第二章 彼視点 第三話──夢と君の間
彼を△△。彼女を〇〇。
読者様の名前や好きだった人の名前に置き換えてお読みください。
夜。
部屋の机に向かい、参考書を開いても、文字は頭に入ってこなかった。
窓の外から聞こえる虫の声が、やけに大きく耳に残る。
――また明日ね。
さっきの彼女の笑顔を思い出すだけで、心が不思議と強くなる。
ほんのなんでもない会話なのに、それだけで俺は前に進める気がした。
でも同時に、不安が胸をよぎる。
進路のこと。部活のこと。夢のこと。
そして、その夢を追うほどに、彼女との距離が遠ざかってしまうんじゃないかという恐れ。
(夢を選ぶことで、彼女と離れることになるのかな……)
叶えたい夢がある。ずっと前から目指しているもの。
そのためには卒業後、この街から離れなきゃいけない。
そして、今の自分には守りたい笑顔がある。この2つを同時に叶えられるのだろうか。
ここ最近はこの事で心が揺れ続けていた。
僕は窓を開けて、夜空を見上げる。
高い空に瞬く星を見ながら、思わず呟いた。
「……この先どうすればいいんだろうな」
夢を追えば追うほど、描いた未来が霞んでいく気がする。
足がすくんで、前に進めなくなりそうになる。
それでも――諦めたくはなかった。
「……絶対に諦めない」
声に出すと、不思議と胸の奥に何かが刺さるような痛みを感じた。
今はまだ彼女の笑顔を守りたいという想いと、夢を叶えたい想い。揺れ動く心がどうしても落ち着かない。
高校生活も残り7ヶ月。長いようで短い、きっとあっという間に過ぎていってしまうだろう。
特に楽しい時間は過ぎていく日々も何倍も早く感じる。彼女と出会ってからより強く感じていた。
――どんなに揺れても、俺は走り続けるしかない。
机の上に開きっぱなしの参考書に向かう。
机のライトを点け、気持ちのスイッチを入れ直す。
思い返すのは今日の彼女との会話。
くだらないことで笑い合って、からかって、時には真面目に励まし合って――。
なんでもない会話なのに、それがたまらなく幸せだった。
彼女と笑えるだけで、明日もそして今も頑張ろうって思える。
きっとそれは、どんな未来が待っていても変わらない。
夢に向かって走る自分を、いつだって支えてくれるのは彼女だった。
だからこそ、失いたくないという気持ちが胸を強く締めつける。
「……今という時間を大切にしよう。」
小さく呟いてから、ノートを開いた。
夢を追うことと、彼女を大切に思うこと。
その狭間で揺れながらも――明日もまた彼女に会える。
それだけが、僕の心を温かくしてくれた。