
「あと、魔族の国と違ってこっちの方だとそれほど大きな魔晶石は天然では採れないので、使う道具もさっき売ったぐらいのサイズを想定して作られてるんですよ」
「確かにこちらで見るその手の道具は小さめの物が多いですね」
「大きいのを入れる道具作っても、大きな魔晶石自体が滅多に手に入らないので小さいのをいくつも詰め込む事になりますしね」
「なるほど…」
アンナは納得したのかうんうんうなずいていた。
「あ、人通りの多い所に来ましたね。続きはまた後で…」
「はい」
そして私たちはその商店街で旅に使う物をいくつか買い込んだ。
「っつ!」
すると私の後ろで一人の男が声を上げて倒れていた。
「あらあら…」
どうやら私のサイフにかけている魔法で指にダメージを受けたらしい。
血が出ている。
「ダメですよ?人の懐に手を入れるのは…」
「は、はいっ!」
少し魔力を解放し指のケガを治した。
スリの男は私の魔力に驚いてそのまま慌てて逃げて行った。
「あとあんまり大きいのを作って大金を手に入れると、ああいうのに狙われやすくなりますからね…」
「なるほど…」
アンナに小声でそうつぶやくと納得していた。
その後店で甘い物を食べて宿屋に戻ろうとした。
「…?」
「どうしました魔王様」
「私が大きな魔晶石を作らない理由の一つがこれからわかると思います」
「え!?」
「ですが、しばらくは何があっても暴れないでくださいね」
「わ、わかりましたが…」
宿屋へ向かう途中、人通りの少ない道へと入った。
先ほど買い物をした辺りと、宿屋の前の大通りをつないでいる細い道だ。
すると目つきの悪い男が6名ほど出てきて私たちを取り囲んだ。
そのせいか、道の先に見えていた人達が、大慌てでどこかへと去っていった。
「魔…」
(まあ見ていてください)
テレパシーでアンナを制止してその場に立ち止まった。
(あ、一応シールドの魔法をうっすら表面に貼るのだけはしておいてくださいね)
(わ、わかりました)
「いよう姉ちゃん達、ちょっと付き合ってもらおうか」
男たちの中で一番体格の大きい男が私たちに声をかけてきた。
「…それは黙ってついてこい、って事ですかね?」
「ははっ!話がはえーじゃねぇか!じゃあちょっと来てもらおうか」
「え?ええ!?」
アンナが慌てているが、とりあえず男たちについて行くことにした。
(魔王様、こんな連中なら私でも…)
(いえ、今は黙ってついて行きましょう)
男たちについて行くと、人気のない街の東の端っこの方へと進んでいった。
ざっと見た感じ、東の方からやってきた人が泊る宿場町のようだが誰もいないようだった。
人でにぎわいそうな様子だが、まるで墓場のように静かだった。
そのさらに端の方の建物へ通された。
室内の装飾からすると酒場らしいが、目つきの悪い男たちしかおらず、他の客も店員もいなかった。
よく見ると、別の街から持ってきたと思われる、この街と別の名前が書かれている木箱がいくつか見えた。
私たちを取り囲んでいたのと合わせて12名のようだ。
皆私たちを品定めするように見ている。
「で、こんなところに呼び出して何の用ですか?」
こちらから先に、一番体格の大きい男に問いただしてみた。
「本当に話の早いねーちゃんだな!」
豪快に笑うと男は酒を一気に飲んだ。
「いやね、あんたらよく魔晶石を売ってるだろう?」
「!?」
「よくご存じですね」
「ああ、俺の部下がそういう話を持ち込んでくれてな…」
アンナが驚いているのをとりあえずスルーして話を進めた。
「んでだ。魔晶石なんて貴重品、そうそう簡単には見つけられないんだが、どうやって見つけてるのか教えてもらおうと思ってな」
「なるほど」
「で、どうやって入手してるんだ?」
「それを聞いてどうするつもりです?」
「なーにその魔晶石を俺らに譲ってくれればいいだけだよ」
「なるほど、それでお金を稼ごうって事ですね?」
そう言って私はその大男と同じテーブルに座った。
アンナは相変わらず困惑している。
「はっきりものを言うねーちゃんだな。気に入ったぜ」
「どうもいたしまして」
「で、どうやって入手してるんだ?魔族の土地から盗んできてたりするのか?」
どうやら魔族の土地に魔晶石が多いのは知っているようだ。
「いいえ。私は元々魔力を感知する能力が人一倍優れてましてね…旅をしていても普通の人が気が付かないような魔晶石でも見つけられるんですよ」
「…あれ?道具で作…」
アンナに「じっとしているように」という合図を送った。
「なるほど、じゃあその能力で見つけた魔晶石を俺たちによこしてもらおうか」
「いやだと言ったらどうします?」
平然とそう言うと男は椅子から立ち上がった。
他の男たちも立ち上がり、私たちを取り囲むように近づいてきた。
「なら言う事を聞くようになるまで、痛い目を見てもらうしかないな」
「なるほど、暴力で脅そうというわけですね?」
「まあたっぷり可愛がってもやるがな」
アンナが臨戦態勢を取っていた。
(衝撃に備えて逃げてください)
(え?ま、まさか!?)
