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里帰りですよ魔王様

「アンナさんの故郷はこの近くなんですか?」

「はい、正確に言うと一族の住んでいる村で、私の家族は任務のためにお会いした街の方へと引っ越しております」

「なるほど」

「私が7歳ぐらいの頃に村から出ていますので、過ごした期間で言うと引っ越し先の街の方が長いです」


次にどこに行こうかとなった際に、アンナの故郷のそばだというので寄っていこうという話になった。

アンナはついでに一族の人らにあいさつをしていくとの事。


「こちらです魔王様」


村に到着すると活気にあふれた鉱山の村という感じだった。


「お、もしかしてアンナちゃんかい?」

「お久しぶりですおじさん」


どうやら昔の知り合いらしい。


「里帰りかい?」

「ええ、たまたまこの辺りに来たもので…」

「へえ…ところでそちらの子は?」


そこで私は通行パスを見せながら自己紹介をした。


「この度、こちらの国との交易を任されたミレーナと申します。よろしくお願いします」

「こちらの国と言う事は人間かい?」

「はい」

「なるほど、まあごゆっくり…」


なんかすごく冷たい反応をされてしまった。

国境近くの他の街ほどではないが…

とりあえず宿屋に入った。


「先ほどは失礼しました魔王様…」

「いえ…この村では人間はあまり受け入れられてない感じなんですかね?ただ他所のように追い出そうとしたり明らかにうさんくさそうな目で見られてる感じはしないんですが」

「そうですね、他所とはちょっと違う事情がありまして…」


アンナの話をまとめると、次のような事だった。


・・・・・・・・・・


かなり昔に一人の人間の男が迷い込んできたらしい。

その頃はここもやはり排斥の機運が強かったのだが、その男は妙に人懐っこく次第に村になじんでいった。

そんなある日、男は村の住人と村のはずれにある山の方へと木の実を取りに行ったのだが、

「ここの山ってかなり鉱石ありそうだけど掘らないの?」

と言ったそうだ。

今まで農業メインだった住人にとっては未知の分野だったが、金属などの鉱石が出るのは村にとっても魅力だったのでやってみることになった。

男の指導で掘り進めていくと、鉄などの鉱石が色々と出てきた。

何故分かったのかと住人が聞くと、男は元々人間の国で鉱山技師のような仕事をしていたそうで、そういうのを見つける技術と知識を持っているらしい。

こうして村は農業と鉱山の2本柱になったそうだ。


・・・・・・・・・・


「なるほど…」

「その後、彼も亡くなったんですが、今でもお年寄りは話を出しますね。いい人だったと」

「よほどいい人柄だったんですね」

「はい、そのように聞いています。それでこの村は他の村と違い割と人間を受け入れていたんですが…」

「ですが…?」

「鉱山を支援してくれていた魔王様が人間に討たれてしまいましたので、皆人間に対して複雑な思いを持つようになりまして…」


納得できる話であった。


「ここでは正体明かした方が良くないですかね?」

「うーん、それだと目立っちゃいますしねぇ…」


この村はかつての私を支持している人が多いからとの事だが、とりあえず人間の行商人と偽るのは続けることにした。


そして身分を偽ったまま、村の見学をさせてもらった。

かつて発見された鉱山は色々な鉱石が大量に埋蔵されているようで、今でも尽きる気配はないらしい。

アンナの話によると、子供のころよりもあちこちに穴が掘り進められていて、鉱山が拡張されているとのこと。


「おーい、大変だー!」


村に来てから3日目の昼前。

鉱山に巨大なモグラの仲間が現れたらしい。

時々鉱山に現れては一か月ほど眠っていることがあるのだが、別にこちらに危害を加えてくるわけでもないのでわざわざ退治したりはしないそうだ。


「しかしあの場所で寝られるとちょっと困るな…」

「そんな都合悪い場所なんですか?」

「そうなんだよアンナ…」


アンナが村人に聞くと、その巨大モグラは今掘っている坑道の入り口から入ってすぐの所に居座っており、奥に入れなくなっているそうだ。


「追い払えないんですか?」

「ああ、こっちから手を出さない限りはおとなしいんだ。近くで掘っても気にせず寝てるぐらいなんだけど、追い払おうとしたりすると坑道の中で暴れて大変なんだ」

「それにああ見えてもかなり強いんだ…」


私が追い払えないか聞いてみると、下手をすると軍隊を出動させなければ抑えられないレベルで暴れ出すらしい…


「なあアンナ、軍隊呼べないか?」

「さすがに無理かと…それに仮に今から呼んだとしてもそんなにすぐは来れないでしょうし…」


村人がアンナに相談していたが、さすがに軍隊を呼ぶのは無理そうだった。

手続きや距離の問題でどうしても時間がかかる。

これではしばらく採掘ができないと皆が落ち込んでいた。


「…ん!?そうだ…」


私はある事を思い出し、村人にこの辺りにある植物が生えていないかを聞いてみた。


「あー、村には生えてないけど、ちょっと離れた丘の辺りになら生えてると思うよ」


私はそこへの道のりを教えてもらい、籠を借りてアンナとその丘へと向かった。


「魔王様、一体何をするんですか?」

「そうですね、まずはこの籠いっぱいぐらいにこの草をこのぐらいの長さで切って集めてください」


そして丘に生えている草を一本引き抜いてアンナに見せた。

アンナはどういうことなのかわからず不思議そうな顔をして草を集めていた。

そして籠いっぱいになると村に戻った。


「これをどうするんですか?」

「まず包丁で刻みます。その間にこのぐらいの大きさの桶を持ってきてもらえますか?」


