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魔法学園都市ですよ魔王様

「魔族の国にはこういうのは無いんですか?」

「そうですね。各地の学校で教えたり、大き目の学校があちこちにあったりはしますが、魔法を教える学校だけで大きな都市になっているのはありませんね」


近くに来たついでに魔法を色々覚えて行こうということで、私達は魔法学園都市へと向かっていた。

人間の国にある最大の魔法の教育機関で、元々は小さかったのが各地から色々集まり巨大な大学になり、その周辺に学生街ともいうべき大きな街ができたのだ。

今では魔法に関する教育や研究、商売の一大中心地として栄えている。

魔晶石を使った道具なども、ここで作られている物が多い。

今まで見てきたところからすると、魔法の技術は魔族の方が上なのだが、ここの大学には独特な魔法の技術もあるそうだ。


「あ、見えてきましたよ」

「ずいぶん立派な城壁ですね」


周辺に堀があり、壁に囲まれているその様子は小さな城のようであった。

橋を通り壁の中に入ると、中はかなりにぎやかであった。


「思っていたより普通の街ですね。もっとこう巨大な図書館とか学校とかのようなイメージがありましたが」

「そうですね。あと私の想像してたのよりこう…なんか雑然としている感じがします」


アンナに言われて改めて街を見てみると、かなり複雑な立体構造の建物が多く、隣の建物まで通路が伸びていたり、4階辺りまで階段が伸びていてそこから入るようになっている高い建物などもあった。