(この人達飛び越えて外行けますよね?)
(もちろんですが…)
(ではお願いします)
テレパシーでそう伝えると、アンナは大慌てで彼らを飛び越えて外へと走っていった。
男たちはその様子を見てポカンとしていたが、すぐに私のそばへと近づいてきた。
「う…ううう…」
私が魔力を解放した瞬間、酒場の中は一瞬でメチャクチャになった。
まるで室内で竜巻が吹き荒れたかのようだった。
男たちも吹き飛び、中にはそのまま気絶してる者さえいた。
私はアンナが外に出たのを確認した。
「な、なんだこの魔力は…」
「あらご心配なく、フルパワーではありませんよ」
「え?そんなバカな…」
「もし私がフルパワーで解放していたら…」
まだ気絶していなかったリーダー格の男のそばに近づいてつぶやいた。
「あなた、今こうして私と話なんてできていませんよ?」
「ははは、まさか…」
男は一瞬びくっとし、そんなバカなと言ったような表情をした。
「あら、信じられませんか?じゃあもう少し解放してみますね」
しばらくすると、ほぼすべてが吹き飛んだ酒場跡に衛兵が集まって来た。
「一体何事が起ったのだ」
まるで爆発の跡を見るような様子で衛兵たちはそう言って酒場を見回していた。
「あ、こいつらは…」
気絶してる男たちを見ると、衛兵たちはこれはチャンスだとばかりに大慌てで縄をかけ始めた。
「こいつらさえどうにかなれば、他の連中も一気に一網打尽にできるかもな」
衛兵たちがそのような事を言いながら手際よく捕縛しているのを、少し離れたところでその様子を見ていると、アンナが戻って来た。
「いったい、これは何事ですか…」
「彼らはどうやら衛兵でも手を焼くほどの乱暴な連中のようですね」
「え!?」
「しかもあちこちの街にコネ持ってますね」
「盗賊団のようなものですか?」
「まあそれに近いですね。割と大き目な無法者の組織、とでも言えばいいでしょうか?」
「なるほど…しかし、なぜそんな者たちが魔王様に…」
「おそらくですけど、魔晶石を売っている者の話をあちこちから集めてたんでしょうね」
「ふむ」
「魔晶石はこっちだと高く売れて儲かりますからね。で、おそらくですけど、こういう容姿の旅の若い二人連れの女が魔晶石をよく売っている、って話があったんで、その魔晶石の入手先を知ろうと思って接触してきたんだと思われます」
「むむむ、なんという無礼な…」
怒りに震えているアンナをなだめすかしながら泊っていた宿屋へ向かうことにした。
「まあこれが魔晶石を派手に売らない理由の一つでもあるんですよ」
「え?」
「魔晶石が貴重なこちらの国ですと、大きいのを売ったり、派手に売ると目立ってこういう連中が寄ってくるのは当然ですからね…」
「な、なるほど…」
そして宿屋に戻り夕食を取り、シャワーを浴びて部屋でひと心地ついた。
「ところで魔王様、あの無法者連中の事にはいつ気が付いたんですか?」
「6人組の男に取り囲まれた時に、そういやこの街にはやっかいな人たちがいたなーって思い出したんですよ」
「え!?」
「そこでああやってわざと本拠地に向かってみたわけです」
「となるとあの無法者たちがこの街にいるってのは最初から知っていたわけですか?」
「はい」
「い、一体いつの間にそんな情報を…」
アンナが驚いている。
「私、ある村の村長に拾われてそこで育てられたのは知ってますよね?」
「はい。以前お伺いしました」
「そうなると、両親の元にも本当に『いろいろな』人が来てましてね…」
「…」
「ですので、村長である両親のもとで育った私もそれなりにコネはあるんですよ。表にも裏にも…」
そう言って微笑むと、アンナは少し青ざめた。