草を水洗いして汚れを落とし持っていた携帯用の包丁で草を刻んだ。

白っぽい汁が出てきた。

かなりきつめの酸っぱい匂いで、鼻にツンとくる。

そしてアンナが持ってきた桶の中に、匂いに耐えながら水と刻んだ草を汁ごと入れてかき混ぜた。


「なんかかなり酸っぱい匂いがするな…」

「こんなもの何に使うんだい?」


私が妙な事をしていると思った村の人が見に来ていた。

村の人たちは草の汁の匂いのせいか、ちょっと顔をしかめていた。


「これをそのモグラのそばに置いておくんです。私が持っていきますからどの坑道に居るのか教えてもらえますか?」

「ああ、それなら…」


村人は首をかしげながらも案内してくれた。


「うわ、大きい…」


坑道の入り口から見ると、本当に大きなモグラが坑道を埋めるように眠っていた。

すっぽり坑道にはまっており隙間がほとんどないので、これだと奥に入るのは無理だ。

当のモグラは気持ちよさそうにいびきをかいているが。


「さて、どうかな…」


そっと歩いて桶を運び、モグラから少し離れた場所に置いてやはりそっと歩いて戻ってきた。

村人の話からすると、多少の足音ではおそらく起きないであろうが、やはり起こさないようにと忍び足になった。

何をしているんだろう…というような視線で村人たちは私を見ていた。

その時、坑道の方からガタッという音が聞こえた。


「???」


私もアンナも村人も坑道をのぞき込んだ。

すると、巨大なモグラは驚いたような様子で目を覚まし、そのまま坑道をバックして逃げて行った。

かなりバタバタしている様子だ。

大きいだけあって音もすごい。

その様子を見ていた村人とアンナは唖然とした様子で坑道を見つめていた。


「ああ、やっぱりモグラの仲間なんですね」

「いったいどういう事なんだい?」


村人は不思議そうに聞いてきた。


「モグラの仲間はあの草の匂い嫌がるんですよ」

「え?そうなの!?」

「はい、なのであの草が生えてる所にはモグラが来ないんですよ」

「なるほど…」


村人やアンナの話によると、魔族の国の中でもこの辺りではあまり生えてない草のようで、モグラがその匂いが苦手だという事も知られていなかったらしい。


「私の育ったところでは畑にモグラが来ないように、さっきの草の汁を溶かした水を畑に掘った穴に流し込んだりしてましたよ」

「へぇ…人間は面白い事やってるんだなー」


皆が感心している中、一人の魔族が質問してきた。


「ところでそんなもの畑に撒いて大丈夫なの?」

「ええ、大丈夫ですよ。茎などをろ過してしまえば普通に飲めますしね」


そう言って私は持っていたグラスにハンカチをかぶせ、その上から草の汁を注ぎ込んだ。

ハンカチを取り去ると茎などが入ってない汁が混ざった水が入っていた。

そこにさらに水を入れてちょっと薄めた。


「うん、これぐらい薄めれば飲めますね」


そう言って私は少しだけ飲んだ。


「くー、酸っぱい!でも結構おいしいですよ」


私が飲むのを見て、アンナや村人も試しに飲んでみたが、全員むせてしまっていた。


「人間はこんな味の物を飲むのか…」


村人はかなり驚いていた。

鼻を抑える者、涙目になる者、中には咳が止まらなくなり水を飲みに行った村人もいた。


「…でも、また困る場所でモグラが眠り出したら、これで追い払うとしよう」

「そうだね。放っておいても問題ない場所なら放っておいた方がいいけど」

「ああ、この匂いはちょっときつい。運ぶだけでも大変だ…」


こうして鉱山が再開する目途が立った。

モグラが暴れて鉱山の一部の設備が壊れていたが、すぐに修理できる部分だったそうだ。

数日以内にはまた採掘できるようになるらしい。


その日の晩、宿屋に戻るとアンナが質問してきた。


「魔王様、あんな酸っぱい物よく飲めますね…」

「…え!?」


アンナの話によると、あんな酸っぱい物を飲んだのは人生で初めてらしく、おそらく村人たちも同様だろうと…

私の故郷の村で皆が飲んでいたのに比べてかなり薄くしたはずだが…


「お酢で料理するともう少し酸っぱくなりますけど、そういう料理は食べないんですか?」

「おす?男が料理しても味は変わりませんよ」


不思議に思いアンナに色々聞いてみると、どうやら魔族は料理に酢を使わないらしい。

それどころか、酢に相当する調味料も無く、わざわざ酸味を強くするような事などしないという話らしい。


「え?じゃあかんきつ類とかも食べないんですか?」

「元から甘いのと、甘く煮込んだやつ以外は食べませんよ」


その後、酸味の強い木の実や果物の名前をいろいろと挙げてみたが、どれも魔族は食べないらしい。

アンナの話を聞いて、魔族は人間に比べて酸っぱい物が苦手な傾向があるということを初めて知った。


そして子供の頃にあった事を思い出した。

近所の友人たちとある酸味の強い木の実を初めて食べた時、自分一人だけやたらとむせて周りに笑われたのだ。

確か一時間ぐらいゲホゲホ言っていたはずだ。

友人たちには笑われたり、「そこまで酸っぱいか?」というような感じで不思議がられた。

私からすれば、逆に皆はなぜこんな酸っぱい物が平気なのかが不思議だったのだが…

これもよく考えると魔族である自分が体質的に酸っぱい物が苦手だったせいだと理解できた。

その後も酸っぱい物を飲み食いするとむせていたのだが、十五歳ぐらいになる頃には周囲の人よりちょっと弱いぐらいまで慣れていた。

その頃にはよく、昔はあれだけむせてたのに平気になった、というような事を言われるようになっていた。


「そうかー…でも慣れるものなんですね…」


こうして私は、きっと人と魔族はもっと近づくことができるだろうなと確信した。



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