「狭い所に無理やり増築を繰り返したんですかね?」

「おそらくそうでしょうね。魔法の技術を使えば可能でしょう」


借りた馬車を街の停留所に返し、宿を探すことにした。


「ん?」

「どうしました魔王様」

「いえ、人間の国の魔法の中心の割には、あまり魔力が強い人がいないように思います」

「…言われてみると、特別魔力が強い人間を感じませんね」

「何かの仕事で、皆どこかへ出かけてるんでしょうか」

「その割には、魔法使いらしい服装をしている人間は結構見かけますね。魔力は強くないようですが…」

「その人達もなんだか妙に疲れてる感じですね」

「はい」


そんな事を話しながら宿屋へと到着した。


「いらっしゃいませ」


借りた部屋は結構ややこしい構造の通路を通っていく3階だった。


「ところで、魔法使いの方々は今何かの事件で出かけておられるのですか?街に来てから魔力の高い方をほとんど見かけなかったもので…」


宿屋の主人に話を聞いてみた。


「あー、それがねお客さん、実はちょっと困った事が起こってて…」

「何か事件でもあったんですか!?」

「いやね、少し前にここから南の方にある山で山火事があったんだ」

「…確かにそんな噂が流れてました」

「それでここの魔法使いたち総出で消火やケガ人の治療に当たって何とか収まったんだけど、何せ規模が大きかったせいで、皆魔力欠乏症になってしまったんだよ」

「あらら…」


魔力欠乏症とは、魔法の使い過ぎで魔力がなかなか回復しなくなる病気だ。

それが治り魔力が普通に回復しだすまでは妙に疲れやすくなる症状が出る。


「それで街に疲れた様子の方々が結構いらっしゃったんですね…」

「ああ、それにもう1か月にもなるのにまだみんな治ってないんだ」

「1か月!?」


普通なら1週間で治る事が多く、1か月も続くのはかなり重症である。


「おかげで魔法に関する業務ができなくなっててね…」

「なるほど…」


宿屋の主人に話を聞いて部屋に入ると、いつものように防音魔法をかけた。


「1か月も治らない魔力欠乏症はかなり重症ですね」

「…」

「どうしました?」

「いえ、私たちの国だと、同じような症状が出た場合に食べる料理がありまして…」

「料理ですか?」

「はい。ある種の芋と香辛料などを混ぜて煮込んだ料理です」

「なるほど」

「魔族の間では魔力欠乏症になったらとりあえずこれを食えと言われるぐらい定番です」

「そんなに効くんですか?」

「ちょっと長い名前なんですが、我々の国では一般的に魔力芋と呼ばれるようになるぐらい効果は高いですね」

「なるほど、それをここの魔法使いの方々に食べさせれば治るって事ですか?」

「はい、人間にもエルフにも効果があるはずです。そういう言い伝えは残っています」

「では早速この街の方々に教えて…」

「ただ、いくつか問題がありまして…」


アンナはものすごく困ったような顔をした。


「大半の材料は人間の国でも売っているのは今までの旅で見かけましたが、メインとなる芋がこちらには無いようなんですよね」

「あら」

「我々の国でも北の方でしか栽培できないので、高級品と言うほどでは無いんですがそこそこ珍しい物でした」

「あらら…」

「あともう一つ、これが最大の問題点なんですが…」


アンナがさらに深刻そうな表情になった。


「調理がややこしいとかですか?」

「いえ…なんというかこう…出来上がった料理の見た目が最悪でして…」

「そんなにひどいんですか!?」

「はい、味は決して悪くないんですが、色合いが強烈過ぎまして…」

「そんなに…」

「子供の頃一度だけ魔力欠乏症になって食べさせられましたが、食べ物とは思えない色でした…」


アンナの表情からすると相当ひどい物らしいのが読み取れた。


「ただ効果は抜群でした。食べたら遅くとも2~3日で治ってましたし」

「かなりすごい効果ですね」

「はい。朝に食べて夕方頃にはもう治ってしまってる者もいたぐらいです」

「それはすごい!」

「効果に関しては下手な薬より高いです。ただやっぱりこう…見た目が…」

「なるほど…」

「初めて食べされられる子供は大抵泣いてます…」


何事も簡単には解決できないという事か…

とりあえず今日はもう遅いので寝ることにした。


次の日の朝、ふと思い出してアンナに相談してみた。


「エルフの国に来ている魔族の行商人はその芋売ってたりしますかね?」

「あー、どうでしょう…人間の国で見た事はないので、こちらでは売れないでしょうから持ってきている行商人は少ないと思います」

「うーん、でも往復で3日ぐらいで行ける距離ですし、ちょっと見に行ってみますかね」


この魔法学園都市はエルフの国に近い場所に位置しているのだ。


「可能性は低いですが、もしかすると持っている行商人は居る可能性はあります」

「では見に行ってみますか」

「はい魔王様。ただ、出来上がった物の見た目は本当にアレなので覚悟だけは…」

「はい…」


そしてまた馬車を借りてエルフの国へと向かった。


「あのすみません」

「へいらっしゃい」


そして魔族の商人達に例の芋を持っていないか聞いて回った。

だが、10軒ほど回ったが、人間の国では売れないので持ってきていないとのことだった。


「うーむ、やはり持ち込んでる魔族の方はおられないんでしょうかね」

「食料としてなら人間の国で育てられてる芋で普通に問題ありませんからね」

「ですね…」


それから更に探し回り夕方になった。

注文取引所のそばに来たのでそこにいる商人にも聞いてみたが、持っている魔族の商人は見つからなかった。

そして取引所で一番奥にいた商人に話を聞いてみた。


「あー、魔力芋かい?ちょっとだけならあるよ」

「あるんですか!?」

「ああ、今回は人間の商人の注文の品を手に入れるために北の方回ってきたからね」

「なるほど」

「その時ついでにそれ手に入れて売りながらこっちに来たんだけど、ちょっと余っちゃってね…」

「では、それ全部売っていただけますか!?」


こうして取引は完了した。

そして私たちは他の材料を買い込み魔法学園都市へと帰った。


「ところでこの芋の量ですと、何人前ぐらいになります?」

「そうですね…そこまで大量に食べる必要はないので、30人前ぐらいにはなると思います魔王様」

「なるほど…結構な量になりますね」


そして宿屋の料理人に頼んで調理を手伝ってもらった。

アンナの指示通りにやり、その芋のスープができた。

とりあえずと言うことで3人前の分量で作った。


「こちらで完成です」

「う…」

「う…」


私と料理人がほぼ同時に同じような言葉を発した。

アンナが言っていたように、強烈過ぎる色合いの液体が鍋にあった。

途中まではちょっと紫色をした芋のスープだったのだが、ある調味料の草を入れると何とも言えない色合いに変化してしまった。

何でもこの芋とその調味料の組み合わせが魔力欠乏症に効くそうで、片方を減らすと色はマシになるそうだがどちらを欠いても効果が激減してしまうらしい。


「確かにこれは食べ物に見えない色ですね…」

「そうだね…」

「はい、最初に申し上げた通りです…」


上手く説明ができないが、食べるのを拒むかのような嫌な感じの紫色になっている。

ブドウや紫芋などの紫色の食材とは違い、とにかくすごい感じの紫色だ。

作った料理人など、鍋から離れて直視しないようにしているようであった。

匂いはいいのだが…


「ちなみにこれ普通の人が食べても問題はないんですか?」

「はい、先日も申し上げた通り、味自体は非常にいいですし、健康な人が食べたからと魔力があふれ出して大変な事になるといった事はありません」

「害はないんですね」

「はい。ただ、この見た目ですから、健康な時にわざわざ食べようとする者はほぼいません…」

「な、なるほど…」


とりあえず味見をしてみようかと思ったが、やはり見た目のせいでどうしても食べようという気になれなかった。


「と、とりあえず私が…」


少しだけすくい皿に入れて本当に少しだけ口に含んでみた。


「…あ、確かに味は普通ですね」


むしろ料理人の腕のおかげでかなり美味しい。


「はい、見た目以外はごくごく平凡な芋のスープです」

「どれどれ…」


手伝ってくれた料理人も勇気を振り絞って味見をしたが、私と同じ感想を述べた。


「さて、これ完成したはいいけど…」


料理人が困ったような様子で話し始めた。


「…どうやって食べさせようか…」


最大の難問が立ちはだかった。


「んー、いい匂いだな…うわ、なんだこりゃ!」


スープの匂いにつられて、宿屋の主人が調理場へとやってきた。

彼もやはり色に引いている。

私達はこのスープが魔力欠乏症に効くので、病気の魔法使いたちに食べさせたいという事を説明した。


「なるほど…でもこの色だと店で出しても注文するやつはいないだろうなぁ…」


主人はもっともな事を言った。


「…あー、あいつに食わせてみるか…」


主人に聞いてみた所、以前世話をしてかなり付き合いのある魔法使いがいるらしい。


「あいつも欠乏症に悩んでるし、私の頼みだと断らないだろう」


と言うことで、その人を宿屋に呼んでもらった。


「いったいどうしたんですかご主人」

「いやね、魔力欠乏症で大変って言ってただろ?それでそれによく効くスープがあるんで、君に食べてもらおうと思ってね」

「おお、それはありがたい!」


そして現物を温めて持っていくと彼も当然の反応を示した。


「…これ食えるんですか?」

「はい、見た目はともかく味はいいですよ」

「何せ私が調理したしな」

「な、なるほど…」


とはいえこの料理人の腕を知っている彼ですらなかなか決心がつかなかったようだ。

この色では仕方がない。

だが、宿屋の主人が笑顔で彼をじっと見ているのもあり、彼は意を決して口に運んだ。


「…あれ?確かに美味いッスね。普通の芋のスープの味だ」


そう言うと彼は目をつぶりながら一人前を食べた。

そして彼は味「には」満足して帰っていった。


…翌朝…


「あ、昨日はどうも!」


スープを飲んだ彼が宿屋に朝一番にやってきた。


「いや、半信半疑だったけど、あのスープのおかげか今朝になるともう完全に症状が治まってたよ」


そう言って彼は感謝の言葉を述べ、嬉しそうに帰っていった。


「いや本当にすごく効くんですね」

「はい、私の知ってる限りでは、魔力欠乏症にあれほど効く薬や食べ物は他に聞いたことがありません」


そしてその日の夕方になると、噂を聞いた欠乏症の魔法使いたち数名がそのスープを食べに来た。

誰もが見た目で躊躇し勇気を振り絞って食べ、味「には」満足して帰っていった。

そして2~3日以内に皆治ったと報告に来ていた。


「いや本当に効くんだねぇ。ところであの芋どこで手に入れたの?」

「魔族の国の芋なんですけど、エルフの国でいくつか売ってまして…」


料理人が聞いてきたので芋の名前とエルフの国で買ってきたことを説明した。

アンナが正式な名前も言ってくれたが、長いので魔力芋と省略して言う事が多いのも付け加えた。


「なるほど、となるとまたエルフの国で注文しとかないとダメだな…」


後で聞いた話によると、魔力欠乏症の治療用に、定期的にいくつか買う事にしたそうだ。

こうして魔法学園都市の集団魔力欠乏症は収束を迎えた。


「しかしあの色はどうにかならないんですかね…」

「はい、我々の国でも長い間いろいろ試したのですが、ダメだったようです。ですので、目をつぶって飲むか、パイ生地やパンなどで見えないようにして飲むぐらいしかできなかったそうです…」

「なるほど…」


その後、この魔法学園都市では、魔力欠乏症対策としてこの芋のスープが広まっていったが、結局のところ色はどうにもできず、魔族と同じように「見ないで飲む」というのが定番になった


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